#372 【書評:うんち学入門】うんちからひもとく生物と世界

更新日: 2023/10/20

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投稿者:

  • Daisuke Suzuki

#372_note

毎週金曜日夜19:30に更新中の腸内細菌相談室。 室長の鈴木大輔がお届けします。

突然ですが、皆さんは"うんち"についてどれくらい知っていますか?もしかしたら、今日出会ったかも知れませんね。では、うんちとは何でしょうか?体の中でどのようにできて、何から出来ているのでしょうか?意外と難しい質問です。

今回は、現代においては"身近だけれど遠い存在"のうんちについて著した"うんち学入門 生き物にとって「排泄物」とは何か"の書評を通して、うんちについての理解を深めていきましょう。著者は増田隆一先生で、北海道大学理学部で分子系統進化学、集団遺伝学、動物地理学について研究されています。書籍および著者の情報は下記リンクからご確認頂けます。

書籍情報:https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000324565

増田隆一先生のプロフィール:https://www2.sci.hokudai.ac.jp/faculty/researcher/ryuichi-masuda

本書では、うんちを巡る生物進化をはじめ、うんちの成分やうんちの利用について、"ミエルダ"と"うんち君"が対話を通しながら理解を深めていきます。会話をベースに知識を深めていくので、堅苦しさがなく、楽しく読みす進めるのが魅力の一冊となっています。

今回は、そんな一冊の書評と共に、うんちについて再考するエピソードにしたいと思います。

腸内細菌相談室では、腸内細菌や腸内環境にまつわる研究結果を元に、最新の知見をお届けする番組です。継続的にエピソードを楽しむことで、腸内細菌について詳しくなることができるので、ぜひフォローをお願いします!

概要と書評

早速本書の概要からお話します。

本書では一貫して「うんち」をテーマにストーリーが進みます。世界に産み落とされて、自分のことがよくわからない「うんちくん」と偶然出会ったミエルダが、対話を通してうんちに対する理解を深めていきます。

理解を深める視点は、うんちにまつわる"時間"、"空間"、"機能"です。

ここでの時間とは、うんちができるまでという"比較的短い時間"から、生命が誕生してからうんちを作れる機能を身につけるまでという"長い時間"までを指します。また、空間としては消化管という"比較的小さい空間"から、生物がうんちを排泄してから物質循環するまでの流れをたどる"大きな空間"を指します。さらに、うんちの特性を利用する生物や、学術研究に利用するヒトなど、うんちの機能についても幅広く言及されています。

あとがきでは、当初は先端的な研究内容を盛り込んだ内容にする予定だったが、より多くの読者へ届けるためにストーリー調に変更したということです。

続いては書評です。

本書では、うんちのお話を通して、生物の成り立ちや生物学の基礎について知ることが出来ます。DNA、RNAなどの核酸を始め、タンパク質や脂質といった生物の構成要素から、進化生物学、発生学的などなど、生物学の総復習が出来てしまいます。

そして、本書は、次の点から斬新だと感じました。

  1. ストーリーを進めるごとに理解を進められる点
  2. うんちの成り立ちを考える上で、生物進化の話を交える点
  3. 生物学の幅広い観点でうんちについて議論をしている点

1点目については、多くの学術書に見られるような堅苦しさがなく、一般の読者にも読みやすい内容になっており、この点は著者の狙い通りになっていると感じました。また、堅苦しさがないのに、専門的な内容もふんだんに盛り込んであることが魅力だと感じました。特に、細胞ができるところから、多細胞生物になって、脊椎動物になって行く様を想像できるのは、とてもおもしろいです。これは次の要点でもお話します。

2点目は、本書を呼んで良かったと思える点でもあります。これまで腸内細菌相談室にてお話している通り、消化管の組織学的な構造や機能については、色々と勉強をしてきました。しかし、生物進化の観点、すなわち消化管と関連臓器はどのようにして自然淘汰により形成されてきたのか、という観点は全くかけていました。例えば、うんちを作るためには何故、三胚葉性の生物である必要があるのか、何故体腔が重要なのかという点について、本書は答えてくれています。勉強になりました。

3点目は、様々な分野の生物学的知識を導入することで、あらゆる場面でうんちとの関連について考えるようになれるので、日々の生活から学びを得られるきっかけづくりになります。腸内細菌相談室ではうんちを腸内細菌、腸内環境、疾患の観点からお話してきていますが、もっと多角的にうんちを捉えるきっかけになります。最も身近にして、人類が疎んでいた存在は、たくさんの発見をもたらしてくれます。

以上3点から、本書を読んで良かったと思います。勉強になりました。ただ一点、腸内細菌などヒト細菌叢のヒトでの生息数、盲腸の位置については、今後読む方は注意して読み進めて頂ければと思います。

うんちについて考える

では、うんちについて考えます。下水処理のインフラが整う以前は、うんちや尿は至って身近な存在でした。以前観た、"せかいのおきく"という映画では、江戸時代に便所の糞尿を汲み上げて売り買いする商売をするという職業が登場します。2023年の現在では考えられない職業です。

しかし、化学肥料のない当時は有機肥料が大切な資源でしたし、その一端をうんちも担っていたわけです。そこから百数十年の時を経て、トイレと道端でしかうんちを見なくなりました。"くさい"、"汚い"といううんちに対する感覚はヒトとしては自然なものですし、技術を手にしたらそれらを遠ざけるというのはヒトの自然な欲求だと考えます。また、本書でも述べられていた通り、下水処理のインフラが整うことで糞尿を媒介とした感染症のまん延を未然に防ぐことができるというのも、疫学的に重要な発展です。

ここまでは良いとして、私達にとって身近であったうんちと接する時間が極端に短くなったことの弊害について考えてみましょう。過去の放送でお話したブリストル便形状尺度、浮くうんちと沈むうんち、うんちに含まれている大腸がん関連菌など、私達の腸内環境を色濃く反映する有機物こそがうんちです。作中では、うんちは自分たちの分身であると表現されている通り、うんちには私達の食生活から体内の情報が詰まっています。ヒトから採取されたサンプルのことを生検体(バイオプシー)と呼んだりしますが、糞便は侵襲性の低いリキッドバイオプシーとして認識されています。

うんちの頻度や質、色やにおいなど、うんちが静かに発する情報はたくさんあります。日々、うんちと対話する時間が短いからこそ、むしろ貴重な時間として捉えることで、腸内環境や腸内細菌に目を向けるきっかけが増えれば良いなと思います。

おわりに

本書でも度々言及される通り、うんちが出るとはすなわち生きているということの表れです。食物が正常に体内で分解・吸収され、代謝が行われると共に、不必要になった私達の組織の一部や腸内細菌などが出ていきます。

私ごとですが、ドイツの学会から帰国して10日間ほどは便秘になってしまいました。このときに、普段の生活で規則的に便意を感じて排便するということがどれだけ幸せなことか、ということを感じましたし、うんちを気持ちよくできることはそれだけで幸せであるということも感じました。

もし排便に異常を感じていたら、一度腸内環境や腸内細菌、生活習慣に目を向けてみてはいかがでしょうか。少し良くなるだけでも、気持ち良い日々になると思います。便秘の基礎については、"便秘集中講義"を参考にしてみてくださいね。

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この番組は、メタジェンセラピューティクス株式会社の提供でお送りいたしました。

それではまた来週お会いしましょう!バイバーイ!

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