#370 【科学系ポッドキャスト】糖尿病に対する運動療法の効果は腸内細菌が決めている?

更新日: 2023/10/06

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毎週金曜日夜19:30に更新中の腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔がお届けします。

今月も科学系ポッドキャスト週間がやってまいりました!

科学系ポッドキャストのテーマ企画は、毎月10日に共通テーマについてそれぞれのポッドキャスト視点で語る取り組みです。

毎月10日前後は科学系のコンテンツを配信するポッドキャスターが、様々な視点で共通テーマについて語ります。今月のホストは、サイエンスラバーさんでテーマはスポーツになります。こちらのツイート、または記事から参加番組を確認できます。

ツイート:https://twitter.com/scilover_radio/status/1707648127250104509

記事:https://note.com/leal_jpn/n/n851bcf763d99?sub_rt=share_pw

だんだんこの企画の規模が大きくなってきて、今回は計17番組が参加予定です。

ちなみに先月のテーマは「環境」でした!まだ聴いていない方のために、リンクを掲載しておきます。是非チェックしてみてください。

腸内細菌相談室は、「スポーツ」を運動と少し広く捉えて、運動と病気、そして腸内細菌の切り口でお話をしていきます。運動が健康のために大切であることは周知の通りですが、それは病気の治療においても重要である場合があります。その1つの例が糖尿病です。

しかし、困ったことにすべての糖尿病患者に対して運動療法が有効ではありません。運動療法の効果が見られないばかりか、逆効果である例も確認されています。そんな運動の治療効果に個人差が見られることを腸内細菌の観点で研究した臨床試験についてお話します。

腸内細菌相談室では、腸内細菌や腸内環境にまつわる研究結果を元に、最新の知見をお届けする番組です。継続的にエピソードを楽しむことで、腸内細菌について詳しくなることができるので、ぜひフォローをお願いします!

糖尿病とは?

まずは、糖尿病という疾患について理解を深めます。ここでは糖尿病情報センターの記事をもとに、糖尿病とは何かを考えます。ここでは、糖尿病の概要について列挙します。

  • インスリンは膵臓から分泌されるホルモンで、細胞にグルコースが取り込まれるために重要。
  • 糖尿病ではインスリンが正常に働かないことにより血中グルコース濃度(血糖値)が増えてしまう。
  • インスリンが正常に働かない経路としては、① インスリンの分泌量が不十分、あるいは② 細胞におけるインスリンの感受性が低下している。
  • インスリンがうまく働かないことで血糖値が慢性的に増加し、血管を傷つけることで心臓病や失明、腎不全、足の切断など重篤な合併症を引き起こす場合がある。

したがって、糖尿病を考える上では、血糖値、インスリン、膵臓が重要なキーワードになることを覚えておいてください。また、血管を傷つけるということは全身のあらゆる臓器に不調を来す原因が生じることも大切なポイントです。

参考文献

糖尿病とは、国立国際医療研究センター 糖尿病情報センター、2022年4月14日掲載、Accessed: 20231004、URL: https://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/010/010/01.html

糖尿病は生活習慣病の一種であり、食事や運動など私達が日々行っている(無意識的に選択している)生活週間がリスクファクターとなって、発症する疾患です。ほとんどの人が糖尿病という疾患を知っているように、全世界的に罹患率が高く問題となっています。

では、糖尿病になってしまったらどのように治療するのでしょうか。

糖尿病の治療には、運動療法、食事療法、薬物療法が取られます。薬物療法では、例えばインスリンの分泌に関係する薬が処方されます。食事療法では、糖尿病に密接に関連する食習慣に焦点を当てて、食事の内容に介入することで糖尿病の治療を行っていく方法です。運動療法は、食習慣と共に糖尿病に密接に関係する運動習慣に焦点を当てて、週間的な運動を取り入れることで治療を目指します。

しかし、冒頭にてお話したように、運動療法が糖尿病の治療に功を奏すかは、個人差によるところが大きいです。そこで、今回紹介する研究では、運動療法の効果がどのような個人差に由来するのかを調査していきます。

運動と糖尿病と腸内細菌叢

今回ご紹介する研究は、Cell Metabolismに2020年掲載の"Gut Microbiome Fermentation Determines the Efficacy of Exercise for Diabetes Prevention"です。

先行研究では、糖尿病における運動の治療効果に個人差がある原因は、遺伝的な違い、あるいは遺伝子の外側でおこるエピジェネティックな違いにあることが調査されています。一方、この研究では、近年数多くの疾患との関連が注目されている腸内細菌叢を個人差の原因であると仮定しています。運動と腸内細菌が関係することは様々な論文で指摘されていて、アスリートの腸内細菌叢が一般人とは異なるという観察結果、運動が腸内細菌叢へ与えるという研究結果が確認されています。ですから、糖尿病に対する運動療法の個人差に腸内細菌叢が関係するというこの仮定は突飛なものでは無いのです。

本研究では、はじめに39名の糖尿病予備群にあたる男性を集めます。そして、12週間運動を集中的に行うグループと、何もしないグループの2群にランダムに振り分けます。

ここでの運動とは、週3回、香港大学スポーツ運動センターに通い、インスリン抵抗性(感受性が下がる性質)を改善するとされる有酸素運動、筋力トレーニングを行います。中身がなかなかハードで、10分間のウォームアップ、高強度トレッドミルインターバルを始めとした10分の運動を3セット、10-15分のクールダウンとストレッチを行うというものです。これらの運動は監督下で行われるので、自分が糖尿病ならこちらのグループに振り分けられたいです。自分で運動習慣を作るのって大変なので。

12週間運動を行った結果、グループ全体では体重、体脂肪が減少しました。また、インスリン感受性、心肺フィットネス(筋肉へ供給される酸素と筋肉で消費される酸素量の指標)などが改善傾向にありました。

一方で、大切なのは個人差です。グループ全体では運動療法は成功していますが、やはり効く人と効かない人がいるのです。そこで、HOMA-IR (Homeostatic Model Assessment of Insulin Resistance) というインスリン抵抗性の指標によって、運動療法が効いた人と効かなかった人の2群に分けました。

2群間で体重や体脂肪の推移は似ていたのですが、一方空腹時インスリン濃度やHOMA-IR指標は異なることが確認されました。

今回調査したコホート内で運動療法が有効な群とそうでない群が別れたところで、腸内細菌叢との関係を調べていきます。

本研究では、12週間の運動プログラム前後で糞便のショットガンメタゲノムシーケンシングを行い、腸内細菌叢の調査を行います。調査の結果、運動の前後で、短鎖脂肪酸 (Short Chain Fatty Acid : SCFA)の産生に関与する腸内細菌6種類が変化していることが確認されました。

先行研究では、短鎖脂肪酸の一種である酪酸産生菌の減少が2型糖尿病に関連することが報告されています。

では、運動療法が効いた群とそうでない群に分けるとどのような違いが見えるのでしょうか。

細菌叢コミュニティ全体としての違いは、2群間で見られませんでしたが、興味深い結果が得られています。運動療法が有効であったグループと比較して、有効ではなかったグループと何もしなかった対照群の腸内細菌叢が似ていたということです。また、運動療法が有効であったグループにのみ、Bacteroides xylanisolvensの減少とStreptococcus mitisの増加が確認されました。他にも、先行研究では炎症に関連し日本のコホートにおいて肥満の人に多く見られるAlistipes shahiiが、運動療法が有効であったグループでは減少していた一方で、有効でなかったグループでは増加していたという対照的な結果も得られています。他にも、先行研究でインスリン抵抗性に寄与すると考えられている細菌が減り、短鎖脂肪酸の一種であるプロピオン酸の増加に関連する細菌が増えるなど、臨床試験の結果に一致する細菌存在量の変化が、運動療法が有効であったグループには確認されています。

他にも、腸内細菌叢が持っている遺伝子機能を比較すると、有効グループでは短鎖脂肪酸の生合成や分岐鎖アミノ酸の分解に関連する遺伝子機能が確認された一方で、有効ではないグループでは有害な化合物であるIndoxyl Sulfate、p-Cresyl Sulfateの遺伝子機能が確認されました。

他にも色々解析結果はあるのですが、最後に糞便微生物移植の結果についてご紹介します。抗生物質を投与したマウスに対して、運動を行った前と後の人の便を移植することで、マウスに与える影響を評価しています。これは、腸内細菌叢がマウスや人などの宿主に対して与える影響の因果を突き止める上で行われる一般的な方法です。

結果として、マウスの血中グルコース濃度やインスリン濃度は、便のドナーに類似することが確認されました。

たくさんの結果が出てきましたが、簡潔にまとめて見ましょう。

  • 糖尿病患者に対する運動療法の効果には個人差がある。
  • 個人差の一部は、腸内細菌叢によって説明される。

ちなみに、今回のデータを用いた機械学習モデルの構築によって、腸内細菌叢から運動に対する糖尿病予備群の血糖反応の予測がある程度できるようになったとも説明しています。

参考文献

Liu Y, Wang Y, Ni Y, et al. Gut Microbiome Fermentation Determines the Efficacy of Exercise for Diabetes Prevention. Cell Metab. 2020;31(1):77-91.e5. doi:10.1016/j.cmet.2019.11.001

おわりに

いかがだったでしょうか。運動をすることによって生じる治療効果が腸内細菌叢によって変化することを示唆する研究でした。運動の一貫でスポーツに取り組むことで、仲間ができたりやりがいができたりするというのは非常に良いことです。しかし、治療法の観点からは悪影響が出てしまう場合もあるので注意が必要であり、その個人差は腸内細菌叢が一部を説明するという研究は示唆に富みますね。

ちなみに今回はあえて使わなかった、レスポンダーとノンレスポンダーという言葉があります。ある治療を行ったときに、有効な群をレスポンダー、無効な群をノンレスポンダーと呼んだりします。薬にせよ運動にせよ、効果が現れるかどうかは、あるいはその程度はどれくらいかというのは個人差があり、その個人差を腸内細菌叢によって説明する研究が近年行われています。

あなたの個性とも呼ぶべき腸内細菌叢は、実は臨床現場でも注目され始めているんです。

今回は、科学系ポッドキャストの共通テーマであるスポーツを運動と捉えて、疾患の治療法と腸内細菌叢についてお話しました!

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この番組は、メタジェンセラピューティクス株式会社の提供でお送りいたしました。

それではまた来週お会いしましょう!バイバーイ!

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