毎週金曜日、19:30に更新中の腸内細菌相談室。室長の鈴木大輔がお届けします。
突然ですが、皆さんは普段どの程度の睡眠時間を確保できていますか?室長は、大体8時間の睡眠時間を取らないと本調子が出ないのですが、4月のこの時期は様々な書類作成業務があり、なかなか十分な睡眠時間が取れていません。口内炎も発生してテンサゲです。
日本人の睡眠時間が世界的に少ないことは、多くのヒトにとって常識になりつつありますが、諸々の事情で自分の生活リズムを変えるのって大変です。また、日中眠くなったり、認知機能が下がるということは体感的に分かりますが、腸内環境にどのような影響を与えているのかって、意外と知らないと思います。今回は、睡眠不足、睡眠制限が与える腸内環境への影響を調査した研究をご紹介します。
腸内細菌相談室では、腸内細菌や腸内環境にまつわる研究結果を元に、最新の知見をお届けする番組です。継続的にエピソードを楽しむことで、腸内細菌について詳しくなることができるので、ぜひフォローをお願いします!
腸内細菌相談室では以前に、睡眠と腸内細菌の関係と題してポッドキャストのプレイリストを作成しています。ここでは、睡眠の統計や大まかなしくみ、腸内細菌との関係についてお話しているので、気になる方はチェックしてみてください。全16エピソードあります!
【腸内細菌相談室】睡眠と腸内細菌の関係。: https://open.spotify.com/playlist/3Nd8ha1BIQMdVI3K16INeU
本日は、American society for microbiologyのMicrobiology Spectrumへ2022年12月21日掲載の論文、"Butyrate Ameliorates Insufficient Sleep-Induced Intestinal Mucosal Damage in Humans and Mice"からご紹介します。
本研究の問題意識は、睡眠不足、睡眠制限が与える小腸内環境に対する影響です。先行研究の多くは大腸内環境と睡眠の関係について調査しており、栄養吸収や免疫の側面で重要な小腸についての研究は少ないです。特に、栄養吸収に重要な臓器であることから、腸内環境の乱れ=組織レベル、分子レベルでの損傷は、宿主の栄養吸収能力に影響を与えることが考えられます。
この研究では、ヒトを対象とした観察研究、介入研究および睡眠不足モデルマウスを用いた実験を行うことで、小腸内環境と睡眠不足、睡眠制限の関わりを調査していきます。
ここでの睡眠不足(Sleep Deprivation)とは短期的な睡眠不足、睡眠制限(Sleep Restriction)とは長期的で慢性的な睡眠不足、具体的には1日7時間未満の睡眠を指しています。
まずは観察研究の報告です。大学生534名を対象とした30問の質問から、睡眠状態や消化管機能の不調に付いて調査をしました。今回の調査では、なんと全体の85.39%の学生が1日あたり7時間未満の睡眠時間であり、睡眠不足の状態にあることが明らかとなりました (調査の対象になった学生がどの大学、国なのかは論文中に記載がありませんでしたが、Authorの情報から推測すると中国の大学と思われます。ある大学に限った話なのですべての大学生に当てはまるわけでは無いことに注意してください)。
本調査の学生の70.29%は23時以降に就寝し、17%は睡眠潜時に30分以上要していたそうです。また、72.85%に不眠の症状、39.33%が疲れやだるさを感じており、今回の調査対象となった学生に限っては睡眠習慣の状態がよくなさそうです。
精神状態や学習、身体機能にも悪影響を与えていることが、アンケート結果から示唆されています。さらに注目すべきは、身体機能の中でも消化管機能です。例えば、睡眠不足の学生の41.76%が消化不良、11.99%が腹痛を訴えており、5.81%が炎症性腸疾患と診断されています。
まとめると、睡眠時間が7時間未満の学生の41.76%が様々な腸の不調を訴えており、睡眠と腸の不調の間には何らかの関係がありそうです。続いて、ヒトを対象とした介入研究のお話です。
Gao T, Wang Z, Dong Y, Cao J, Chen Y. Butyrate Ameliorates Insufficient Sleep-Induced Intestinal Mucosal Damage in Humans and Mice. Microbiol Spectr. 2023;11(1):e0200022. doi:10.1128/spectrum.02000-22
https://journals.asm.org/doi/10.1128/spectrum.02000-22
今回の研究では合計22名の参加者を募り、睡眠不足介入に11名、睡眠制限介入に11名を割り振りました。睡眠不足介入、睡眠制限介入では、共に7日間の適応期間を設けました。睡眠不足介入では、適応期間後1日間の断眠をし、その後7日間は回復期間としています。睡眠制限介入では、適応期間後一週間にわたり5時間の睡眠を取ってもらいました。
睡眠不足および睡眠制限の介入前後での腸内細菌叢を比較すると、睡眠不足の参加者では検出された細菌グループ数が増加したのに対して、睡眠制限の参加者では変化がみられませんでした。個別の腸内細菌に注目してみると、睡眠不足の参加者の腸内環境ではDialister属菌と Agathobacterium属菌が増加し、Bacteroides属菌と Faecalibacterium属菌が減少しました。睡眠制限の参加者では、Bacteroides、Megaonas、Escherichia -Shigella属菌は増加し、Faecalibacterium、Prevotalla属菌は減少しました。注目したいのは、睡眠介入により共通して減少したFaecalibacterium属菌は、酪酸産生菌です。糞便中の短鎖脂肪酸の含有量を調査すると、酢酸とプロピオン酸は睡眠介入による影響を受けず、酪酸含有量は減少することが示されました。
では、減少した酪酸を補うことで、腸内環境にはどのような影響が出るのでしょうか。ここでは睡眠不足モデルマウスを用いた酪酸の腸内環境に対する影響を調査していきます。モデルマウスにおいては、睡眠不足マウスでは腸内細菌叢の豊富さと多様性が減少していることが確認されました。しかし、酪酸塩を与えることで、多様性の減少が回復しました。
睡眠不足による影響は小腸における絨毛の高さ、陰窩の深さといった構造にも影響を与え、通常のマウスと比較して減少していることが確認されました。また、杯細胞の数も明らかに減少していました。これらの状況も、酪酸塩を投与することによって改善することが確認されています。
さらに、小腸の組織を構成する細胞間の結合を担うタイトジャンクションタンパク質についての睡眠不足の影響を評価しました。いわゆる腸管バリアに与える睡眠不足の影響の評価です。調査の結果、睡眠不足のマウスではタイトジャンクションタンパク質が減少しましたが、酪酸塩を投与することで睡眠不足によるネガティブな効果が改善されました。小腸の免疫機能に関する調査では、睡眠不足により、リゾチームや分泌型IgA等のレベルが低下していた一方で、酪酸塩の投与により低下が認められなくなりました。睡眠不足による炎症性の因子の増加も酪酸塩による介入で認められなくなっているし、酸化ストレスも抑制されていました。
他にも色々実験をしておりますが、研究結果から考えられる睡眠不足と小腸内環境の関係をまとめると次のようになります。
以上が、小腸内環境と睡眠不足の関係です!
いかがでしたか?ヒト、モデルマウスを対象とした研究により、かなりクリアに小腸内環境と睡眠不足の関係が見えた研究でした。腸内環境を守るためにも、日々の睡眠習慣を見直すことが重要ですね!っと自戒を込めて言っておきます。
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この番組は、メタジェンセラピューティクス株式会社の提供でお送りいたしました。
それではまた来週お会いしましょう!バイバーイ!