#377 血液型は腸内細菌に関係する。

更新日: 2023/11/24

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投稿者:

  • Daisuke Suzuki

#377_note

毎週金曜日、19:30に更新中の腸内細菌相談室。室長の鈴木大輔がお届けします。

今回のエピソードは、血液型と腸内細菌の関係について論じた研究をご紹介します。血液型って腸内細菌に関係するの?!と驚いた方は、この研究を知った当時の私と同じです。血液型に関連する占いについて、私は懐疑派です。仮に、血液型と心理傾向の分析結果について、N=1000規模のビッグデータがあって、そこから統計的に導かれる結果に基づいた説明なのであれば、興味があります。しかし、そんなものは有りません。

したがって、血液型占いは"それっぽく聞こえるけれど根拠がない"バイアスまみれの疑似科学という認識です。もし信じている方がこの文章を呼んでいたら、ちょっと嫌な気持ちになるかも知れませんが、個人の考え方は尊重します。科学的には根拠が無いというだけです。

血液型占いに対して真っ向から否定する立場を取った腸内細菌相談室ですが、今回は血液型と腸内細菌に関する面白い研究をご紹介します。

腸内細菌相談室では、腸内細菌や腸内環境にまつわる研究結果を元に、最新の知見をお届けする番組です。継続的にエピソードを楽しむことで、腸内細菌について詳しくなることができるので、ぜひフォローをお願いします!

それでは本編です。

血液型とは何か

血液型とは何でしょうか?血液型とは、赤血球の表面に存在する抗原=分子によって分類される血液の種類です。血液型の発見は、1900年に遡ります。オーストリアのランドシュタイナー先生がある人の血清(=血液の細胞成分以外の液体成分である血漿のなかでフィブリノゲンを除いた分画)と別の人の赤血球を混ぜることで、血液が凝集する場合としない場合があることを発見したことが契機となりました (参考文献: 一般社団法人日本輸血・細胞治療学会, 血液型について, Access: 20231113, リンク)。

後の研究から、赤血球表面の抗原によって、A型、B型、O型、AB型に血液を分類できることが見出されました。このような、血液の類型をABO血液型と呼びます。特に、A型の人の血液にはA抗原を持った赤血球とB抗原に対する抗体が、B型の人の血液にはB抗原を持った赤血球とA抗原に対する抗体が、AB型の人の血液にはA抗原とB抗原を持った赤血球が、O型の人の血液にはA、B抗原を持たない赤血球とA抗原に対する抗体、B抗原に対する抗体が含まれています (参考文献: 一般社団法人日本輸血・細胞治療学会, 血液型について, Access: 20231113, リンク)。例えばO型の人の赤血球にはA、B抗原が存在しないので、A型、B型、O型、AB型のいずれの人にも輸血を行うことが可能です。A型の人の赤血球にはA抗原が含まれているので、A抗原に対する抗体をもつB型、O型の人に輸血をすることは出来ません。何故なら、A抗原と抗体の抗原抗体反応が起きることで血液の凝集反応が起きてしまうためです。

ABO血液型の分類では、A抗原とB抗原が登場しました。続いては、A抗原とB抗原の分子的な違いに焦点を当ててお話します。

Protein Data Bank Japan、通称PDBJの記事に、A抗原やB抗原の分子的な違いが言及されているので、下記にまとめます。


  1. すべての人の赤血球の細胞膜には、H抗原と呼ばれる糖質が存在。
  2. H抗原のみを持つのがO型。
  3. H抗原に、糖転移酵素の働きからN-アセチルガラクトサミンが付加した赤血球をもつのがA型
  4. H抗原に、糖転移酵素の働きからガラクトースが付加した赤血球をもつのがB型

参考文献:156 ABO式血液型糖転移酵素、PDBj入門、Access: 20231113、リンク)


つまり、H抗原に結合する糖の種類こそが、ABO血液型を決定する分子の違いになります。

体を巡る無数の血球成分に結合する分子が、血液型によって異なるということが、腸内細菌と関係します。

血液型と腸内細菌

今回のエピソードでは、2023年11月6日にCell Reportsに公開の大阪大学の研究、"Analysis of gut microbiome, host genetics, and plasma metabolites reveals gut microbiome-host interactions in the Japanese population"をご紹介します。

この研究では、日本人を対象に腸内細菌叢、ヒトゲノム、血中メタボロームのマルチオミクス解析を行っています。対象となった日本人の数は、腸内細菌叢とヒトゲノムの解析では524名、腸内細菌叢と血中メタボロームの解析では261人です。腸内細菌叢の調査には、種レベルの解像度での研究に適したショットガンメタゲノムシーケンシングを行っています。(ポッドキャストを聴いていてシーケンシングの方法についてご存知でない方は、概要欄のシーケンシングに関するプレイリストをお聴きください。)

先行研究では、二卵性双生児よりも一卵性双生児で腸内細菌叢が類似する結果が得られており、ヒトゲノムと腸内細菌叢の関係が指摘されています。一方で、ヒトゲノムと腸内細菌叢の関係についての研究は主に欧米で行われており、東アジアでの研究も重要です。そこで、腸内細菌叢、ヒトゲノム、血中メタボロームのデータを大規模に収集することで、その関連性を調査しています。

本研究は、複数の解析を行っています。

  1. ヒトゲノムと腸内細菌種、遺伝子、代謝パスウェイの関連解析
  2. ABO血液型と腸内細菌の関連解析
  3. 血中メタボロームと腸内細菌の関連解析

ここでは、2. ABO血液型と腸内細菌の関連解析の結果についてお話します。先行研究では、腸内細菌と関係するヒトの遺伝子について、ABO血液型に関係するABO遺伝子座、牛乳に含まれる乳糖の分解に関係するLCT遺伝子座が知られています。今回のコホートではLCT遺伝子座の変異は非常に珍しいことから、ABO遺伝子座の変異と腸内細菌の関係について見ていきます。

ABO遺伝子座として注目するのは、A型、B型、O型に関係する9番染色体の遺伝子座です。解析の結果、これらの遺伝子座に関連する3種類の遺伝子機能と1種類の代謝パスウェイが関係していました。ここで、ABO遺伝子座との関連が示された腸内細菌叢の遺伝子機能agaE、agaS、およびアミノ酸に関連する代謝パスウェイは、A型のヒトにおいて多いことが示唆されました。

ここで、agaEは細菌がN-アセチルガラクトサミンを取り込むのに必要な遺伝子機能、agaSはNアセチルガラクトサミン由来のガラクトサミン6リン酸を代謝するのに重要な酵素であることが知られています。N-アセチルガラクトサミンは、先程お話した通り、A抗原に特異的な分子です。したがって、ヒトの赤血球に存在するN-アセチルガラクトサミンを、腸内細菌が利用していることが示唆されました。したがって、ABO血液型の抗原の一部を腸内細菌は栄養として利用することが考えられました。

そこで、粘膜における血液型抗原の分泌に関与するヒトの遺伝子、FUT2遺伝子について解析をします。FUT2遺伝子の変異は、血液型抗原の分泌の機能損失に関係します。そこで、FUT2遺伝子の変異に基づいた解析を実施しました。

すると、A型でかつ血液型抗原を分泌できるヒトの腸内には、agaEとagaS遺伝子の存在量が有意に大きいことが示唆されました。したがって、A型のヒト赤血球に存在するN-アセチルガラクトサミンが腸管内腔へ分泌されることで、腸内細菌の存在量に影響を与えることが考えられます。

ちなみに、日本人の腸内細菌から得られたメタゲノムリードをもとに構築されたゲノムを解析すると、主にCollinsella属についてagaE、agaSの遺伝子機能が存在することが確認されました。

先行研究では、ABO血液型と一部の疾患は関係することが示唆されていることから、疾患-ABO血液型-腸内細菌という関係を調査することで、血液型と疾患の関係についてわかることが出てくるかも知れません。

参考文献

Yoshihiko Tomofuji, Toshihiro Kishikawa, Kyuto Sonehara, Yuichi Maeda, Kotaro Ogawa, Shuhei Kawabata, Eri Oguro-Igashira, Tatsusada Okuno, Takuro Nii, Makoto Kinoshita, Masatoshi Takagaki, Kenichi Yamamoto, Noriko Arase, Mayu Yagita-Sakamaki, Akiko Hosokawa, Daisuke Motooka, Yuki Matsumoto, Hidetoshi Matsuoka, Maiko Yoshimura, Shiro Ohshima, Shota Nakamura, Manabu Fujimoto, Hidenori Inohara, Haruhiko Kishima, Hideki Mochizuki, Kiyoshi Takeda, Atsushi Kumanogoh, Yukinori Okada, Analysis of gut microbiome, host genetics, and plasma metabolites reveals gut microbiome-host interactions in the Japanese population, Cell Reports,2023,113324.

https://doi.org/10.1016/j.celrep.2023.113324

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2211124723013360?via%3Dihub

おわりに

今回は、血液型によって異なる血球表面の分子Nアセチルガラクトサミンを、腸内細菌が利用することを示唆したマルチオミクス研究をご紹介しました。この結果を考えると、血液型占いが、科学的に立証される可能性が否定できないと感じました。

A抗原やB抗原が腸管に分泌されることで、腸内細菌叢を変化させ、結果として迷走神経、内分泌系を介した神経活動へ影響を与えるという可能性があるからです。この課題の焦点は、影響の程度だと思います。仮に精神的な影響があるとして、どの程度なのかは重要です。

ここから、疑似科学として真っ向から否定せずに、まずは可能性を考えてみることは、今後の科学の発展には重要なことだと思いました。"血液型が性格に関係するわけない、エビデンスはどこにあるのか?"という考えもまた、先入観として研究者の研究に確証バイアスを与えてしまうからです。

以上、血液型が腸内細菌に関係することを示した研究をご紹介しました。

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この番組は、メタジェンセラピューティクス株式会社の提供でお送りいたしました。

それではまた来週お会いしましょう!バイバーイ!

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