#395 大腸がんに関連する口腔細菌の特定の株が見つかった。

更新日: 2024/03/29

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投稿者:

  • Daisuke Suzuki

#395_note

毎週金曜日、夜19:30に更新中の腸内細菌相談室。室長の鈴木大輔がお届けします。

今回は久しぶりに、大腸がんと腸内細菌叢の関係にまつわるお話をしていきます。大腸がんと腸内細菌叢の関係は、この分野では10年以上にわたり研究されてきている、厚みのある領域です。大腸がんに関わらず腸関連疾患と腸内細菌叢については、様々な関係が指摘されています。本エピソードでは、2024年3月20日にNatureへ公開された研究をご紹介します。重要になるのは、腸内環境の上流にある、口腔環境の細菌です。

腸内細菌相談室では、腸内細菌や腸内環境にまつわる研究結果を元に、最新の知見をお届けする番組です。継続的にエピソードを楽しむことで、腸内細菌について詳しくなることができるので、ぜひフォローをお願いします!

それでは本編です。

大腸がんと腸内細菌叢

大腸がんとは、結腸および直腸 (小腸の終わりから肛門まで)でに発生するがんです。罹患率や死亡率の観点から、早期発見が大切となるがんです。典型的な大腸がんは、散発性大腸がんといい、家族歴や遺伝的な要因がない患者に発生します。したがって、誰でもなり得るがんです。

大腸がんは、多段階発がん過程と呼ばれるステップを経て、徐々に悪性度が高まるのが特徴です。大腸がん後期になるほど、予後が悪く死亡率が高まります。先行研究では、多段階発がん過程=がんの進行に伴って腸内細菌叢が変化することが報告されてきました。そこで、様々な腸内細菌について調査が行われ、いくつかの細菌種については細胞レベル、マウスレベルで発がんやがん進行に関連することが示されています。この腸内細菌相談室では、がんと腸内細菌の関係というプレイリストを組めるほど、このテーマについてお話をしてきています。現時点ではエピソード数22まで来ており、このエピソードで23話目になります。気になる方は、プレイリストを覗いてみてね。

がんと腸内細菌の関係: https://open.spotify.com/playlist/0XCr5dPMtKVcfaGQm1BbaG

このプレイリストでも登場するのが、Fusobacterium nucleatumです。歯周炎に関係する口腔常在菌で、酸素を嫌う細菌でもあります。細胞の形はユニークで、細長ーいです。大腸がんに腸内細菌が関係するのではないか、と考えられる様になった最初期の論文から、大腸がんとnucleatum菌が研究されているほどには有名です。例えば、nucleatum菌は大腸がん腫瘍組織に多く存在していたり、我々の免疫をジャックしたりすることが明らかとなっています。

今回紹介するのも、やっぱりnucleatum菌関連の研究です。しかし、個人の意見ですが今までの研究と比べると、nucleatum菌の遺伝子機能の多様性に一番迫っている論文です。論文を読んでるとき、ずーーっと脳みそが喜んでました。そんな研究成果をかいつまんで腸内細菌相談室リスナーの皆様にお届けします!

Fusobacterium nucleatum Clade 2!!

今回ご紹介する研究は、2024年3月20日にNatureへ掲載の"A distinct Fusobacterium nucleatum clade dominates the colorectal cancer niche" (Fusobacterium nucleatumの明確なクレードが大腸がんのニッチを占有している)です。この論文では、大腸がんではない人の口腔、大腸がん患者の腫瘍組織からnucleatum菌を単離することで、遺伝子機能の比較を行っています。単離というのは、環境中に雑然と存在している細菌群衆から、一部の細菌細胞を取り出す操作になります。取り出した細菌細胞のゲノムはPacbio Sequel IIから得られるリードをもとに構築されました。

補足説明をすると、nucleatum菌には、さらに細かい分類=亜種があります。nucleatum 亜種nucleatum、nucleatum 亜種animalis、nucleatum 亜種vincentii、nucleatum 亜種polymorphum)などです。調査の結果、大腸がんの腫瘍組織に豊富なのはanimalisであることが明らかとなりました。単離されたanimalisの比較ゲノムを行うと、どうやらanimalisは2つのサブグループに分割出来るようで、ゲノムサイズ、エピジェネティクス、遺伝子機能もグループ間で異なることがわかりました。このサブグループ=クレードを、Fn animalis Clade1およびClade2と呼んだ時に、Clade1およびClade2は口腔内では存在量に有意差がなく、腫瘍組織内ではClade2に多いことが示唆されました。

Clade2のanimalisには固有に、エタノールアミンや1,2-プロパンジオールの代謝オペロンが確認されました。詳細な調査の結果、これらの化合物をClade2のanimalis株に暴露することで、病原因子の発現量が有意に増大することが確認されました。また、Clade2のanimalisは、腸管での定着に有利な機能を備えていることが示唆されました。口腔細菌が腸内環境に移行するための経路は複数考えられており、その一例が胃を経由する経路です。とはいっても胃酸は多くの細菌にとって有害なので、耐酸性が重要な性質になります。Clade2のanimalisには、glutamate-dependent acid resistance関連の遺伝子機能が存在し、グルタミン酸存在条件での酸性環境ではClade 2 animalisの耐酸性が増加したことが示されています。条件付きではありますが、Clade2は消化管経由で口腔から腸内環境に定着しているかもしれません。

Clade1およびClade2のanimalisをマウスに接種させたところ、Clade2を接種したマウスについて腸管の腺腫発生数が有意に増加することが確認され、腸内環境における酸化ストレスの増加と抗炎症効果を抑制することが示唆されました。

まとめると、Fusobacterium nucleatum菌には複数の亜種が知られていますが、中でもAnimalis、さらにはClade2とここでは呼ばれているタイプのAnimalisが、大腸がんの発症、進行などに関連することが示唆されたということです。

参考文献

Zepeda-Rivera M, Minot SS, Bouzek H, et al. A distinct Fusobacterium nucleatum clade dominates the colorectal cancer niche. Nature. Published online March 20, 2024. doi:10.1038/s41586-024-07182-w

おわりに

本論文の終盤の章"Fna C2 enrichment in human CRC cohorts"という章で導入されているExtended Figure 10の日本コホートでは健康な人の約10%にもこの細菌が腸内環境に存在することが示されています。今回の研究結果を総合すると、F. nucleatum animalis clade2がリスク因子になり得るので、この細菌の弱点が見つかると予防医療に繋がると期待しています。もちろん、腸内細菌叢は複雑な細菌コミュニティなので、一部の改善が全体の改善につながるとは限らないので、今後も継続した研究が必要です。

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この番組はメタジェンセラピューティクス株式会社の提供でお送りしました。

また来週お会いしましょう!ばいばーい。

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