#381 西洋食が与える術後大腸がん再発率への影響と腸内細菌の存在。

更新日: 2023/12/22

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投稿者:

  • Daisuke Suzuki

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毎週金曜日、19:30に更新中の腸内細菌相談室。室長の鈴木大輔がお届けします。

今回は、大腸がん、手術、食事、腸内細菌にまで広がるお話をします。大腸がんの罹患率や死亡率は世界的に問題となっています。大腸がんが発症するメカニズムには、多段階の遺伝子の変異が伴うことが知られていますが、どのような要因が遺伝子の変異を引き起こすのか、大腸がんを進行させるのかについては現在も研究が進んでいます。

大腸がんは、大腸の腸管組織の中でも粘膜上皮の部分で発生し、進行に伴って組織深くまで成長するのが特徴です。したがって、病変部位を完全に取り除くことができれば大腸がんの治療が可能ということです。進行度によっては腸管を切除し、取り除いた後に縫合することで大腸がんを治療するという外科的な手法も存在します。

ここで難しいのが、大腸がん細胞は細胞間の結びつきが弱く、手術の過程で腸管に大腸がん細胞の一部が残ってしまうことです。これが大腸がん再発の原因として考えられています。さらに、大腸がんの発症には食事および腸内細菌の関連が指摘されていることから、大腸がん再発に与える食事、腸内細菌の影響を研究することが重要になるのです。

メカニズムが解明されれば、外科的治療後の大腸がんの再発率を低下させることが期待できます。今回は、大腸がん、手術、食事、腸内細菌について思いを巡らせてみましょう!

腸内細菌相談室では、腸内細菌や腸内環境にまつわる研究結果を元に、最新の知見をお届けする番組です。継続的にエピソードを楽しむことで、腸内細菌について詳しくなることができるので、ぜひフォローをお願いします!

大腸がん再発について考えられていること

今回のエピソードは、2020年にGastroenterologyへ公開の論文、"Western Diet Promotes Intestinal Colonization by Collagenolytic Microbes and Promotes Tumor Formation After Colorectal Surgery"を元にお話します。

まずは、大腸がんが再発するメカニズムとして考えられていることをおさらいします。前述の通り、大腸がんの進行度によっては大腸がんの切除と縫合が行われます。つまり、外科的に病変部位を切除してしまうのです。一見、大腸がん組織は大腸から は取り除かれますが、細胞レベルでは大腸がん組織から剥がれ落ちた大腸がん細胞が大腸に存在することになります。

存在したところで組織に定着しなければ、再びがん細胞として働くことは無いのではないか、と考えられます。しかし、定着の足場になる場所が手術によって生じてしまうのです。それが縫合された場所:吻合部(ふんごうぶ)になります。手術によってしっかりと腸管組織同士が縫われてはいますが、何らかのメカニズムによって吻合部の中に大腸がん細胞が入ることで、大腸がんが再発することが考えられているのです。

そして、何らかのメカニズムに関係する要因こそが、食事、そして腸内細菌になります。著者らの先行研究では、吻合部の腸内環境において、コラーゲンを分解するコラゲナーゼという酵素を産生する腸内細菌が存在することが明らかとなっています。つまり、コラゲナーゼ産生型の腸内細菌が、吻合部の密着を損なうことによって、大腸がん細胞が定着して再発に繋がるといったことが考えられます。

更に、大腸がんの再発率は、高脂肪で食物繊維やミネラル、ビタミンが不足した食事タイプ:西洋食において高くなることが知られています。ここから、西洋食によって腸内細菌叢に選択圧がかかり、一部の腸内細菌が吻合部組織へ悪さをすることで、大腸がん細胞が吻合部へ定着し、再発につながるというメカニズムが仮説として考えられます。

このメカニズムを明らかにするため、モデルマウスに対して標準的な食事か西洋食を4週間摂取させた後で、抗生物質を投与し、手術を行った後に、コラゲナーゼ産生細菌、続いて大腸がん細胞を曝露するという実験を行いました。どのような結果が得られたのでしょうか?

参考文献

Gaines S, van Praagh JB, Williamson AJ, et al. Western Diet Promotes Intestinal Colonization by Collagenolytic Microbes and Promotes Tumor Formation After Colorectal Surgery. Gastroenterology. 2020;158(4):958-970.e2. doi:10.1053/j.gastro.2019.10.020

大腸がん再発をマウスで再現して腸内細菌の影響を観察

本研究では様々な条件での実験を行っています。かいつまんで見ていきましょう。まずは、マウスに対して異なる食事を与えたときの腸内細菌への影響です。実験ではよく使われるBALB/cを用いて、標準的な食事を与える群、高脂肪で食物繊維やミネラル、ビタミンが不足した西洋食を与える群に分けます。結果として、西洋食を与えたマウスの腸内には、コラゲナーゼ産生細菌のEnterococcus faecalisが多く定着していました。西洋食だと、コラゲナーゼ産生細菌が腸管に定着しやすくなることを示唆しています。

次に、標準食あるいは西洋食をマウスへ4週間与えた後に、手術での感染症などに備える抗生物質を投与し、腸管の切除と縫合を行います。続いて、マウスに対して浣腸によってE. faecalis菌を投与し、翌日にマウスの大腸がん細胞を浣腸によって投与しました。これは、大腸がんの外科的治療後に吻合部が腸内細菌、大腸がん細胞に曝露される状況を模しています。

ここから、腫瘍形成に必要な日数 (ここでは約21日)経過後、腸管における腫瘍形成や肝臓転移などを調査します。結果としては、西洋食を摂取させると、吻合部周辺における腫瘍形成が促進し、E. faecalis菌を投与すると腫瘍形成が促進するという結果が得られました。したがって、西洋食およびE. faecalis菌の両者がリスクファクターになることが考えられます。さらに、E. faecalis菌および西洋食を与えたマウスについては、腸間膜リンパ節や肝臓への大腸がん細胞転移も確認されました。ここから、大腸がんの外科的治療後の予後について、西洋食やE. faecalisが悪影響を与えることが観察的にわかりました。

では、腸内細菌叢としてはどのような変化が見られたのでしょうか。16S rRNA遺伝子アンプリコンシーケンシングによって、吻合部の腸内細菌叢を解析しました。結果としては、西洋食の投与、E. faecalisの投与のいずれも腸内細菌叢を変化させることがわかりました。さらに、腫瘍形成率とコラゲナーゼ産生細菌の存在量の間に正の相関関係があることも確認されました。さらに腫瘍形成をしたマウスでは、粘膜下のコラーゲンが減少していることも観察され、腸内細菌叢が産生するコラゲナーゼによって、組織が傷害を受けていることも考えられました。ここでは、E. faecalis菌に加えてProteus mirabilisという細菌も西洋食では増加していることが確認され、コラーゲンの分解活性があることもわかりました。

そこで、E. faecalisやP. mirabilisを抗菌剤によって死滅させれば、腫瘍形成を抑えられるのでは無いか、ということも考えられます。しかし、抗菌剤の多剤投与によってこれらの細菌を死滅させても、コラーゲン分解活性のある真菌Candida parapsilosisが出現してしまいました。

では、コラゲナーゼの産生を抑制する物質を添加するとどうでしょうか。これによると、腸内細菌叢の全体構造は変化せずに、コラゲナーゼ産生細菌の存在量が低下し、腫瘍形成率も57%減少することが確認されました。

ここから、腸内細菌の産生するコラゲナーゼが、腫瘍形成に重要であることが考えられました。

まとめると、西洋食の継続的な摂取、コラゲナーゼ産生細菌の存在は腫瘍形成を促進するということが分かりました。転じて、大腸がんの外科的治療後によって吻合部が生じたときに、西洋食、コラゲナーゼ産生細菌が再発のリスクを高めるということが考えられます。

おわりに

今回は、西洋食が与える術後大腸がん再発率への影響と腸内細菌の存在についてお話しました。西洋食が健康に悪影響を与えるという通説に、新たな角度から切り込んだ論文といえるでしょう。

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