#410 腸内細菌のクロスフィーディングについて。

更新日: 2024/07/05

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#410_note

毎週金曜日、19:30に更新中の腸内細菌相談室。室長の鈴木大輔がお届けします。

今回のエピソードは【科学系ポッドキャストの日】の共通テーマに沿ったエピソードをお届けします!"科学系ポッドキャストのテーマ企画は、共通テーマについて様々な番組の視点で語る企画です。"

今月のホストはひよっこ研究者のさばいばる日記さんです!ホスト頂きありがとうございます。

今回の共通テーマは、7月30日「国際フレンドシップ・デー」にちなんで"友情"で、お友達にまつわるお話を聴かせてください、とのことでした。そこで、腸内細菌相談室では腸内細菌の友情について考えてみたいと思います。

腸内細菌相談室では、腸内細菌や腸内環境にまつわる研究結果を元に、最新の知見をお届けする番組です。継続的にエピソードを楽しむことで、腸内細菌について詳しくなることができるので、ぜひフォローをお願いします!

腸内細菌の友情

友情って何でしょうね。辞書をひく前に、自分なりの定義を考えました。これを聴いている皆さんも、ご自身が思う友情について考えてみてください。

私にとっての友情は、"利害関係を考えることなしに尽くしても良いと思える気持ち"です。見返りを求めずに尽くしあえる、ただ楽しいから一緒にいるという点では、恋や愛と近い感覚をもっています。では、辞書的には?コトバンクの精選版日本国語大辞典によると、"友達の間で、相手の立場を尊重し思いやる心"と説明されていました。ということで、友達のためを思う心が友情ということで、私の定義は辞書的な意味に近かったようです。

友情は、心のあり方、気持ちであるので、主観的な概念です。定量的に友情のある無しを観測することはできません。したがって、友情の有無を評価したいのであれば、友情に紐づく行動のデータを集めるなどして、友情の有無を推定することが考えられるでしょう。

相手を思いやる行動のデータとは、例えば"体調を心配する (メッセージを送る)"、"誕生日プレゼントを送る"、"応援する"、などがあると思います。

では、人間世界の友情を少し離れて、腸内細菌の友情について考えてみましょう。腸内細菌は単細胞生物で、神経系が発達しているわけでもなく、ましてや心、気持ちなどあるはずもありません。したがって、腸内細菌間に友情はないです。

ここで、"誕生日プレゼントを送る"という人間の行動を考えた時に、腸内細菌の間でも観測できる現象があります。クロスフィーディングです。クロスフィーディングとは、ある腸内細菌が分解した物質が、別の腸内細菌にとっての栄養になるという、一種の共存関係を示します。腸内細菌のコミュニティは無数の細菌種によって構成されており、互いの排出する物質が互いの栄養になることが考えられていますが、その膨大な数故に研究は現在進行中です。

クロスフィーディングを考えると、腸内細菌の間にも友情があるように見えるので、(半ばこじつけですが) クロスフィーディングの最新研究について本日はご紹介します。

参考文献

・友情、コトバンク、精選版日本国語大辞典、Access: 20240704、URL: https://kotobank.jp/word/%E5%8F%8B%E6%83%85-144740

1,2-プロパンジオールというプレゼントを介したクロスフィーディング

今回ご紹介する研究は、2020年にApplied and Environmental Microbiologyへ掲載された"Ecological Importance of Cross-Feeding of the Intermediate Metabolite 1,2-Propanediol between Bacterial Gut Symbionts"という論文に掲載されています。日本語に訳すと、"腸内共生細菌間での中間代謝産物1,2-プロパンジオールのクロスフィーディングの生態学的重要性"です。1,2-プロパンジオールは非常に単純な構造をもつ有機化合物で、腸内細菌叢では中間代謝産物として観察されます。

腸内環境における大まかな栄養の流れとしては、食物繊維などの多糖や腸管粘液の成分であるムチンが、ある腸内細菌により分解されて1,2-プロパンジオールなどの中間代謝産物になり、中間代謝産物が別の腸内細菌により分解されて短鎖脂肪酸などの有用な化合物が産生されるものになります。このような、腸内細菌間のクロスフィーディングを研究することは、腸内細菌叢の成り立ちへの理解につながる他、有用な細菌を増やす上での基礎を提供します。

本研究では、Limosilactobacillus reuteri (旧名:Lactobacillus reuteri:ロイテリ菌 )、Bifidobacterium breve、Bifidobacterium bifidum、Escherichia coliを用いた、クロスフィーディングのin vitroおよびin vivoでの実験を行っています。Vitroの研究では、ロイテリ菌が利用できない糖の存在下でBreve菌、大腸菌を独立に培養し、培地の上澄みをロイテリ菌の培地に添加することでその増殖を確認しています。これにより、ロイテリ菌が利用できない等をBreveや大腸菌が代謝して、別の化合物、ここでは1,2-プロパンジオールを産生し、これをロイテリ菌が利用することを調査しています。

また、無菌マウスに対して、B. bifidum、B. breve、L. reuteriを投与し定着させます。目論見としては、B. bifidumがマウス腸管表面を覆うムチンを分解してフコースを産生し、フコースをBreveが利用して1,2-プロパンジオールに分解し、1,2-プロパンジオールをロイテリ菌が利用するクロスフィーディングを調査するため、この3菌を投与しています。ここで、ロイテリ菌については1,2-プロパンジオールの代謝に関連するpduCDEオペロンを欠失した菌株も同時に定着させることで、1,2-プロパンジオールを利用できるかできないかが、腸内環境での増殖にどのように影響を与えるのか評価していきます。すると、確かにpduCDEオペロンを欠失したロイテリ菌と比較して、通常のロイテリ菌が多く存在していることが確認されました。

さらに、Breveについては糖の一種であるフコース輸送体遺伝子に変異が入った菌株を定着させる場合も検討します。これにより、Breveはフコースを利用できなくなり、結果として1,2-プロパンジオールがロイテリ菌に対して供給されなくなる状況を作ります。すると、先程とは一転して、むしろpduCDEオペロンを欠失したロイテリ菌がより増加していることが確認されました。これは、pduCDEオペロンを使わない環境下では、むしろ環境でのニッチ形成に不利に働くことを示唆しているということです。

つまり、安直に考えると何でも代謝できる生物が最強に思えますが、無駄な遺伝子はむしろ環境での増殖や定着に不利に働くことを示しています。と、友情からはだいぶお話が逸れましたが、腸内環境ではクロスフィーディングによって腸内細菌間で栄養の受け渡しが行われており、腸内細菌の間に友情があるように見えるということです。

参考文献

Cheng CC, Duar RM, Lin X, et al. Ecological Importance of Cross-Feeding of the Intermediate Metabolite 1,2-Propanediol between Bacterial Gut Symbionts. Appl Environ Microbiol. 2020;86(11):e00190-20. Published 2020 May 19. doi:10.1128/AEM.00190-20

https://journals.asm.org/doi/10.1128/aem.00190-20

おわりに

いかがだったでしょうか。今回は、腸内細菌の友情っぽいクロスフィーディングについてお届けしました。他の科学系ポッドキャスターも、様々な視点から友情についてお話していると思うので、気になる方は是非チェックしてみてください。

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この番組は、メタジェンセラピューティクス株式会社の提供でお送りいたしました。

それではまた来週お会いしましょう!バイバーイ!

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