#408 大腸がんの手術治療が与える腸内環境への影響。

更新日: 2024/06/21

一覧へ戻る

#408_note

毎週金曜日、19:30に更新中の腸内細菌相談室。室長の鈴木大輔がお届けします。

今回のエピソードでは、大腸がんの手術による治療が与える腸内環境への影響に焦点を当てた研究をお話します。大腸がんの手術では、腫瘍と周囲のリンパ節を外科的に取り除きますが、このような手術を経験することで腸内環境、腸内細菌叢にはどのような影響が及ぶのでしょうか?

腸内細菌相談室では、腸内細菌や腸内環境にまつわる研究結果を元に、最新の知見をお届けする番組です。継続的にエピソードを楽しむことで、腸内細菌について詳しくなることができるので、ぜひフォローをお願いします!

まずは、大腸がんの手術についてお話していきます。

大腸がんの手術

大腸がんの手術については、国立がん研究センター中央病院が公開している「大腸がんの手術について」というページを参考にしていきます。

がんの一般的な治療方法は、外科治療、放射線治療、化学療法で、時にはこれらを組み合わせて治療に臨みます。大腸がんの中でも、がん細胞が粘膜下層よりも深くに到達している進行性大腸がんにおいては、手術によりがん細胞を取り除くことで、治療をしていきます。一方、粘膜および粘膜下層にがん細胞がとどまっている場合は早期がんと呼ばれ、内視鏡によりがん細胞を取り除くことで治療ができる場合があります。今回紹介する研究では、手術および内視鏡的粘膜下層剥離術 (ESD:Endoscopic Submucosal Dissection)と呼ばれる手法が登場します。ちなみに手術には、開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット手術があり、国立がん研究センター中央病院では、ダヴィンチというロボットを手術へと積極的に援用しているようです。

進行性大腸がんの手術では、大腸がんが確認できる腸管組織と、転移したがん細胞を取り残すリスクを下げるためにリンパ液の流れる方向にあるリンパ節を切除します。今回ご紹介する研究では、がんが発生した場所が上行結腸の場合、隣接する小腸の一部である回腸の一部も切除の対象になっていました。つまり、がんが発生する場所に応じて手術箇所も異なるため、手術後の腸内環境への影響に違いがでるかもしれないのです。

進行性大腸がんの場合、開腹手術によるがんの切除は標準治療とされています。したがって、進行性大腸がんを治療する多くの人にとっての、腸内環境の変化を明らかにするのが、今日ご紹介する研究なのです。

参考文献

大腸がんの手術について、国立がん研究センター 中央病院、Access: 2024/6/16、URL: https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/clinic/colorectal_surgery/020/index.html

大腸がんへの手術治療が与える腸内環境への影響

今回ご紹介する研究は、2022年にmSystemsに掲載された”Surgical Treatment for Colorectal Cancer Partially Restores Gut Microbiome and Metabolome Traits”という研究になります。

今回の研究では、大腸がん患者の手術前後の糞便サンプルを取得し、メタゲノム解析とメタボローム解析を行いました。患者さんの分布はそれぞれ、手術群で85名、内視鏡的粘膜下層剥離術 (ESD) 群で11名とのことでした。手術前、および治療後約1年の時点でサンプルを収集することで、腸内環境の変化を確認します。また、合計で96名の患者さんの術後5年までの大腸内視鏡所見から、大腸がんリスクの高い群、低い群、不明な群に分類することで、術後の腸内環境と大腸がん再発リスクについても論じていきます。

まずは全体的な腸内環境の変化について。腸内細菌叢の組成、遺伝子組成、代謝産物組成はそれぞれ、手術の前後で有意に変化していることが確認されました。また、手術による腸内細菌叢の個人内変動は、健康な方よりもESDを受けた方で、ESDを受けた方よりも手術を受けた方で大きいことが示されました。腸内細菌それぞれの変化を確認すると、90種類の腸内細菌が手術によって減少した一方で、24種類の腸内細菌が有意に増加することが示されました。ここで減少した腸内細菌の中には、Parvimonas micra、Gemella morbillorum、Fusobacterium nucleatum subsp. animalis、Peptostreptococcus stomatisなど、既往研究で大腸がん関連細菌とされている細菌も含まれました。一方で、手術後に増加した24種類の腸内細菌の中には、胆汁酸代謝に関連するRuminococcus gnavusClostridium scindensが含まれました。ヒトが合成する一次胆汁酸に対して、腸内細菌が一次胆汁酸を代謝したものを二次胆汁酸と呼びます。二次胆汁酸は、DNA損傷による発がん経路に関連することが考えられている物質なので、大腸がんと腸内細菌叢の関連研究でも注目されています。

これに対応して、二次胆汁酸の合成に関連するC. scindensのbai operonの存在量も、手術後に増加することが確認されました。さらに、メタボローム解析から、一次胆汁酸であるコール酸、二次胆汁酸であるデオキシコール酸も、手術後に増加することが確認されました。切除された場所によって便中の胆汁酸濃度や細菌存在量も変化することが確認されていて、例えばタウロコール酸について右側結腸の切除後には増加していたのに対して、左側結腸の切除では減少していることが確認されました。このことは、胆汁酸吸収に対して手術により切除された腸管の部分が影響を与えることを示しています。そして、詳細は示しませんが、ランダムフォレストベースで、術後患者を低リスクおよび高リスク群に分類するモデルも構築できました。

今回の研究成果をまとめると、大腸がんの手術、ESDにより腸内環境は変化し、とくに手術を行うことで大腸がん関連細菌が減少することが示された一方で、発がんリスクに関連するとされる二次胆汁酸産生菌のClostridium scindensが手術後に増加することが確認されました。

参考文献

Shiroma H, Shiba S, Erawijantari PP, et al. Surgical Treatment for Colorectal Cancer Partially Restores Gut Microbiome and Metabolome Traits. mSystems. 2022;7(2):e0001822. doi:10.1128/msystems.00018-22

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9040882/

おわりに

大腸がんの手術治療によって、先行研究で報告されている大腸がん関連細菌が減少する一方で、二次胆汁酸合成細菌やその遺伝子、胆汁酸が増えることが明らかとなりました。たしかに、手術が腸内環境を変えているようです。このように見ると、やはり腸内環境の変化が腸内細菌叢に大きく影響を与えるようです。大腸がんは発見されれば治療されるので、手術後の腸内環境をメタゲノム、メタボロームで明らかにしたのは重要な知見ですね。

腸内細菌相談室では、番組に対する感想、質問、リクエストを募集しています。X、Instagram、Apple podcast、Spotifyからいつでもご連絡ください!

この番組は、メタジェンセラピューティクス株式会社の提供でお送りいたしました。

それではまた来週お会いしましょう!バイバーイ!

カテゴリー

一覧へ戻る