#390 ビフィズス菌の母子伝播。アイルランドの研究で見えてきた母子間の細菌移動で大切なこと。

更新日: 2024/02/23

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毎週金曜日、19:30に更新中の腸内細菌相談室。室長の鈴木大輔がお届けします。

今回はリスナーの方から、"ビフィズス菌についても取り上げてほしい"とのリクエストを頂いたので、ビフィズス菌の母子伝播に関する研究をお話します。"#386 乳酸菌の機能を体系的に評価する。プロバイオティクスって意外と難しい。"というエピソードを約1か月前に公開した際に頂いたリクエストです。ありがとうございます!

取り上げてほしいテーマがあれば、ポッドキャストの返信欄やSNSから気軽にご連絡ください!まずはビフィズス菌の概要を述べた上で、母から子へ受け継がれるビフィズス菌の研究をご紹介します。

腸内細菌相談室では、腸内細菌や腸内環境にまつわる研究結果を元に、最新の知見をお届けする番組です。継続的にエピソードを楽しむことで、腸内細菌について詳しくなることができるので、ぜひフォローをお願いします!

では、本編です。

乳酸菌とビフィズス菌について

混同されやすい乳酸菌とビフィズス菌の分類について整理します。まず、広義ではビフィズス菌は乳酸菌に含まれます。何故なら、ビフィズス菌は乳酸を産生するからです。したがって、乳酸菌とビフィズス菌を混同するのは、ある意味正解です。

一方、一般的な文脈での乳酸菌とビフィズス菌は区別されているようです。乳酸菌としてよく取り上げられるのが、キムチなどに含まれるLactiplantibacillus plantarumや、プロバイオティクスとして使用されるLacticaseibacillus casei , paracaseiなど。乳酸菌として取り上げられる細菌種の多くは、細胞が棒状の乳酸桿菌というのが個人的な見解です。一方、ビフィズス菌は乳酸菌の中でも、Bifidobacterium属を指した細菌分類です。

ここでは俗称のビフィズス菌を用いてお話していきますが、正確にはBifidobacterium属菌なんです (少々呼びにくい)。ビフィズス菌は、乳酸および短鎖脂肪酸を産生できるとされています。また、日本人の腸内細菌叢にもビフィズス菌は比較的多く確認されている他、加齢によって減少するといった報告があります。

乳酸菌とビフィズス菌は並べて考えられることが多いですが、並べ方が曖昧である点が個人的には引っかかります。乳酸菌は、代謝によって乳酸を産生する細菌という意味で代謝機能に注目しているのに対して、ビフィズス菌はBifidobacterium属という系統分類に注目しているからです。もちろん、系統分類に特殊な遺伝子機能が付随することもあるという観点では、ケースによっては問題ないのかもしれませんが、グルコースを嫌気的に分解する乳酸発酵はよく見られる代謝経路なので、このケースにには当てはまらないよなーと思ってます。

小言はさておき、ビフィズス菌は乳酸と短鎖脂肪酸を作るBifidobacterium属菌で、日本人の腸内には比較的多く見られるような細菌であると覚えておいてください。

では、そんなビフィズス菌が母親から子供へ伝播することを示した研究をご紹介します。

ビフィズス菌の母子伝播

今回ご紹介する研究は、2023年5月25日にnature communicationsへ掲載された、"Detailed mapping of Bifidobacterium strain transmission from mother to infant via a dual culture-based and metagenomic approach"という論文です。この研究ではアイルランドで約3年間かけて妊婦さんを100名以上募り、生まれた乳児との間での細菌の伝播を観察しました。

先行研究では、乳児の消化管に対して母親由来の細菌叢が定着することで免疫系が発達したり、腸内細菌叢の確立に支障が出ると感染症やアトピー、肥満に関連することが報告されています。どのような細菌が乳児の腸内へ定着するかについては、まずEscherichia属、Enterococcus属、Lactobacillus属が定着し、続いて産後1-4週間でBifidobacterium属、Bacteroides属が定着することが考えられています。

今回の研究で募った、通称MicrobeMomコホートでは、ビフィズス菌に焦点を当てたサンプリングと解析を行います。調査項目としては、乳児の便中の細菌叢、母からは便中の細菌叢、腟内細菌叢、口腔細菌叢、母乳細菌叢などです。

調査の結果、ビフィズス菌の中でもBifidobacterium longumBifidobacterium adolescentisが母親の腸内には多いことが確認されました。これらの細菌は、母親の70-80%に認められ、腸内細菌叢に占める割合は2%程度でした。

乳児の便としては、生後最初の便、胎便(Meconium) (取れなかった場合は1週間以内の便)、生後1週間目の便、1ヶ月目の便が得られました。生後すぐの腸内細菌叢の多様性は低いことが明らかとなりました。また、生後すぐから1ヶ月にかけてビフィズス菌が急激に増加することも確認されました。乳児の腸内細菌叢には、生後すぐの腸内細菌叢は母親の出産回数、1週間目は陣痛時の抗生剤への曝露、1ヶ月目は母乳の構成成分が影響を与えることが示唆されました。

また、乳児の腸内環境にはほぼ同一系統のビフィズス菌が定着しているのに対して、母親の腸内には比較的多様なビフィズス菌株が存在することが示されました。

ここからは今回のエピソードテーマに直結する重要な調査結果です。

メタゲノム解析と細菌培養の解析の結果、調査された母-乳児のペアのほぼ半数 (66/135)のペアにおいて細菌移動が示唆されています。移動した細菌としては、Bifidobacterium属が多く、続いてBacteroides属細菌が多く共有されていることが示されました。

移動する細菌の数に影響を与える要因としては、分娩様式、破水、誘発分娩などが関連することが示唆されました。また、分娩中の母親に対する抗生物質への曝露が、乳児に対して共有される細菌を減らすことが示唆されました。

ここから、乳児に対しての細菌の伝播現象は、例え乳児が生まれる前であっても抗生物質などの影響を被ること、細菌の伝播を考える場合にはビフィズス菌が重要であることが考えられました。

著者らは、母から子への細菌の移動には、"経膣分娩、自然な破水、分娩中の抗生物質の回避"を上げていました。

参考文献

https://www.nature.com/articles/s41467-023-38694-0

Feehily, C., O’Neill, I.J., Walsh, C.J. et al. Detailed mapping of Bifidobacterium strain transmission from mother to infant via a dual culture-based and metagenomic approach. Nat Commun 14, 3015 (2023). https://doi.org/10.1038/s41467-023-38694-0

おわりに

この結果が子供の疾患リスクとつながれば、いずれは疫学的な根拠をもって、細菌叢のモニタリングが行われるかもしれませんね。ヨーグルトなどプロバイオティクスのイメージが強いビフィズス菌ですが、生まれる前から私達に関係していた細菌だということが伝わったら嬉しいです。とっても身近なビフィズス菌のお話でした。

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ではまた、来週お会いしましょう!ばいばーい。

この番組は、メタジェンセラピューティクス株式会社の提供でお送りいたしました。

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