#383 【科学系ポッドキャストの日】腸内細菌叢研究の行く末。

更新日: 2024/01/05

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投稿者:

  • Daisuke Suzuki

#383_note

毎週金曜日、19:30に更新中の腸内細菌相談室。室長の鈴木大輔がお届けします。

今年もよろしくお願い申し上げます。年末年始を皆様はどのように過ごしましたか?室長は、実家に帰省したり、初詣に行ったり、友人にあったりとドタバタな日々を過ごしておりました。色々なごちそうやお酒に触れる機会も増え、睡眠のリズムも乱れがちになりますので、ぜひ年末年始後は、生活習慣に気をつけ、消化器官を労ってあげてください。室長は七草粥を食べます。

2024年1回目のエピソードは、科学系ポッドキャストの共通テーマ企画です!"科学系ポッドキャストのテーマ企画は、共通テーマについて様々な番組の視点で語る企画です。"今月のホストは奏でる細胞のタツさんです!ホスト頂きありがとうございます。

今月のテーマは"予言"ということで、様々な専門性を備えたポッドキャスターが予言をするエピソードを放送します。腸内細菌相談室では、腸内細菌叢研究の行く末について"予言"に挑戦します。もちろん、予言なので当たる保証はありませんが、"こんな未来もありそうだな"と受け止めて頂けたら嬉しいです。

腸内細菌相談室では、腸内細菌や腸内環境にまつわる研究結果を元に、最新の知見をお届けする番組です。継続的にエピソードを楽しむことで、腸内細菌について詳しくなることができるので、ぜひフォローをお願いします!
では本編です。

インフラが整うことで腸内細菌叢のもつ機能が高解像度に理解される

では、予言します。数年から10年以内に起こることとしては、"インフラが整うことで腸内細菌叢のもつ機能が高解像度に理解される"でしょう。どういうことでしょうか?

ここでのインフラとは、大きく分けて①塩基配列読み取り(シーケンシング)のインフラ、②データベースのインフラです。最近は度々取り上げていますが、シーケンシング技術が目覚ましい進歩を遂げています。シーケンシングでは、生物が生きる上で必要な情報を物質的に記したDNAの構成分子の並びを読み解きます。これによって、例えば遺伝性疾患についての理解が深まったり、体質について理解できたり、腸内細菌叢の組成や機能について知ることが出来るようになります。シーケンシングは、腸内細菌叢研究において、最重要の技術とも言えます。シーケンシングの進歩とは、読み取りコストの低下、読み取り速度の向上、読み取り精度の向上に分けて考えることができます。安い、速い、美味い牛丼のような状態に着実に向かっています。これにより、より手軽に信頼性の高い配列情報を取得できる様になるので、より時間間隔の密度が大きい(濃い)データを取得できるようになりますし、細菌を初めとした生物のゲノム決定もより簡単に行えるようになります。

こと腸内細菌叢においては、配列決定の頻度も精度も量も大切になるシーケンシング対象です。ヒトを初めとした生物のゲノムと違って、腸内細菌叢全体のゲノムは動的に変化します。腸内細菌叢の一部の細菌のゲノムは比較的変化が多く、腸内細菌自体も常に入ったり出たりを繰り返しているためです。また、数百種の細菌ゲノムを扱うので、データ量も大きいです。

動的で複雑なデータなので、サンプリング頻度や精度が重要になる点、シーケンシング技術の進歩は腸内細菌叢の研究に大きな影響を与えるでしょう。

シーケンシング技術の向上によって、読み取られる配列データは爆発的に増加します。多くの論文では、研究で使用した配列データが新規であればデータベースへの登録が求められます。したがって、公開データベースに登録される塩基配列のデータ量が大きくなります。これは、アクセスできる配列データが格段に増えることを意味しているのです。

利用可能なデータが増えることで、腸内細菌叢の組成や機能に対する解像度が飛躍的に高くなります。では、どのように解像度が高くなるのか。次のセクションでお話します。

高い解像度の腸内細菌叢データは疾患の観察や治療でも利用される

腸内細菌叢に対する解像度が高くなる道筋は、複数考えられます。その道筋とは① 参照出来るデータの種類が増える、② 1つの対象について複数回のサンプルが取得される、③ 配列に対する意味付けが様々な角度から行われる、というものです。

① 参照出来るデータの種類が増えるというのは、先程にも少し触れましたが、シーケンシング技術の向上とデータベースの拡充によって、アクセス出来るデータが増えることを意味します。これによって、自分がシーケンシングを行って得た結果と、世界中から上がってくるデータをより多角的に比較出来るようになり、結果として自分のシーケンシング結果に対する理解を深めることができます。具体的には、現時点では完全ゲノムが決定されていない生物の配列情報が5年後にデータベースへ登録されることで、もしかすると過去のデータ解析では偽陰性だった細菌が陽性になり、結果の解釈が変化するかもしれません。

② 1つの対象について複数回のサンプルが取得されるというも、シーケンシング技術の発達に伴うものですが、腸内細菌叢は人生を通して、生活を通して少しずつ変化を繰り返しながら腸内に存在する生物コミュニティです。したがって、1回腸内細菌叢を明らかにしたらその人の腸内細菌叢は決定するのではなく、その時点でのその人の腸内細菌叢が明らかになったということに過ぎません。現在、縦断的研究と呼ばれるような被験者集団を経時的に観察するような研究が行われています。これによって腸内細菌叢のダイナミクスと疾患の関係について理解が深まることが期待されています。

③ 配列に対する意味付けが様々な角度から行われる、というのは解析アルゴリズムの発達に起因しています。この点は少し専門的な内容なので、話半分で聴いていただければと思います。古典的に塩基配列の意味づけとしては、GC含量、K-mer頻度、繰り返し配列やコドンなどから行われます。しかし、近年は自然言語処理のアプローチを塩基配列データに応用する事例が増えてきており、Kmer2vecを初めとした塩基配列のベクトル化と、機械学習による配列の意味の探索が行われています。高次元な塩基配列のベクトルデータを別の空間のベクトルデータに変換することで見えてくる意味から、配列をデータベースと比較するだけでは見えてこなかった意味が、発見されつつ有るのです。

これらの道筋によって、腸内細菌叢のもつ機能、ヒトとの関わりについて高い解像度で理解が進みます。行く末は、腸内細菌叢の臨床応用では無いでしょうか。

腸内細菌相談室ではよく話していますが、ヒトはヒトである以上に細菌によってできています。細菌への理解によって、既知の疾患について新しい角度で理解が進みます。これは、難病指定の炎症性腸疾患や、神経変性疾患と腸内細菌叢の関係について理解が進んでいることに代表されます。

ヒトの体質を変化させることは難しいです。しかし、ヒトの上に乗っている腸内細菌叢を変化させることはできます。腸内細菌叢のチューニングによって、治る疾患が発見されるというのが10年後以降の予言です。これは、炎症性腸疾患などの疾患に対するFMTの応用と治療を目指すメタジェンセラピューティクスを初めとした世界中のスタートアップが存在することからもわかる通り、期待されている分野です。

おわりに

予言とは、不確定な未来で起こることを予想することです。ヒトは、自分の考え方や行動を変化させることができますから、予測された未来に対してアクションを取れる部分とそうでない部分があると思います。研究を動かしているのもまたヒトなので、"このような事柄を明らかにしたい"や"こんな技術を作りたい"という考え方が行動に繋がり、予言が的中する方向に未来の方向をある程度は決めることが出来ると信じています。

腸内細菌叢の研究界隈には、パッションのある研究者が集っています。腸内細菌叢の研究を通して、ヒトと地球に優しいブレークスルーが生まれてくると嬉しいです。

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ではまた、来週のエピソードでお会いしましょう!ばいばーい。

この番組は、メタジェンセラピューティクス株式会社の提供でお送りいたしました。

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