#409 青い便で調べる腸通過時間と腸内細菌叢の関係。

更新日: 2024/06/28

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投稿者:

  • Daisuke Suzuki

#409_note

毎週金曜日、19:30に更新中の腸内細菌相談室。室長の鈴木大輔がお届けします。

今回のエピソードでは、腸通過時間と腸内細菌叢の関係を青い便によって示した研究をご紹介します。ここでの青い便は、食用色素が入った青いマフィンを食べることによって出てくるものです。青いマフィンを食べることで、便の通過時間を調査し、腸内細菌叢との関係を調べるというシンプルで興味深い研究です。

腸内細菌相談室では、腸内細菌や腸内環境にまつわる研究結果を元に、最新の知見をお届けする番組です。継続的にエピソードを楽しむことで、腸内細菌について詳しくなることができるので、ぜひフォローをお願いします!

便の定量と腸内細菌叢について

便には無数の腸内微生物、ヒトや微生物の代謝産物、バイオマーカーが無数に含まれており、腸内細菌研究では欠かせないサンプルです。特に、便はヒトの体を傷つけずに=非侵襲的に取得できるサンプルである点が優れています。

そんな便の調査としては、多くの研究では排便頻度から排便習慣、便の水分量を反映したブリストールスケールという指標から便そのものが特徴づけられてきました。例えば、便秘を定義する際には、排便頻度は少なく、ブリストールスケールは小さく(水分量が少なくてゴロゴロした)便によって特徴づけることができます。便の形状尺度となるブリストールスケールについては、#42で紹介しているので、気になる方はチェックしてみてください。

記事:https://chonaisoudan.com/blog/n7fb4b2cfe5ff/

ポッドキャスト:https://open.spotify.com/episode/0WJZ6wNyGk3wBNxBPBlvql

さて、排便頻度やブリストールスケールが、排便習慣や便の特徴づけに関連することをお話しましたが、これらに密接に関連する尺度があります。それが、腸通過時間 (gut transit timeやbowel transit time)です。これは、食物が口から取り込まれ肛門から便として排泄されるまでの時間になります。これは消化管、特に腸管の運動性に関連する指標です。今回ご紹介する研究では、腸管の運動性を青色のマフィンを食べてもらい腸通過時間を測定することで評価していきます。

青い便で便通過時間を調べ腸内細菌叢との関係を知る

今回ご紹介する研究は、2021年にGutへ掲載されたBlue poo: impact of gut transit time on the gut microbiome using a novel markerという論文になります。日本語に訳すと、青いうんち:新規のマーカーを用いた腸通過時間が与える腸内微生物叢への影響、という研究です。

この研究では、 英国および米国より集められた1000人を超える被験者を対象として、絶食状態の被験者に対して青色の食用色素が入ったマフィンを2個食べてもらいます。その後、便中にはじめて青い色素を確認するまでの時間を計測します。この他にも、過去3ヶ月の平均な便の形状や過去一週間の便の頻度をアンケートで解答してもらい、既存の尺度との比較も行います。また、この便とは別に、事前に採取した便のショットガンメタゲノムシーケンシングを行い、腸内細菌叢および機能のプロファイリングを行います。この他にも、食事のデータをアンケートから取得したほか、血液検査も行います。サンプル採取などでドロップアウトなどがあり、最終的には合計866名のデータが得られたので、解析をしました。

青い便による便通過時間の計測の結果、マフィンを食べてから半日以内に青い便が確認された群 (Fast)、半日から1.5日の間に確認された群 (Normal)、1.5日から2.5日の間に確認された群 (Normal)、2.5日以降に確認された群に分けることができました (Slow)。中でも0.5-1.5日の間に青い便が確認できたヒトの割合が最も多かったです。群全体の腸通過時間の中央値は28.7時間と、大体1日程度で食事が便として排出されるようです。腸通過時間とブリストールスケール、排便頻度を比較すると、ブリストールスケールが小さい、つまり水分量が少ないほど腸通過時間が長いこと、排便回数が少ないほど腸通過時間が長いことが確認されました。これは、直感的にも、長く便が腸管に滞在する過程で水分が吸収されるため、納得です。

続いて、腸内細菌叢との関連を調査すると、腸通過時間が長いほど、腸内細菌叢の多様性が高くなる傾向が確認されました。ここで、機械学習のモデル (ランダムフォレスト)によって腸内細菌叢から腸通過時間の群を予測したところ、高い予測精度を得ました。ブリストールスケール、排便頻度でも同様のモデルを構築しましたが、腸通過時間のモデルの方が予測精度が高かったようです。ここから、腸通過時間と腸内細菌叢は強く関連していることが示されました。

では、腸通過時間にはどのような細菌種が関連したのでしょうか?ここでは、合計12の細菌が腸通過時間に関連することが示され、Eubacterium rectaleを除く全ての細菌が腸通過時間が長くなるほど存在量の多くなっていました。ここには、例えば、Akkermansia muciniphila、Bacteroides spp、Alistipes sppなどが含まれていました。

まとめると、青い便による便通過時間の測定は、典型的な排便頻度やブリストールスケールよりも腸内細菌叢と密接に関連することが示唆され、一部の腸内細菌の増加あるいは減少と関連することが示されました。本来、腸通過時間を求めるには手間がかかるので、青いマフィンを用いた手法は簡便であり、代替案として優れ、大規模な疫学研究に応用できるとのことです。

参考文献

Asnicar F, Leeming ER, Dimidi E, et al. Blue poo: impact of gut transit time on the gut microbiome using a novel marker. Gut. 2021;70(9):1665-1674. doi:10.1136/gutjnl-2020-323877

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8349893/

おわりに

いかがでしたか?論文の最初にBlue pooという言葉が入っているのは、遊び心を感じさせるし、インパクトがあるなと思いました。そして、食用色素を便通過時間の測定に用いるというアイデアも良いなと思いましたし、腸内細菌叢との関連もクリアに見えていてクールな論文だなと思いました。いつか自分でも、ブルーマフィンを作って、まーマフィンではなくても良いですが、便通過時間を測ってみたいです。

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