毎週金曜日、19:30に更新中の腸内細菌相談室。室長の鈴木大輔がお届けします。
今回のエピソードでは、温泉と腸内細菌叢に関連する研究をご紹介します。入浴と腸内細菌叢の変化については以前お話しましたが、今回はより公共性の高い入浴、温泉がテーマです。紹介する研究の舞台は、温泉の街別府で、様々な温泉に入ってもらい腸内細菌叢の変化を調査しました。温泉に入ることで、腸内細菌叢に対してどのような変化があったのでしょうか?
腸内細菌相談室では、腸内細菌や腸内環境にまつわる研究結果を元に、最新の知見をお届けする番組です。継続的にエピソードを楽しむことで、腸内細菌について詳しくなることができるので、ぜひフォローをお願いします!
では、本編です。
今回の研究の舞台である別府温泉について、簡単に紹介します。
2022年の別府市観光動態調査結果によると、総観光客数は約538万人、うち64%は日帰り、残りは宿泊の観光客ということです1)。単純に日割りすると、1日に約1万5千人が訪れているって、すごいですね。数だけで見て観光的に栄えていることがおわかりいただけると思います。外国人観光客は4万人で、韓国、タイ、香港などから観光客が来ている1)ということで、近隣諸国においても別府は一定程度の認知を獲得していると考えられます (韓国からの観光客は、約2万人で距離も関係していそうです)。日本人観光客の消費額は、約635億円。数字から観光の街と言って良さそうです。
そんな観光の街別府の観光資源は、今回の研究テーマでもある温泉です。2022年の別府市観光動態調査結果の表1-1 市営温泉施設年別入浴者数 (無料入浴者を含む)によると約100万人が入浴しています。
別府温泉、あるいは別府温泉郷は、別府にある温泉の総称です。
別府市の公開している温泉データによると、源泉総数は日本全国でも別府温泉郷が群を抜いており、大分の由布院が879か所であるのに対して、別府温泉郷は2217か所です2)。源泉総数の多さに伴い、総湧出量も日本第1位で、毎分83058L、大体83トンの温泉が湧き出ています2)。すげええ!別府温泉郷を構成する温泉は種類も豊富です。温泉の種類・質は環境省が提示用泉質名として定義しています。2024年2月15日時点で新旧泉質名対照表を確認すると、①単純温泉、②二酸化炭素泉、③炭酸水素塩泉、④塩化物泉、⑤硫酸塩線、⑥含鉄泉、⑦含アルミニウム泉、⑧含銅鉄泉、⑨硫黄泉、⑩酸性泉、⑪放射能泉の11種類でした3)。別府温泉では、サイトにもよるのですが、温泉百科を参考にすると7種類を楽しめるそうです (※総数10となっていたので、自分の参照違いか古い記載かもしれません)。
最後に、別府には何故、こんなにも沢山の温泉があるのでしょうか?温泉百科の説明を要約すると、別府一体は地盤が沈む地域であり、活発な火山活動と地熱温泉活動がもたらされていて、火山活動により生じた大きな断層と火山活動、雨水の相互作用で温泉水が生じているということです4)。別府は、地形学的な観点で温泉に恵まれています。
温泉は、古くから療養に効能があると信じられてきました。健康に良いと考えられてきた温泉と、健康に重要な影響を与えると考えられ始めた腸内細菌叢、これらをつなぐのが今回紹介する研究です。では、研究の内容に迫りましょう!
今回紹介する研究は、2024年1月28日にScientific reportsへ公開の"Effects of bathing in different hot spring types on Japanese gut microbiota"です。この研究では、九州に住む健康な成人136名 (男性80名、女性56名)を対象に行われています。試験のデザインはシンプルで、7日間連続で同じ温泉施設の同じ浴槽に休憩自由で20分以上入ってもらい、その前後で腸内細菌叢を解析するというものです。この期間における食習慣、生活習慣については過度な飲酒や過食は控えるように依頼しています。糞便は参加者自身が自宅で採取するタイプで、後続の16S rRNAアンプリコンシーケンシングに使用されます。
今回入浴してもらったのは、単純温泉、塩化物泉、炭酸水素塩泉、硫黄泉、硫酸泉の5種類でした。結果、7種類の細菌が入浴によって増加することが確認され、単純温泉ではParabacteroidesとOscillibacter、炭酸水素塩泉ではBifidobacterium bifidum、Oscillibacter、 Ruminococcus、硫黄泉ではRuminococcusとAlistipesが増加することが確認されています。Bifidobacterium bifidum (ビフィズス菌の一種) は便秘や耐糖能、免疫機能に良い影響を与えられると考えられている一方で、Ruminococcusは種によっては疾患に関連する細菌とされています。
この結果を素直に読み取ると、温泉に7日間、1日20分以上入ると腸内細菌叢が変化することが示唆されたが、健康に対して良い影響を与えるのか、悪い影響を与えるのかは今後の調査が必要といった感じですね。また、どのような経路によって温泉が腸内細菌叢に対して影響を与えるかは言及していません。もしかすると、オロポや牛乳を、1週間飲んでいるかもしれません。温泉に継続的に入ることで生じる、通常生活からの逸脱は交絡因子になりうるので、注意が必要です。
いずれにせよ、温泉と腸内細菌叢が関係する可能性が示唆されたことは、非常に面白いですね。
Takeda, M., Choi, J., Maeda, T. et al. Effects of bathing in different hot spring types on Japanese gut microbiota. Sci Rep 14, 2316 (2024). https://doi.org/10.1038/s41598-024-52895-7
https://www.nature.com/articles/s41598-024-52895-7
これは妄想ですが、将来的には、腸内細菌叢を効果的に変化させる科学的に優れた温泉が発見されるかもしれないですし、そのような入浴剤を作れるかもしれませんね。今までは、腸内細菌叢を変化させる上で食べ物に注目が言っていましたが、入浴という生活習慣によっても介入の余地があることが示された点では、とっても大切な研究成果でしたね。
以上、"温泉に入ると腸内細菌叢が変化する"というお話でした!
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ではまた、来週のエピソードでお会いしましょう!ばいばーい。
この番組は、メタジェンセラピューティクス株式会社の提供でお送りいたしました。