毎週金曜日、19:30に更新中の腸内細菌相談室。室長の鈴木大輔がお届けします。
今回のエピソードは【科学系ポッドキャストの日】の共通テーマに沿ったエピソードをお届けです!"科学系ポッドキャストのテーマ企画は、共通テーマについて様々な番組の視点で語る企画です。"、今月のホストはコペテンナイトさんです!ホスト頂きありがとうございます。
今回の共通テーマは、研究者にとって切実な問題になる、"お金"です。これは非常に楽しいテーマですね。
お金は、社会における様々なもの・サービスと交換可能なシンボルです。研究を進める上でも、生きていく上でも、お金は非常に大切です。そして、大切であるにも関わらず、研究にまつわるお金の情報は、あまり表には出てこない印象です。今月は、様々なポッドキャスターが、お金について様々な分野から、赤裸々に語ります。
今月、腸内細菌相談室では、腸内細菌の研究に必要なお金の話から始まり、研究を取り巻くお金の流れについて一緒に考えます。
腸内細菌相談室では、腸内細菌や腸内環境にまつわる研究結果を元に、最新の知見をお届けする番組です。継続的にエピソードを楽しむことで、腸内細菌について詳しくなることができるので、ぜひフォローをお願いします!
あらゆる研究分野にも言える主張ですが、ここでは限定して"腸内細菌の研究にはお金が必要"という主張をします。どのような項目にお金がかかるのか、考えていきます。ここでは、科学研究費助成事業 (科研費)の分類として、直接経費に含まれる物品費、旅費、人件費・謝金、その他に分けて考えます。
物品としては、実験に必要な消耗品や装置、細菌株、解析に必要なPCやサーバーの部品、モニターの購入費用などが必要です。特に、実験では日常的に滅菌操作を行うため、細かいものではエタノールや、高圧蒸気滅菌用のバッグ、耐熱性の容器、テープ、チップなどを使います。また、実験ごとに試薬を購入する必要があります。試薬は安価なものから高価なものまで存在します。高価なものとしては、1 g未満の試薬で数万円などの試薬は普通に存在します。また、繰り返し用いる装置としては、例えば恒温装置 (インキュベーター) や乾燥機、遠心分離機や精密天秤、低温の冷蔵庫、スターラー、クリーンベンチ、嫌気チャンバーなどなどが含まれます。いずれも数万円-数百万円かかります。解析に必要なPCやサーバーは、どのような解析にもよりますが、基本的には数十万-数百万円します。
続いてが旅費になります。旅費としては、サンプルを採取するため・学会へ参加するため、打ち合わせに必要な交通費や滞在費になります。国内ですと10万円弱、国外ですと数十万円程度必要になります。
人件費・謝金としては、リサーチアシスタント、ポスドクなどへ支払うお金です。どの程度、研究に協力してもらうかによって値段は様々ですね。
最後に、その他です。その他には、例えばサービスの月額利用料に始まり、論文投稿料や学会費用などが含まれます。国際学会であれば参加には数万-10万円、論文投稿料であれば数万円-数十万円が必要になります。
また、光熱費も無視できません。細菌株を保存するためには、常時-80℃の冷凍庫を稼働させる必要がありますし、大規模な解析にはサーバーを使用するための電力が必要です。
ここに上げた項目が研究に必要なすべてでは無いことからも、腸内細菌の研究には沢山のお金が必要になることがご理解頂けたかと思います。
少し抽象的に、研究にはお金が必要な理由を考えます。その理由とは、"自分でできることが少ないから"です。研究で用いる技術の理解、装置の使用には高度な専門性を伴います。一から自分のための装置を作成することも、現実的ではありません。もちろん、新たな測定手法を確立するような分野は、装置を作成すること自体が研究になりえます。
これは日常生活にも言えることですが、人々のできることが高度に細分化されたことにより、お金というシンボルによってお互いの活動が繋がれているとも考えられます。先端的な研究になればなるほど、お金を注がないと研究は進み続けられないのです。
ここで、日本の大学研究者における"お金の切実な問題"をお話します。それは、お金を手に入れる手段が少ないことです。研究を進める上で十分なお金を得るためには、競争的資金、他者との共同研究契約が欠かせません。つまり、競争的資金や共同研究を行えないと、お金が不足した状態での研究を強いられるのです。研究の独創性というよりも、研究資金や環境によって研究成果や評価が左右されるということになり得ます。
企業における研究成果は、企業の商品に対する付加価値の源泉になりますし、特許などの知的財産権を戦略的に活用することで、お金として回収できる可能性を秘めています。企業における研究成果は、直接的にお金を呼び寄せることができるのです。
一方で、日本の大学内にとどまる研究成果の多くは、知的財産としての活用があまり進んでおらず、売る商品もないので付加価値のつけようがありません。したがって、競争的資金、企業からの共同研究に伴う資金援助に頼ることが現状の資金獲得の主要な方法です。世間一般ではなく、国や企業にアピールすることで評価され、一部の研究にお金が渡るのです。
普通、大学の研究室にマーケティングやPRの部門があるわけでもないので、研究代表者 (PI: Principal Investigator) がその役割も担います。
ここで何が言いたいのかというと、研究代表者は、お金や人材を集めてきて研究を進め、成果を発表して対外的にアピールし、お金を獲得する能力を求められるのです。その合間に、授業や指導、学内に設置された委員会の委員としての活動も並行する必要があるのです。そうです。大学の先生は、すべてを一人でできる、あるいは全てを把握して人に任せられるような人でないと務まらないのです。
まとめると、大学の多くの研究では、お金を集める競争にさらされながら、成果を上げ、国や企業にアピールすることでしか、現状は生き残るのが難しいです。
お金のお話から、日本のアカデミアにて仕事をする研究者が難しい立場にあることをお話しました。これは、あくまでもアカデミアの内側にいる人間から見た姿なので、外側からはまた違って見えていることと思います。1つの観察結果として捉えてもらえると嬉しいです。
ここからは腸内細菌相談室の意見です。今後は、資金源を複数に持つための仕組みづくりが重要であると考えられます。知的財産権の活用もさることながら、研究分野によってはAcademistなどクラウドファンディングが効果的な場合もあると思いますし、広告収益なども研究費の助けになると思います。資金源を分散させることで、特定の企業との癒着を防いだり、理想としては安定した研究を行うことができるようになります。
お金は大切だからこそ、日本のアカデミア研究に潜む構造的な課題について、より活発に議論することが求められますね。以上、腸内細菌研究とお金についてお話しました。
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最後に告知です!12/16 (土) 下北沢てに開催されるイベント、Podcast Weekendに腸内細菌相談室もスタッフとして参加します。イベント運営スタッフと、サイエントークのヘルプスタッフとして当日は会場入りしているので、もし来れる方はDMなどで教えてください!当日にいる場所を伝えますので、少しだけでもお話できたら嬉しいです💪以前コラボした、時間栄養学のじかんの新田さんもブースを出店していて、その一部に腸内細菌相談室の紹介カードも置かせてもらう予定です。Podcast Weekendの詳細は概要欄をチェック!以上、告知でした!
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