#375 【科学系ポッドキャストの日】腸内環境の未解決問題

更新日: 2023/11/09

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投稿者:

  • Daisuke Suzuki

#375_note

毎週金曜日、19:30に更新中の腸内細菌相談室。室長の鈴木大輔がお届けします。

今回のエピソードは【科学系ポッドキャストの日】の共通テーマに沿ったエピソードをお届けです!"科学系ポッドキャストのテーマ企画は、共通テーマについて様々な番組の視点で語る企画です。"、今月のホストは去年の11月と同じ、サイエントークさんです!ホスト頂きありがとうございます。概要欄の特設ホームページには参加番組のまとめやプレイリストがあるので覗いてみてください。

科学系ポッドキャストの日の企画は、昨年11月にサイエントークさんが中心となってスタートしてから、1年が経過しました。腸内細菌相談室も、1年前から参加を始めて今日に至ります。発足当初と比べて、番組の和がかなり広がって、少しずつですがポッドキャスト界隈に与える影響も大きくなってきたように思います。そんな企画に最初から伴走できて、とっても嬉しいです。

今回のテーマは"未解決"ということで、多くの科学系ポッドキャスト番組が"未解決"についてお話します。

本編では、室長が把握している、腸内環境研究の2023年11月現在での未解決な課題についてお話していきます。

腸内細菌相談室では、腸内細菌や腸内環境にまつわる研究結果を元に、最新の知見をお届けする番組です。継続的にエピソードを楽しむことで、腸内細菌について詳しくなることができるので、ぜひフォローをお願いします!

腸内環境研究のこれまで

腸内環境の未解決な課題についてお話するために、まずは腸内環境研究のこれまでについて概略をお話します。これまでの研究の歴史を大きく分けると、前半は培養、後半はメタゲノム解析と培養が主流です。培養研究にメタゲノム解析が加わったのは、ヒトゲノム計画以後に、次世代シーケンサーが普及してから、塩基配列の読み取りコストが劇的に低下したことが原因として挙げられます。

培養については、20世紀後半に日本でも盛んに行われており、日本における腸内細菌研究のパイオニア、光岡知足(みつおかともたり)先生が有名です。光岡知足先生は腸内細菌とヒトの健康について時代に先駆けた研究をしており、腸内細菌の培養法についても整理されています。光岡先生以前にも、ヤクルトの開発者であり創業者の代田稔先生は、腸内細菌、乳酸菌やプロバイオティクスについて研究をしていました。このように日本では、培養に基づいた腸内細菌や腸内環境の研究が行われていた過去があります。

メタゲノム解析と培養については、腸内細菌叢の全体像が塩基配列を通して網羅的に解釈されるようになり、研究分野の広がりを見せました。塩基配列を読み解く次世代シーケンサーが開発されてから解決された"未解決な課題"としては、培養に非依存的に腸内環境の微生物を調べることができるようになった点にあります。それまでの技術では、腸内細菌叢全体を網羅的に研究することはできず、あくまでも培養によって腸内細菌を個別具体的に研究することが主流でした。

以降、世界中で腸内細菌叢や腸内環境は盛んに研究されており、日々新しい知見が発表されています。しかし、メタゲノム解析と培養研究が並行して行われるようになったのは、過去15年の話です。つまり、腸内細菌叢を網羅的に読み解くことができるようになったのはごく最近の話であり、未だ分かっていないこともたくさん有ります。だからこそ、腸内環境や腸内細菌の研究が盛り上がっているとも言えるでしょう。

腸内環境研究の未解決課題

ここからは、腸内環境研究の未解決課題についてお話します。本節の限界点としては、腸内細菌相談室を運営している鈴木大輔の知っている課題に限られる点にあることです。私は普段は、コンピューターを用いて研究をしているので、実験の分野における未解決問題はカバーできていません。

ここでは、腸内環境研究の未解決課題について、よく知られた課題とマニアックな課題を1つずつお話します。よく知られた課題については成り立ちが明確ではない腸疾患が存在すること、マニアックな課題については存在量の少ない腸内細菌の研究には限界があることです。

成り立ちが明確ではない腸疾患とは、例えば潰瘍性大腸炎やクローン病からなる炎症性腸疾患、腸内細菌との関係について現在研究が進んでいる大腸がんなどが挙げられます。炎症性腸疾患については、腸内細菌叢の"バランス不全"が関係しているという理解がされていますが、具体的な関係については未だ研究が続いています。腸内細菌叢が炎症性腸疾患とどのように関係しているのが、具体的にはまだ分かっていないことも多いことから、"バランス不全"という表現に留まっているとも言えるでしょう。もちろん、腸内細菌単体では、炎症性腸疾患に関連する細菌は発見されていますが、その腸内細菌が他の腸内細菌とどのように関わり合っているかも含めて考えると、まだ分かっていないことは多いと言えます。

続いてのマニアックな課題としては、腸内細菌叢に占める存在量が少ない腸内細菌の研究には限界があるということです。メタゲノム解析の強みは網羅性にあり、したがって広く薄く腸内細菌叢を解析する手法であると言い換えることができます。ですから、メタゲノム解析で読み取られる塩基配列の量は、腸内細菌叢に占める存在量に応じて変化します。腸内細菌叢に占める存在量が少ない細菌は、読み取られる塩基配列も少なくなります。この問題は、より詳細に腸内細菌を見る場合、すなわち生物の分類階級として細かな分類に注目する場合も同様です。腸内細菌の細かな分類に着目することはすなわち、解析対象となる塩基配列が少なくなることを意味します。一方で、ヒトの健康や疾患との関係で重要なのは、菌株レベルでの議論です。したがって、解析手法の限界点と、研究のニーズが衝突しているともいえるのです。

では、これらの課題はどのようにして解決されるのでしょうか。様々な方法が考えられますが、①大規模便バンク+データベースの整備、②実験自動化、③シングルセル、ロングリードのシーケンシングとその低廉化などが挙げられます。これらについて簡単にご紹介します。大規模便バンク+データベースの整備とは、研究開発で利用できる腸内細菌リソースが、サンプル、データ共に十分量存在するような状況を作ると言うことです。現在は、研究を進める上でどうしてもサンプル数が少ないという問題に直面することが多いです。実験自動化が重要なのは、培養に基づく腸内細菌研究が多大な人的、時間的、経済的リソースを必要とするためです。腸内細菌の株レベルの解析には、やはり単離培養が王道です。カルチュロミクスによる培養方法の最適化と、並列的な菌株の培養を行うためには、実験の自動化が欠かせません。シングルセル、ロングリードのシーケンシングとその低廉化については、より質の高いゲノムを多くのサンプルから構築する上で有効です。

今回紹介したものが、腸内環境研究の課題と展望の全てでは有りませんが、少なくともこの課題が克服されることで、ヒトと腸内細菌の関係がよりはっきりと見えてくるようになるでしょう。

おわりに

今回は、"科学系ポッドキャストの日"ということで、共通テーマ"未解決"に沿って、腸内環境の未解決な課題についてお話しました。次世代シーケンサーを用いた研究の歴史が浅いからこそ、これからできることがたくさんある、とても盛り上がっている領域と言えるでしょう。

今後も腸内細菌相談室では、腸内環境、腸内細菌の最新の研究を取り上げ、未解決に向かう研究者の仕事を紹介していきます!

他の番組でも、未解決についてたくさんのポッドキャスターがお話をしているので、これを機会に是非聴きにいってみてください!

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この番組は、メタジェンセラピューティクス株式会社の提供でお送りいたしました。

それではまた来週お会いしましょう!バイバーイ!

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