#406 【科学系ポッドキャストの日】腸内細菌の種について。

更新日: 2024/06/07

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#406_note

毎週金曜日、19:30に更新中の腸内細菌相談室。室長の鈴木大輔がお届けします。

今回のエピソードは【科学系ポッドキャストの日】の共通テーマに沿ったエピソードをお届けします!"科学系ポッドキャストのテーマ企画は、共通テーマについて様々な番組の視点で語る企画です。"

今月のホストは農と食のラボラジオさんです!ホスト頂きありがとうございます。

今回の共通テーマは、"種"(たね)で、"植物のタネ、悩みのタネ、種培養など、あなたの知ってる種についてお聞かせください"とのことです。腸内細菌相談室では、訓読みではなく音読みの種(しゅ)について、腸内細菌のお話も踏まえて考えていければと思います。今回は、おしゃべり主軸のエピソードなので、ご了承ください!

腸内細菌相談室では、腸内細菌や腸内環境にまつわる研究結果を元に、最新の知見をお届けする番組です。継続的にエピソードを楽しむことで、腸内細菌について詳しくなることができるので、ぜひフォローをお願いします!

腸内細菌の種について。

ここでは、2003年の日本進化学会・福岡大会にて行われた、"微生物における「種」とは何か?"という演題の趣旨を紹介するところからお話を始めていきます。約20年前の趣旨になるので、現在の微生物のゲノム研究とは背景が異なるところはあると思いますが、そこも含めて聞いていただければと思います。趣旨を一部引用すると、「多くの微生物は、ただ単に分裂増殖し、自らのクローン生産のみを行っているように見えます。微生物における「種」とは何を意味しているのでしょうか、あるいは何も意味していないのでしょうか。ゲノムの構造、遺伝子の発現、タンパク質の構造を比較することから微生物の「種」と呼びうる集団を示すことができるでしょうか。」という問題が提起されています。

この問題提起をもう少し噛み砕いて説明します。微生物における「種」とは何を意味するのでしょうか。種とは、生物の分類と密接に関係した概念です。現代における生物の種は、階級と呼ばれる概念により整理されています。大まかな分類から始まり、少しずつ細かい分類によってある生き物を別の生き物と区別していきます。階級における最も細かい分類は種となっています。種の1つ上の(大きな括りの)階級である属と合わせて、属と種の二名法によって生物が呼ばれることが一般的です。

ヒトを始めとする大きな生物を考える上では、種の概念は直感的で分かりやすいです。目に見えるので、形質が分かりやすいです。同種の生物であれば見た目、食べ物や生息域は似ています。また、一般的には同種間でしか有性生殖をすることができません。

腸内細菌を含む微生物の多くは、細胞分裂を繰り返すことで繁殖しています。我々人間は生物学的な異性が出会い、受精を経て繁殖するのと比較すると、腸内細菌はシンプルな繁殖方法を取っているといえるでしょう。

基本的にはクローンが増えていく繁殖方法の中で、何らかの要因、例えば形質転換や接合、ファージを介した形質導入などの影響を受けて遺伝的な多様性が増加していきます。そして、腸内環境の選択圧を受けることで、遺伝的な多様性が減少します。ヒトを始めとする多細胞生物と比較すると微生物のライフスパンは短く、つくりも単純なので、遺伝的にはダイナミックな変化にさらされていると考えられます。見た目や生殖などの特徴を頼りに種を定義することは難しそうです。

そこで現在、腸内細菌を始めとする微生物は遺伝情報によって整理されます。遺伝情報から様々な生物の形質が生じることを考えれば合理的です。現在は遺伝情報を読み取るコストが激減し、遺伝情報による種の定義に時代が追いついた感もあります。

腸内細菌相談室では、種の同定に16S rRNA遺伝子、ユニバーサルシングルコピー遺伝子、クレード特異的マーカー遺伝子、あるいはゲノムの類似性を示すAverage Nucleotide Identityが用いられている研究をご紹介しています。いずれにせよ、腸内細菌の種を整理する際には、遺伝情報が重要です。

ここで、腸内細菌の研究が進むにつれて、分類階級では最も細かい種の中にも、遺伝子機能の多様性が、一般的に存在することがわかってきました。大腸菌でも毒素を産生する株とそうでない株がいたり、発酵食品に用いられる菌株ごとに特性が異なってきたり、大腸がんに関連するとされる株のもつ遺伝子機能が異なったり、といった具合です。

この点は、我々人間が仮に同種であっても、異なる見た目や代謝を持っているのと似ています。ヒトは有性生殖によって遺伝的な多様性があるのに対して、腸内細菌の場合には様々な外的要因によって遺伝的な多様性を獲得していきます。

こと腸内細菌を考えるに当たっては、種という生物の定義だけでは不十分であるというのが個人的な意見です。腸内環境という生物の密度が大変に高い環境になると、それだけでも腸内細菌に対する選択圧になりえます。ヒトも生物の進化の過程で生まれてきた、古代の生物からみた新種なわけで、時間軸を柔軟に解釈すれば、種は生まれて消えていきます。腸内細菌は、我々ヒトよりも極端に短いライフスパンと、外的要因に影響を受けやすい遺伝情報を持つがために、種という概念だけでは対処できないと言っても良いかもしれません。

ということで、"微生物における「種」とは何を意味しているのでしょうか、あるいは何も意味していないのでしょうか。"という問いかけに対して、種という概念だけで対処できる概念もあればそうではない対処もあるというのが個人的な見解です。特に、ヒト腸内における疾患については、病原性細菌の定着に種内の遺伝情報の多様性、つまり株間の多様性が効いてくるという考えです。

ということで、私達の腸内でおこる種のせめぎあいのお話をしてきました。

参考文献

・[2E4]微生物における「種」とは何か、日本進化学会 福岡大会 2003、ACCESS: 2024/6/3: URL: https://evolgen.biol.se.tmu.ac.jp/sesj/nenkai/2003/program/2E4.html

おわりに

今回のエピソードでは、普段この番組を聴いていないヒトに向けて、腸内細菌の種について雑談的にご紹介しました。通常は、毎週金曜19:30に、最新の論文を根拠に腸内細菌研究の最前線をご紹介しています。先週は、水分不足と腸内環境の関係を示した研究についてお話しました。もし面白いな!と思って頂けたら、番組のフォローをよろしくお願いします!

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この番組は、メタジェンセラピューティクス株式会社の提供でお送りいたしました。

それではまた来週お会いしましょう!バイバーイ!

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