#398 皮膚と腸内環境の関係。ヒアルロン酸が腸内環境に影響する?

更新日: 2024/04/19

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毎週金曜日、19:30に更新中の腸内細菌相談室。室長の鈴木大輔がお届けします。

近年、腸内環境に関連する研究が世界的に行われており、30年前では考えられなかったような疾患との関連が報告されています。腸内環境に近いところでは肝臓、遠いところでは脳の疾患との関係が注目されており、とってもホットな分野です。腸内細菌相談室では、腸内環境に住む腸内細菌に焦点を当てて、これまでに色々な角度からエピソードを収録してきました。

今回のエピソードでは、最新の研究が示した、皮膚と腸内環境の関係についてです。今回の研究のすごいところは、皮膚の傷が腸内環境、そして腸内細菌叢、さらには腸管の炎症に影響を与えることを実験的に示したところにあります。

腸内細菌相談室では、腸内細菌や腸内環境にまつわる研究結果を元に、最新の知見をお届けする番組です。継続的にエピソードを楽しむことで、腸内細菌について詳しくなることができるので、ぜひフォローをお願いします!

では早速、皮膚と腸内環境の関係に迫ります。

皮膚から腸内環境へ

今回ご紹介する研究は、2024年4月8日にNature Communicationsへ掲載されたUCSD初の論文、"Dermal injury drives a skin to gut axis that disrupts the intestinal microbiome and intestinal immune homeostasis in mice"です。(訳: 皮膚の傷がマウスの腸内細菌叢と腸内の免疫恒常性を乱す)

じつは、先行研究では皮膚と腸の疾患が併発する事例から、皮膚と腸の間に何らかの関連があることが示唆されてきました。例えば、炎症性腸疾患と乾癬の併発です。さらに、一歩踏み込んで、皮膚に傷がつくことでマウスの腸内環境に影響が及ぶことが示唆されており、例えばデキストラン硫酸ナトリウムによって大腸の炎症を惹起したマウスでは、皮膚の傷が出来ることで炎症への感受性が高まることが示されています。そこでは、皮膚に傷がつくことでヒアルロン酸の断片が生じ、これが腸内環境に到達することで炎症のリスクが上がることが確認されたのです。これだけでも大発見ですが、本研究では、皮膚が傷つくことで腸内環境に影響が及ぶ詳細なメカニズムに迫ります。

皮膚については素人なので、皮膚の構造とヒアルロン酸の役割について少し調べました。まずは、皮膚の構造について第一三共ヘルスケアのはだカレッジというサイトを参考にすると、外側から表皮、真皮、皮下組織の層構造になっており、分泌、体温調節、貯蓄、排泄、知覚といった作用をもつ臓器とされています。ここでは、皮膚のなかでも真皮が重要そうです。

生化学工業株式会社の記事を参考にすると、真皮は表皮の10倍の厚みがあり、ヒアルロン酸が多く含まれているとのことです。このヒアルロン酸が、保湿に関係していることから、ヒアルロン酸が美容や美肌の文脈でよく出てくるんですね。ちなみにこの会社の販売しているヒアルロン酸をこの研究では使用していました。

今回は、そんなヒアルロン酸が、皮膚と腸内環境を結ぶ物質になります。

参考文献

・Dokoshi T, Chen Y, Cavagnero KJ, et al. Dermal injury drives a skin to gut axis that disrupts the intestinal microbiome and intestinal immune homeostasis in mice. Nat Commun. 2024;15(1):3009. Published 2024 Apr 8. doi:10.1038/s41467-024-47072-3

・(皮膚の構造について): 皮膚に学ぶ、はだカレッジ、Access: 2024/4/19, URL: https://www.daiichisankyo-hc.co.jp/site_hada-college/hcp/learn/dermatology/structure/

・(ヒアルロン酸について): からだの中のヒアルロン酸、生化学工業株式会社、Access: 2024/4/19、URL: https://www.seikagaku.co.jp/ja/hyaluronicacid/hyaluronicacid02.html

皮膚と腸内環境をつなぐヒアルロン酸

研究の話に戻ります。今回の研究では、ケラチンプロモーターの制御下にあるヒアルロニダーゼ(ヒアルロン酸分解酵素)の遺伝子を導入したトランスジェニックマウスを使用します。このモデルは、皮膚が物理的に傷つくことで生じる炎症の増加、皮膚から腸への免疫細胞の移動といった交絡因子を制御し、皮膚が傷ついたり炎症が起こることでヒアルロン酸が生じる状況だけを再現できるので、重要になります。このモデルを、ここでは皮膚創傷モデルマウスと呼びます。

皮膚創傷モデルマウスでは、腸内における遺伝子の発現量、特にReg3やMuc2といった遺伝子が増加していました。Reg3は、抗菌ペプチドの合成、Muc2はムチンの分泌に関係します。つまり、皮膚創傷モデルマウスでは腸管バリア機能に影響が及んでいたのです。無菌のマウスでも同様の現象が確認されたことから、腸内細菌に依存せずに皮膚での傷害が腸管バリア機能に影響を及ぼすことが分かりました。特にReg3の皮膚創傷モデルマウスによる発現量増加は、マウス結腸組織の培養組織、ヒト結腸細胞系列の実験でも指示されています。

では、皮膚創傷により腸内細菌叢にはどのような影響が及んだのでしょうか。本研究では、腸内細菌叢の多様性が変化すること、Akkermansia muciniphilaを含む一部の腸内細菌の相対存在量の増加が確認されました。さらに、皮膚創傷により腸内細菌の絶対存在量は減少し、生存する細菌の量も減少していたということです。Akkermansia muciniphilaの絶対存在量は減少していたことから、腸内細菌叢全体としては皮膚創傷により減少する影響が与えられ、Akkermansia muciniphilaが相対的に腸内細菌叢へ占める割合が多くなっているということです。さらに詳しくみてみると、腸管の組織(陰窩内、筋層)におけるグラム陰性が大きく増加しており、創傷により腸管バリア機能が活性化したにも関わらず、一部の腸内細菌が腸管上皮に侵入してしまっていることを示しています。

さらに、皮膚創傷モデルマウスの腸内に炎症が起こることで、重症度が上がることが分かりました。ここでは、抗生物質を投与すると、死亡率、体重減少、リンパ球の浸潤等がみられなくなったので、腸内細菌が重症度の上昇に関連することが示唆されました。さらに、皮膚創傷モデルマウスの腸内細菌叢を、FMTによって無菌マウスに移した場合、皮膚創傷のないマウスのFMTを行った場合と比較して、腸内での高い炎症が確認されました。つまり、皮膚創傷モデルマウスに特有の腸内細菌叢が、腸管の炎症を悪化させることに関与するということを示唆しています。

まとめると、①皮膚が傷つきヒアルロン酸が腸内環境に到達することで、腸内環境での腸管バリア機能に関連する遺伝子発現量が変化、②腸内環境が変化したことで腸内細菌叢が変化、③腸内細菌叢の変化によって、後続の腸管での炎症が悪化する、というストーリーです。

以上が、皮膚と腸内環境の関係を示した研究のまとめでした。

おわりに

いかがでしたか?皮膚への傷が腸内環境に影響を与えるならば、ラグビー選手や格闘技の選手って、どんな影響を及ぼすんでしょうかね。斬新な視点を与えてくれる研究成果で、論文を読んでいて面白かったです。

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