#386 乳酸菌の機能を体系的に評価する。プロバイオティクスって意外と難しい。

更新日: 2024/01/26

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投稿者:

  • Daisuke Suzuki

#386_note

毎週金曜日、19:30に更新中の腸内細菌相談室。室長の鈴木大輔がお届けします。

今回は、"プロバイオティクスって意外と難しい"というお話をします!プロバイオティクスとは、"有益な効果を目的として摂取する微生物"のことを指します。身近な例としては、乳酸菌飲料、ヨーグルト、キムチです。微生物が食材表面や飲料に存在することで、食材や飲料を取り込むとともに微生物が取り込まれます。今回のエピソードで重要なのは、"有益な効果を目的として"いるのであって、有益かどうかは別の問題であるということです。そして、プロバイオティクスが有益か否かを考えることは、意外と難しいのです。

今回は、乳酸菌の機能を体系的に評価したCell Reportsの論文を元に、プロバイオティクスについて考えていきます。

腸内細菌相談室では、腸内細菌や腸内環境にまつわる研究結果を元に、最新の知見をお届けする番組です。継続的にエピソードを楽しむことで、腸内細菌について詳しくなることができるので、ぜひフォローをお願いします!

では本編です。

プロバイオティクスの難しさ

まずは、プロバイオティクスの難しさについて一緒に考えます。プロバイオティクスの難しさは、私達へ有益な効果をもたらすまでの経路を考えると明白です。

前提は、プロバイオティクスと腸内環境、腸内細菌の相互作用の上に有益な効果が成り立つということです。プロバイオティクスが腸内環境に到達することで、プロバイオティクスである微生物、あるいは微生物の一部や化合物が周囲に影響を与えるという前提です。ここには、プロバイオティクスが下痢や便意などに効果があると考えられていることからも妥当な前提だと考えられます。

では、プロバイオティクスを受け入れる腸内環境や腸内細菌叢について考えると、非常に個人に依存します。つまり、プロバイオティクスが影響を与える腸内環境や腸内細菌叢が異なれば、プロバイオティクスによって得られる有益な効果も変化するのでは無いかということです。

また、プロバイオティクスについても多様性があります。プロバイオティクスに用いられる微生物で有名なのは乳酸菌 (Lactic Acid Bacteria)です。漬物やヨーグルトに含まれていて、私達の腸内にも存在し、免疫系と相互作用をすることで有益な健康効果が得られることが期待されている細菌でもあります。ここで注目したいのが、乳酸菌は特定の細菌を指し示すわけではなく、菌の総称である点です。乳酸菌は、文字通り乳酸を産生する細菌であり、そこにはLactobacillus (最新の命名は少し異なる: Lactiplantibacillusなど)、Enterococcus属菌などが含まれています。細菌の属レベルでもこの多様さです。さらに、Lactobacillus属内には、最新の命名に則るとLactiplantibacillus plantarum(旧Lactobacillus plantarum)、Ligilactobacillus salivarius(旧Lactobacillus salivarius)、Lacticaseibacillus caseiなどが含まれます。Lacticaseibacillus caseiには、有名なシロタ株も含まれます。

言いたいことは、プロバイオティクスも多様であるということです。さらに、有益な効果を測定する指標も様々です。このような、プロバイオティクス、腸内環境と腸内細菌叢、そして効果測定の方法の多様性から、研究が難しくなっています。

このような問題に取り組んだ、2022年 Cell Reportsに掲載の論文をご紹介します。

乳酸菌プロバイオティクスの体系的な評価

今回ご紹介するのは、2022年に公開の"Systematic evaluation of genome-wide metabolic landscapes in lactic acid bacteria reveals diet- and strain-specific probiotic idiosyncrasies"という研究になります。

この研究では、本当に沢山の実験、解析を行っています。まずは、単離された乳酸菌株のゲノム、遺伝子機能の比較を行います。続いて、乳酸菌株を所定の培地で培養し、RNA発現量解析、乳酸、酢酸、アミノ酸の分析、細胞の観察を行います。これらのデータを用いて、乳酸菌株にて行われる代謝のモデルを構築します。代謝モデルを活用して、食生活と乳酸菌の関連解析、共存する腸内細菌叢との相互作用解析、マウスの腸内環境へ与える影響評価などを行っていきました。

今回の研究では、乳酸菌の代表的な6つの菌株、 L. plantarum WCFS1(LbPt)、L. casei subsp.casei ATCC 393(LbCs)、L. salivarius ATCC 11741(LbSv)、Limosilactobacillus fermentum ATCC14931(LbFm)、Lactococcus lactis subsp.cremoris NZ9000 (LcLt)、およびLeuconostoc mesenteroides subsp.mesenteroides ATCC 8293 (LeMt)の解析を行います。

結果をかいつまんでお話すると、株ごとに遺伝子機能が異なり、LbPt、LbCsの遺伝子機能は類似して消化管における生存に関連する機能を持つことが示唆されました。乳酸菌は基質を代謝して様々な物質を代謝しますが、中には炎症性サイトカインの刺激に関連するリポタイコ酸の産生も確認されたので、炎症性の疾患には注意が必要である株 (LbPt、LbLt、LeMt)が確認されました。LbCsは、有益な腸内細菌として考えられるA. muciniphiliaおよびF. prausnitziiの増殖を促進することが示唆され、プロバイオティクスとして有望であることが示唆されました。興味深い結果がFigure 6に掲載されていて、LbPtはS. aureusなどの細菌の増殖にも関係しているようなので、注意が必要だと個人的には考えています。

また、生活に密接に関連していて興味深い結果としては、モデルを用いた解析の結果、高繊維食は乳酸菌の増殖に、高脂肪食は乳酸菌の低い増殖率に関係することが示唆されています。ここから、著者らは「高脂肪/低炭水化物」食は、ほとんどのLABにとって有害な結果をもたらす可能性が高いと結論づけています。総括として著者らのおすすめする乳酸菌は、LbCsとのことです。

プロバイオティクスとあわせて食べる食事も大切なのかもしれませんね。

参考文献

Koduru L, Lakshmanan M, Lee YQ, et al. Systematic evaluation of genome-wide metabolic landscapes in lactic acid bacteria reveals diet- and strain-specific probiotic idiosyncrasies. Cell Rep. 2022;41(10):111735. doi:10.1016/j.celrep.2022.111735

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36476869/

おわりに

いかがでしたでしょうか。プロバイオティクスの世界って、奥が深いですよね。奥が深いからこそ、まだまだ未開拓な研究領域ですし、面白い世界なんです。今後も、プロバイオティクスについての論文は、随時取り上げていきます!

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