#411 ドライソーセージ中の多剤耐性菌と水平伝播。

更新日: 2024/07/12

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投稿者:

  • Daisuke Suzuki

#411_note

毎週金曜日、19:30に更新中の腸内細菌相談室。室長の鈴木大輔がお届けします。

今回のエピソードでは、ドライソーセージへの細菌の混入に警鐘を鳴らした研究をご紹介します。紹介の目的は、ドライソーセージの摂取に対する不安を煽るわけではなくて、食品を媒介して多剤耐性菌が拡散する経路があることを主張することです。食品を媒介した薬剤耐性遺伝子の拡散は、乳製品、サラダ、魚介類、肉製品、豚由来製品などのReady to Eat (食べられる状態にある) 食品において研究されています。

腸内細菌相談室では、腸内細菌や腸内環境にまつわる研究結果を元に、最新の知見をお届けする番組です。継続的にエピソードを楽しむことで、腸内細菌について詳しくなることができるので、ぜひフォローをお願いします!

食品とフードシステム

まずは食品について考えます。食品とは食べたり飲んだりするものですが、元をたどれば何らかの生物に行き着きます。もちろん、添加物などの一部には人工的に合成されたものが含まれることもあると思います。一方、米、パン、肉、魚、サラダ、チーズ、などなど、思い浮かぶ食品の多くの主成分、主体は生物に由来するものとして考えて良いでしょう。

食品が生物に由来するということは、生きていた生物を食すということです。つまり、材料としては、生物が生きるために備えていた物質が多く含まれており、その一部、あるいは大部分が別の生物が生きる上でも必要な物質になります。だからこそ、食物連鎖が成り立っているとも考えられます。

腐るという現象は、死した生物や組織に対して起こります。それは、代謝が行われなくなることで、生物としての構造や機能が保たれなくなり、たまたまそこにいる微生物が繁茂するためです。高温多湿な日本の夏は、様々な微生物の代謝速度に好都合なので、ものが腐りやすいです。

ここまでのお話で何が言いたかったのかというと、私達人間の食べ物は、微生物にとっても食べ物であるし、だからこそ衛生管理が重要になるということです。多くの場合には、食中毒を引き起こすような微生物などが注目されますが、今回ご紹介する研究では薬剤耐性菌に焦点を当てています。

本文ではフードチェインにプロバイオティクスとして導入されるEnterococcus faeciumが、他方では院内感染を引き起こす多剤耐性菌の側面もあることから、しっかりとモニタリングする必要があることを訴えています。では、本文の内容に迫ります。

ドライソーセージからEnterococcus faeciumの多剤耐性株が単離された

今回ご紹介するのは、2022年6月23日にFrontiers in Microbiologyへ掲載の"Genomic Insights of Enterococcus faecium UC7251, a Multi-Drug Resistant Strain From Ready-to-Eat Food, Highlight the Risk of Antimicrobial Resistance in the Food Chain"という研究です。日本語では、Ready-to-Eat食品から単離された多剤耐性の Enterococcus faecium UC7251株に対してのゲノムの洞察が強調する、フードチェイン上の薬剤耐性のリスクとなります。

この研究では、発酵イタリアンサラミから単離された Enterococcus faecium UC7251株 (以下UC7251株)について、薬剤耐性、重金属耐性、接合による遺伝子の水平伝播等を調査していきます。薬剤耐性の指標になるMIC (最小発育阻止濃度)を調査すると、欧州食品安全機関 (EFSA)の基準値と比較して、アンピシリン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ストレプトマイシン、エリスロマイシン、クリンダマイシン、タイロシン、テトラサイクリンに対する薬剤耐性が確認されました。

また、UC7251株の全ゲノムは、Illumina Miseqによるショートリードシーケンシング、PacBio Sequel II SMRTシーケンスによるロングリードシーケンシングを行い、ハイブリッドアセンブリーにより決定しました。薬剤耐性遺伝子および可動遺伝因子が検出がゲノム上から検出されました。さらに、重金属耐性として銅、亜鉛、カドミウムに対する遺伝子も決定されました。

さらに重要なことに、UC7251株をドナー株として、29種類の細菌株に対する、遺伝子の接合による伝播を調査したところ、Enterococcus faecalis OG1rf, Listeria innocua L7, Listeria monocytogenes DSM 15675, Staphylococcus aureus UC7180, Lactobacillus rhamnosus UC8647に対して、テトラサイクリン耐性遺伝子tetMがトランスポゾンTn-916を媒介して伝播していることが示唆されました。

つまり、食品中から確認されたE. faecium UC7251株は、トランスポゾンTn-916を介して他の細菌種に対しても薬剤耐性遺伝子を伝播させるリスクが示唆されたということです。

ここから、動物由来のReady to Eatな食べ物について、薬剤耐性遺伝子の拡散を制御する戦略、技術が重要であると著者は主張しています。

参考文献

・Belloso Daza MV, Milani G, Cortimiglia C, Pietta E, Bassi D, Cocconcelli PS. Genomic Insights of Enterococcus faecium UC7251, a Multi-Drug Resistant Strain From Ready-to-Eat Food, Highlight the Risk of Antimicrobial Resistance in the Food Chain. Front Microbiol. 2022;13:894241. Published 2022 Jun 23. doi:10.3389/fmicb.2022.894241

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9262338/

おわりに

今回紹介した論文の結論では、フードチェインや消費者の腸内細菌叢に対して薬剤耐性遺伝子が拡散することのリスクを提示しています。これからの食品衛生管理において、重要な知見だと感じました。私は生ハムが大好きなので、きっとある程度のリスクを承知で食べると思いますが、一方で、自分が薬剤耐性菌の保菌者になるかもしれないことを考えると、なかなか自分だけの問題でもないので難しいなと... この問題について皆さんはどう考えますか?

薬剤耐性遺伝子については、#396 【科学系ポッドキャストの日】地球を駆ける遺伝子の旅とヨーロッパ全域の細菌叢調査、でもお話しているので、気になる方はチェックしてみてくださいね。

https://open.spotify.com/episode/25y4eqNxXj4kTbadHR5mKN?si=t_DZxNFhR46cX0rqZZ4-0Q

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それではまた来週お会いしましょう!バイバーイ!

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