毎週金曜日、19:30に更新中の腸内細菌相談室。室長の鈴木大輔がお届けします。
私の専門が大腸がんと腸内細菌の研究なのもあり、腸内細菌相談室では、大腸がんと腸内細菌にまつわる様々な研究成果をご紹介してきました。
今回のエピソードでは、大腸がんの腫瘍環境と腸内細菌の関係を調べた最新の研究をご紹介します。重要なのは、腸内細菌がバイオフィルム形成をして別の細菌の足がかりになる点、腫瘍の免疫を活性化する点にあります。
腸内細菌相談室では、腸内細菌や腸内環境にまつわる研究結果を元に、最新の知見をお届けする番組です。継続的にエピソードを楽しむことで、腸内細菌について詳しくなることができるので、ぜひフォローをお願いします!
これまでに腸内細菌相談室では、腫瘍や大腸がんについて沢山のエピソードを発信してきました。大腸がんについて基礎から知りたい、復習したい方はプレイリストをご参考にしてください。
がんと腸内細菌の関係:https://open.spotify.com/playlist/0XCr5dPMtKVcfaGQm1BbaG
がんと腸内細菌の関係を概説すると、観察結果として大腸がんの患者の腸内環境では、健康な方とは異なる腸内細菌が定着することが分かっています。一部の研究では、腸内細菌の一部が病原性を持つために、大腸がんの形成や進行に関連することも報告されています。
全世界的に大腸がんは罹患率・死亡率共に高いので、公衆衛生上の問題と認識されています。これは日本でも例外ではありません。そこで、腸内細菌をバイオマーカーとして利用したり、治療介入のターゲットとして注目したりする研究が進められているのです。
今回の研究では、大腸がんの腫瘍組織で何が起こっているのかを見るために、Fluorescence in situ hybridization (FISH)、dual-RNA sequencingを行っています。FISHは細菌ゲノムを構成する塩基配列に結合する蛍光色素を使用することで、サンプル中の細菌の局在を可視化する事ができる手法です。これにより、腫瘍のどこに腸内細菌が存在するのか知ることができます。dual-RNA sequencingは、細菌と細菌の宿主のRNAシーケンシングを同時に行える手法で、細菌-宿主間の相互作用を調べる事ができます。
ご紹介する研究は、2024年5月10日にGut Microbesへ掲載の、"Biofilms and core pathogens shape the tumor microenvironment and immune phenotype in colorectal cancer"という論文に掲載されています。
今回の研究で注目している腸内細菌は、口腔細菌で歯周病起炎菌のFusobacterium nucleatumが属するFusobacterium属菌、腸内細菌のBacteroides fragilisになります。両方の細菌ともに大腸がんの進行等に関連することが先行研究で明らかとなっており、ここではcore pathgensという括りで紹介されています。これらの細菌が腫瘍組織ではどのような働きをしているのか、FISHおよびdual-RNA seqで解析するのです。
本研究では、デンマークのZealand University Hospitalにて集まった大腸がん患者の腫瘍組織、腫瘍に隣接する(10cmより離れた)正常組織、健康なヒトの粘膜組織が集められ、一部はFISHに、一部はdual-RNA Sequencingに使用されました。
FISHの結果、大腸がん患者の腫瘍組織には、正常組織や健康なヒトの組織と比較して存在する細菌の量=バイオマスが多いことが分かりました。ここには、上行結腸、下行結腸、腫瘍ステージや転移等とバイオマスの間に関係は認められませんでした。顕微鏡の画像から腫瘍組織の一部に細菌が局在=偏って存在していることが観察できます。
さらに、Fusobacterium属、B. fragilisに結合するプローブ(塩基配列に結合する物質)を用いたFISHを行うことで、両細菌の腫瘍組織における存在、局在を観察します。観察の結果、集められた腫瘍の中に、Fusobacterium属菌、B. fragilis菌はそれぞれ64.9%、51.4%検出され、正常組織や健康なヒトの粘膜と比較して多いことが確認されました。さらに興味深いことに、Fusobacterium属菌やB. fragilis菌が存在するサンプルでは、腫瘍に存在するバイオマスが多いことが確認されました。特に、F. nucleatumについての解析では、細胞接着に関連する病原因子とF. nucleatumの存在量が対応していることから、腫瘍における細菌群衆の形成にF. nucleatumの接着因子が重要な役割を果たしているかもしれません。
組織の壊死、炎症応答および細菌の局在に関する解析では、腫瘍が壊死している部分に細菌が今日教材していることが確認されました。したがって、壊死しているところに細菌が定着しやすいか、あるいは腸内細菌の代謝産物が腫瘍の悪性化に関与することが示唆されました。
続いては、Dual-RNA Sequencingの解析結果です。こちらの結果も顕微鏡画像の解析を指示しており、大腸がんの腫瘍組織における細菌の量、B. fragilisおよびF. nucleatumが多いことが示唆されました。ここで、腫瘍における細菌RNAが多いサンプルと少ないサンプルにおけるヒト側の遺伝子の発現量変動解析を行いました。すると、細菌が多く存在すると炎症性サイトカイン、ディフェンシ、がんの悪性化に関連するmatrix-metalloproteases等が観察されました。さらに、ヒト以外に由来する転写産物を調査すると、接着、侵入、免疫介入、DNA修復妨害に関連するような一部の遺伝子機能が亢進していることが示唆されました。ここから、一部の腸内細菌に由来する遺伝子機能が、腫瘍微小環境における宿主の転写産物を変化させ、これが炎症シグナルとして顕在化していることが示唆されました。
最後に、細菌と免疫細胞の発現量を解析したところ、Bacteroides fragilisが好中球の浸潤、F. nucleatumがCD4+ T細胞の浸潤と相関することが示唆されました。
今回の研究では、腫瘍組織にF. nucleatumやB. fragilisが存在すると腫瘍に存在する細菌バイオマスが多いこと、腫瘍における免疫応答が変化することなどが示唆されました。
Kvich L, Fritz BG, Zschach H, et al. Biofilms and core pathogens shape the tumor microenvironment and immune phenotype in colorectal cancer. Gut Microbes. 2024;16(1):2350156. doi:10.1080/19490976.2024.2350156
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/19490976.2024.2350156
今回の研究では、特定の細菌が腫瘍に存在することで、細菌バイオマスが多くなるという観察結果が得られています。もしかすると、F. nucleatumやB. fragilisが定着したところに相乗りしてくる別の細菌が、病原性に関与するかもしれません。いずれにせよ、口腔常在菌や腸内常在菌が腫瘍の炎症に関連するということなので、奴らとの接触を防ぐことはできません。だからこそ、腸管上皮バリア、口腔ケアなどは重要そうですね。
以上、腸内細菌が大腸がん組織に付着して別の細菌の足がかりになるというお話でした!
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