毎週金曜日、19:30に更新中の腸内細菌相談室。室長の鈴木大輔がお届けします。
まずは、前回のエピソード"#387 納豆の摂取による動脈硬化の抑制に腸内細菌叢が関係している?"に関する修正です。前回のエピソードにてアロテームとして紹介しておりました単語は、正確にはアテロームです。誤った情報を発信してしまい申し訳ございませんでした。アテロームの語源なども含めて、補足した音源を冒頭に加えることで対応しました。
さて、今回は科学系ポッドキャストの日ということで、共通テーマに沿ったお話をします。
"科学系ポッドキャストのテーマ企画は、共通テーマについて様々な番組の視点で語る企画です。"今月のホストはものづくりnoラジオからしぶちょーさんです!
ホスト頂きありがとうございます。
今回のテーマは"変人"ということで、腸内細菌研究に関連する頭の中の変人について情報を引っ張り出してみました。まずは変人とはどんな人なのかから考えます。
腸内細菌相談室では、腸内細菌や腸内環境にまつわる研究結果を元に、最新の知見をお届けする番組です。継続的にエピソードを楽しむことで、腸内細菌について詳しくなることができるので、ぜひフォローをお願いします!
それでは本編です。
まずは変人とはどんな人なのか、言葉の意味から確認していきます。デジタル大辞泉に記載されている意味では。"言動や性格に普通の人とは変わったところのある人。"とありました。つまり、普通の人とは何かというところが変人を理解する上では重要であり、あくまでも普通の人に対する相対的な存在が変人です。普通の意味についてもデジタル大辞泉で確認すると、"特に変わっていないこと。ごくありふれたものであること。"ということです。特に変わっていないこと、つまり変では無いことが説明に入っているので、変人に対する説明としては有用ではありません。"ごくありふれたもの"ということはすなわち、ある言動や性格を何らかの指標で識別したときに、一般に広く見られるもの、ということになると思います。
したがって、変人について議論する時には、① 普通を定義するための調査を行う、② 自分を普通と仮定した時に、自分には見られないような性格や言動がある人を変人と強引に定義する、のいずれかが必要だと考えたので、とりあえず鈴木大輔は普通であるとした上で、変人について話してみます。
ここで話した変人たちが、読者の皆様にとっても変人と感じるのであれば、きっとその人は変人なのでしょう!もし変人と感じる人がいたら、SNSとかポッドキャストでコメント下さいね。
変人:デジタル大辞泉:Access: 20240208, https://kotobank.jp/word/%E5%A4%89%E4%BA%BA-626346
普通:デジタル大辞泉:Access: 20240208, https://kotobank.jp/word/%E5%A4%89%E4%BA%BA-626346
最初にお断りしておきますが、ここでお話する変人を私は尊敬しています。自身の知的好奇心を満たすための行動を起こしている人たちなので、研究に従事するものとしてはその姿勢を見習いたいと思っています。倫理的にアウトでなければ、人に迷惑をかけなければ普通ではなくても良いと思うのです。
まずは、オナラの中の細菌を調べる変人です。彼の名は、"Karl Kruszelnicki (カール・クルスゼルニツキ)"博士。この博士については、以前"#96 お風呂でオナラをすると、お湯は大腸菌に汚染されるのか?"というエピソードをお話したときにも取り上げました(このエピソードの記事がとっても人気で、Noteでは1週間に平均700回みられていて結構人気なエピソードです)。British Medical Journalへ2001に掲載のHot air?というコラムには、カール博士のオナラにまつわるエピソードが記載されています。
カール博士はオーストラリアのサイエンスコミュニケーターで、ラジオなどのコメンテーターの顔も有り、イグノーベル賞を受賞されている多彩な方です。
オナラの中に細菌が含まれているのか否か?というのは、(もしかすると)あなたも考えたことがあるかもしれません。ラジオ局にも、オナラに関する真剣な質問が寄せられました。というのも、リスナーの方は、手術室でのオナラが環境を汚染するのか気になっているというのです。
そこで、カール博士は微生物学者Luke Tennentの協力で、単純な対象実験を行いました。それは、ズボンを履いたまま5 cm離れたところからシャーレにオナラをする、ズボンを下ろして5 cm離れたところからシャーレにオナラをする、というものです。
結果は、ズボンを下ろした上でオナラをしたシャーレには、腸内および皮膚に存在する細菌のコロニーが生じたということです。一方、ズボンを履いたままだと、コロニーは生じなかったのです。
実験室で、シャーレに向かってオナラを吹きかける実験をしているカール博士は、個人的には変人ポイントが高いと思っています。
続いての変人は、帝王切開で生まれた赤ちゃんに母親の腟内細菌を塗る変人です。いや、腸内細菌相談室のリスナーであれば、あまり変人には感じないかもしれませんね。私も実は変人とは感じていませんが、世間一般からすると何をやっているか分かららないと思ったので、あえて変人として挙げました。
自然分娩で生まれた赤ちゃんが母親の腟内細菌を皮膚に纏って生まれてくるのに対して、帝王切開で生まれた赤ちゃんは皮膚細菌叢を纏います。この生まれてくる方法の違いが、アレルギーなどの慢性炎症に関連する疾患に関与することが考えられています。
そこで、細菌叢研究のスーパースターである、Rob Knight博士は、自身の娘が生まれる際に緊急の帝王切開の必要があったのですが、生まれてからすぐに腟内細菌叢を塗ったそうです。これは、変人というよりは、娘を思う第一線の微生物学者の行動ですね。
このお話はTEDから確認できるのですが、2014年の時点で数年前に行ったと本人が言っているので、2010年前後の出来事だと思うと、腸内細菌叢や皮膚細菌叢に対する認識があまり一般には浸透していない頃だと推察できます。なので、当時の世間一般からすると、変人として考えられたと思いますし、もしかすると将来の世間一般からは先進的な人として受け入れられるかもしれません。
他に思いついたのは、赤ちゃんがうまれてから1ヶ月ごとにうんちをサンプリングしている知り合いの研究者です。生まれてからの密な時系列データは価値がありますし、何よりどのように腸内細菌叢が変化していくのかも気になるので、気持ちは分かってしまいます。もしかすると、この行為も医療の進歩で一般に浸透する未来があるかもしれません。少なくとも、2人くらいしか研究者界隈でこの話を聴いたことがないので、世間一般からすると変人なのかな?と思いました。
紹介した先人の変人を目指して、今日も研究を頑張ります。
おならの記事:Hot air? BMJ. 2001 Dec 22;323(7327):1449. PMCID: PMC1121900.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1121900/
TED Talk: https://www.ted.com/talks/rob_knight_how_our_microbes_make_us_who_we_are?language=ja&subtitle=ja
変人というテーマは中々難しかったですが、"研究者は変人たるべき人"という考えを再認識できたので良かったです。変人とは、普通にとらわれない人であり、人類の可能性を外に広げる力のある人だと信じているので、自分の感性の赴くままにこれからも歩んで行きたいと、そう考えるきっかけになりました。
科学系ポッドキャストの共通テーマ企画では、他の科学系ポッドキャスターの方も同じテーマについて話しているので、よければ他の番組にも行ってみてください!
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ではまた、来週のエピソードでお会いしましょう!ばいばーい。
この番組は、メタジェンセラピューティクス株式会社の提供でお送りいたしました。