毎週金曜日、19:30に更新中の腸内細菌相談室。室長の鈴木大輔がお届けします。
夏の訪れを感じさせるように、気温の高さを感じる日が増えてきたように感じる今日このごろ。読者の皆様は、体温調節に不可欠な水分を一日あたりにどれくらい摂取していますか?
水は、体温調節以外にも、代謝や排泄においても重要であることから、まさに生命維持に不可欠な物質と言えるでしょう。そんな水分が不足すると、腸内環境の不調を来すことを示した研究をご紹介します。
腸内細菌相談室では、腸内細菌や腸内環境にまつわる研究結果を元に、最新の知見をお届けする番組です。継続的にエピソードを楽しむことで、腸内細菌について詳しくなることができるので、ぜひフォローをお願いします!
まずは、水分の摂取量について考えます。
最初に気になるのが、1日あたりにどれくらいの水分を摂取すれば良いのか、ということです。調べてみると、厚生労働省が公開する"2 水の必要量を算定するための根拠"という資料があったので内容を要約します。
結論としては、性別、年齢別、身体活動レベル別に水分の必要摂取量を算出できるデータが集まっていない=定められていない、ということです。このような状況である理由の1つとして、性別や年齢、季節によって必要摂取量が変化することが上げられています。年齢や性別ごとに必要な水分摂取量を定義できる方が、参考値としては有用になる一方で、より大規模なデータが必要になるのです。必要な水分摂取量が定められていない状況や欧米でも同じようで、目安量が定められているにとどまっています。紹介されているのはドイツの例で、"Water balance throughout the adult life span in a German population"という論文に成人の男性が2910 mL/日、女性が2265 mL/日の目安量として設定されています。体格も気候も年齢構成も異なる日本に適応できるわけではありませんが、2-3L程度の水分摂取が目安になりそうです。
このデータを参考にすると、1日に2Lペットボトル1本以上を飲むことが目安になるので、(少なくとも私の体感と比較すると)多いな、という印象を受けました。多いなと読者の皆様も感じたのであれば、水分不足の可能性があります。
実際に、今回ご紹介する研究のIntroではアメリカでは成人の約半数が慢性的な水分不足であることが訴えられている他、水分不足が肥満や糖尿病、インスリン抵抗性等の代謝性疾患に関連するということも紹介されています。他にも水分不足によって腸内細菌叢の構成が変化したり機能性便秘につながることも紹介されています。では、本文の内容に迫っていきましょう。
今回ご紹介する研究は、2024年5月3日に公開された、慶應義塾大学、北里大学の共同研究成果である、"Sufficient water intake maintains the gut microbiota and immune homeostasis and promotes pathogen elimination"になります。本研究では、マウスを用いた調査を通して水分不足と腸内環境の関連に迫ります。
本研究では、まず水分の摂取制限が、マウスにどのような影響を与えるのか調査をします。調査には通常の水分摂取群、25%および50%の水分摂取制限をした群を用いた調査をしていきます。調査の結果、水分摂取制限をしたマウスでは体重が減少し、50%の水分摂取制限マウスでは拒食症の症状が現れたようです。さらに、便の腸管通過時間が長くなり、便の水分量、重さや数が減少していました。一方で、水分摂取制限によって脱水状態にはなっていないことから、脱水症状を来すことなく便秘を発症することが示されました。
続いて腸内細菌叢に与える水分摂取制限の影響を調査すると、水分摂取制限によって便中の総細菌数が増加し、腸管の粘液層がぼやけて曖昧になっていることが示されました。さらに、細菌の上皮組織への侵入が50%の水分摂取制限では確認されています。また、特定の腸内細菌の科の存在量が変化しており、VerrucomicrobiaceaeやPrevotellaceaeは増加する一方、Lachnospiraceaeは減少することが示されました。ここから、水分の摂取制限が腸内細菌叢の密度や組成を変化させるとともに、腸管組織の構造にも影響を与えることが示されました。
さらに、水分摂取制限によるパイエル板や粘膜固有層における免疫細胞への影響評価を行うと、B細胞やT細胞が減少することが示唆されました。免疫状態が変化することから、病原性細菌の腸管への定着にも影響を与えることが考えられます。そこで、病原性細菌であるCitrobacter rodentiumをマウスに投与すると、水分の摂取制限をしたマウスでは、C. rodentiumの腸管からの排除に時間がかかっていることが示唆されました。さらに詳細な解析では、水分不足によるTh17細胞の応答が減少することで、C. rodentiumの腸管からの排除に時間がかかることが示唆されました。これが、水分不足→腸内細菌叢変化→免疫機能の変化による経路であるかを調査するために便移植の実験を行うと、水分摂取制限をしたマウスの腸内細菌叢を便移植により別のマウスに移してもTh17細胞の状態には影響を与えていませんでした。
そこで、水分摂取制限が直接Th17細胞の維持などに影響を与えることを調査するために、水の輸送に関連する膜タンパク質であるアクアポリン3を欠損したマウスにおけるTh17細胞の維持機能を評価すると、アクアポリン3がTh17細胞の分化や維持に必要であることが示され、水分不足が与える腸管免疫への直接的な影響が浮き彫りになりました。
まとめると、水分不足によって、便秘が誘発され、腸管上皮組織周辺の構造が変化すると共に、腸内細菌叢の総細菌数が増加したり組成が変わることに加え、腸管におけるTh17細胞の維持に不調が生じることで病原性細菌の排除に時間がかかることが示されました。
水分不足が与える腸内環境の不調や、病原性細菌排除の遅延に関するお話はいかがでしたか?十分な量の水を飲むということは、腸管における免疫を含めた機能を維持し、腸内細菌と適切な距離感を保つ上で重要であることがおわかり頂けたかと思います。この夏は例年にも増して暑くなると言われているので、積極的に水分をとり、慢性的な水分不足を回避していきましょう!
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この番組は、メタジェンセラピューティクス株式会社の提供でお送りいたしました。
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