#387 納豆の摂取による動脈硬化の抑制に腸内細菌叢が関係している?

更新日: 2024/02/02

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投稿者:

  • Daisuke Suzuki

#387_note

毎週金曜日、19:30に更新中の腸内細菌相談室。室長の鈴木大輔がお届けします。

今回のエピソードでは、食生活と健康、そして腸内細菌にまつわる最新の研究結果についてお話します。食生活によって腸内細菌叢が受けることで、私達の体が様々な影響を受けるというお話は、一般的にされています。例えば、発酵食品の摂取はその代表例でしょう。

発酵食品にも色々ありますが、今回は納豆に注目します。納豆に含まれる酵素、ナットウキナーゼは心血管系の疾患を抑制する効果が期待されていたり、納豆に豊富に含まれるビタミン K2には動脈硬化の抑制効果があることなど、納豆は健康に良いと考えられています。

しかし、どのようにして納豆が血管系の疾患リスクを低下させるかについては明らかになっていませんでした。そこで、筑波大学とおかめ納豆で有名なタカノフーズの最新の共同研究結果をご紹介します!

腸内細菌相談室では、腸内細菌や腸内環境にまつわる研究結果を元に、最新の知見をお届けする番組です。継続的にエピソードを楽しむことで、腸内細菌について詳しくなることができるので、ぜひフォローをお願いします!

では本編です。

動脈硬化とは何か?

まずは、今回のテーマである動脈硬化について考えます。動脈硬化とは、厚生労働省 e-ヘルスネットによると、次のように説明されています1)。

(引用始まり)

動脈の血管が硬くなって弾力性が失われた状態。
内腔にプラークがついたり血栓が生じたりして血管が詰まりやすくなる。

(引用終わり)

名前の通り、心臓から送り出された血液が通る動脈を構成する血管が固くなった状態を指します。固くなると共に、内壁にプラークと呼ばれる物質が付着したり血の塊=血の塊が詰まる結果として、正常な血流が維持されなくなります。

今回の研究で注目しているのは、アテローム性動脈硬化です。アテローム性動脈硬化については、MSDマニュアルに分かりやすく解説されています。要約すると、脂肪によりなる沈着物=アテロームが血管の内壁に形成されることで、血流が減少したり遮断される病気とされています2)。アテローム性動脈硬化は、血管内皮の小さな損傷が繰り返し生じることで生じると考えられており、高コレステロール、高血圧、炎症などが損傷の要因であると考えられています2) 。

血圧やコレステロールがアテローム性動脈硬化の発症に関係すると考えられていることから、食生活の見直しがアテローム性動脈硬化の1つの対処であると考えられます。納豆にはビタミンK2が豊富に含まれていますが、ビタミンK2には疫学的にも納豆のが心血管疾患のリスクを抑制することが示唆されています。

腸内細菌叢がヒトの免疫に関係することも広く知られていることから、納豆の接種による腸内細菌叢の変化によって、炎症が緩和されて動脈硬化が抑えられるという仮説も考えられます。

そこで、筑波大とタカノフーズはビタミンK2含有量の異なる納豆を用意し、マウス実験から納豆の有用性に迫りました。

参考文献

1) 動脈硬化(どうみゃくこうか)、e-ヘルスネット、厚生労働省、アクセス:20240129、URL: https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-082.html

2) 動脈硬化、MSDマニュアル 家庭版、MSD株式会社、アクセス:20240129、URL: https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0/06-%E5%BF%83%E8%87%93%E3%81%A8%E8%A1%80%E7%AE%A1%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E5%8B%95%E8%84%88%E7%A1%AC%E5%8C%96/%E5%8B%95%E8%84%88%E7%A1%AC%E5%8C%96

異なるビタミンK2含有量の納豆を用意してマウスの動脈硬化を測定

今回ご紹介する研究は、2023年12月18日にScientific Reportsへ掲載の、"Natto consumption suppresses atherosclerotic plaque progression in LDL receptor-deficient mice transplanted with iRFP-expressing hematopoietic cells"です。今回の研究では、モデルマウス、使用する納豆が重要になります。

マウスには、アテローム性動脈硬化のモデルマウスを使用します。長波長の光を当てることで、動脈硬化の部分が光るマウスなので、動脈硬化の程度を定量化する事ができます。また、脂質の染色にOil red O 染色を行うことで、血管壁に蓄積した脂肪を観察します。

使用する納豆には、異なる納豆菌株を使うことでビタミンK2濃度が異なる納豆を開発し、マウスに与えます。動脈硬化を誘発するために、マウスには高コレステロール食を与えます。納豆を与えるマウス群には、凍結乾燥した納豆粉末をペレット状にして、9週間与えました。

実験の結果、大動脈のアテローム性動脈硬化の病変は、高コレステロール食のみを与えたマウスと比較して、納豆を同時に食べたマウスで有意に減少しました。特に、ビタミンK2が多い納豆について、顕著にアテローム性動脈硬化の病変が減少していました。

また、ベイズ推定により、胸部の動脈硬化の経時的なイメージング結果を解析ています。結果、6週間で高コレステロール食のマウスと比べて、高コレステロール+高ビタミンK2納豆食のマウスで動脈硬化が抑制されていることが確認できています。

肝臓機能に対する影響も評価していますが、特にビタミンK2の含有量の違いが肝臓の機能に異なる影響を与えているという結果は得られませんでした。

では、納豆は腸内細菌叢に対する影響を与えたのでしょうか?結果としてはイエスです。腸内細菌叢の多様性は、中程度のビタミンK2含有納豆で最も高く、高コレステロール食のみを与えられたマウスでは低いことが明らかになりました。かといって、ビタミンK2が多いと多様性が高くなるわけではなく、高コレステロール食とビタミンK2が多い納豆と高コレステロール併用の食事の間で、腸内細菌叢の多様性の有意な差は確認されませんでした。

納豆菌はBacillus属菌ですが、ビタミンK2が多い納豆を摂取すると、腸内におけるBacillus属菌が多くなる傾向が確認されています。程度としては0.01%のオーダーであり微小な違いですが、この違いがどの程度の健康効果をもたらすのか、細菌種レベルで評価したら納豆菌はどれくらいいるのか、生菌としてはどの程度存在するのかなどについては気になるところです。

納豆菌が与える炎症マーカーに対する評価も行っています。

免疫細胞の走化性に関係するケモカインCCL2は炎症に関係しますが、ビタミンK2高含有の納豆を摂取することで、低下することが示されました。一方、抗炎症性のサイトカインであるIL-10の発現は増加していました。

論文の結論としては、納豆の摂取によって腸の炎症を抑制し、炎症性サイトカインの発現を減少させることで動脈硬化を抑制することが示唆されたとしています。

参考文献

Kawamata, T., Wakimoto, A., Nishikawa, T. et al. Natto consumption suppresses atherosclerotic plaque progression in LDL receptor-deficient mice transplanted with iRFP-expressing hematopoietic cells. Sci Rep 13, 22469 (2023). https://doi.org/10.1038/s41598-023-48562-y

https://www.nature.com/articles/s41598-023-48562-y#ref-CR7

おわりに

今回紹介した研究をざっくりとまとめます。納豆を食べることは、腸管の炎症を抑制する意味でも良さそうであること、動脈硬化にはビタミンK2が豊富な納豆が良さそうであること、腸内細菌叢に対して納豆の摂取は影響を与えそうだが、もう少し詳しい解析をしないと納豆の摂取-腸内細菌叢の変化-動脈硬化の抑制という関係が成り立つのか否かがわからないという印象です。

日本を代表するプロバイオティクスとして納豆の健康効果が明らかになり、世界に羽ばたくと良いなと思いました!

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ではまた、来週のエピソードでお会いしましょう!ばいばーい。

この番組は、メタジェンセラピューティクス株式会社の提供でお送りいたしました。

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