#412 魚の腸内細菌叢を知ろう。シンガポール周辺の細菌叢研究。

更新日: 2024/07/19

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#412_note

毎週金曜日、19:30に更新中の腸内細菌相談室。室長の鈴木大輔がお届けします。

僕は最近、魚釣りにハマっています。2024年2月にはじめて海釣りをしてから、ちょくちょく海へ足を運ぶようになりました。魚釣りをするほど、魚や生息域について知りたくなります。そこでふと、魚の腸内細菌叢について気になったので研究例を調べてみました。

腸内細菌相談室では、腸内細菌や腸内環境にまつわる研究結果を元に、最新の知見をお届けする番組です。継続的にエピソードを楽しむことで、腸内細菌について詳しくなることができるので、ぜひフォローをお願いします!

魚のあれこれ

魚の腸内細菌叢についてお話する前に、魚の前情報についてお話します。魚は、ヒトと同じく脊椎動物であり、進化的にはヒトの祖先になります。したがって、魚の方が地球上に早く出現してきており、その種類も多様で36893種 (2024年7月15日現在)が報告されています1)。我々が属する哺乳類は6495種 (2018年)とされていることから2)、魚類は圧倒的に多様です。今までの歴史、海の面積や体積を考えると、魚類が多様なのも納得です。

そんな魚類にも消化管は存在することから、腸内細菌が存在する一方で、調査はあまり進んでおらず、未開拓な研究領域であると言えます。

では、資源の観点で魚類について考えてみます。日本は島国なので、国土を海に囲まれており、水産資源に恵まれています。そんな日本ですが、その漁獲量は緩やかな減少傾向にあるようです。水産庁の報告によると、1984年 (40年前)には1282万tの漁業・養殖業生産量でしたが、排他的経済水域の設定、マイワシの漁獲量減少、漁業環境の悪化により、2021年には421万tと最盛期の約1/3まで落ち込んでいます3)。また、日本における魚介類の消費量も減少傾向にあります。水産庁の資料によると、1980-2000年代をピークに、日本における魚介類消費量が減少傾向にある一方で、全世界的な魚介類の消費量は増加の一途を辿っているようです4)。農林水産省の資料にも、日本における魚介類の消費量減少と、肉類の消費量増加の傾向が示されています5)。

魚類を含む水産資源は、漁獲量にさえ気をつけることで、持続的に恩恵を受けられることが特徴です。したがって、水産資源の一つである魚類についての理解を深めることは、重要と言えるでしょう。

今回のエピソードでは、魚類の腸内細菌叢について大規模に調査した研究をご紹介します!

参考文献

  1. Eschmeyer's Catalog of Fishes, CALIFORNIA ACADEMY OF SCIENCES, Access: 20240715, URL: https://researcharchive.calacademy.org/research/ichthyology/catalog/SpeciesByFamily.asp
  2. Connor J Burgin, Jocelyn P Colella, Philip L Kahn, Nathan S Upham, How many species of mammals are there?, Journal of Mammalogy, Volume 99, Issue 1, 1 February 2018, Pages 1–14, https://doi.org/10.1093/jmammal/gyx147
  3. 海の中の状況、水産資源について, 水産庁, Access: 2024/7/15, URL: https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/R4/LP/2.html
  4. (2)世界の水産物消費, 水産庁、Access: 2024/7/15, URL: https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/h29_h/trend/1/t1_2_3_2.html
  5. 特集1 だから、お魚を食べよう!(1), 農林水産省, Access: 2024/7/15, URL: https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1401/spe1_01.html

シンガポール周辺の魚の腸内細菌叢

今回ご紹介する研究は、2024年2月にbipfilms and microbiomesへ掲載された"The intestinal digesta microbiota of tropical marine fish is largely uncultured and distinct from surrounding water microbiota" (熱帯の海水魚の消化管内容物微生物叢は、多くが培養されておらず周囲の水細菌叢と異なる)という論文にまとまっています。

本研究のモチベーションは、多様な種類の魚類について腸内細菌叢について知られていることは少なく、また研究事例は一般的に温帯地域で行われていて、熱帯における魚の腸内細菌叢について調査が必要であるということです。そこで、本研究では熱帯に生息する海水魚、および養殖魚について腸内細菌叢の構成と多様性について調査し、それに影響を与える要因を理解することを目的としています。

本研究では、シンガポールの領海内の16箇所から、282 匹の魚類サンプルを取得しています。また、比較のために7箇所から養殖魚53匹も取得しています。これらの魚類について、栄養段階、すなわち生態系のピラミッドにおける位置づけを割り当てて後の解析に使用します。併せて、周囲の水サンプルを採取することで、魚類の腸内細菌叢と水中の細菌叢組成を比較します。

調査の結果、3属の細菌を除いて魚の腸内細菌叢と水中の細菌叢は共有されておらず、魚の腸内と水中の細菌叢組成は大きく異なることが示されました。これについては、天然魚でも養殖魚でも同様の結果が得られています。また、培養可能な細菌か否かを、細菌の種類が割り当てられなかったシーケンス結果をもとに推定すると、養殖魚の腸内細菌叢に占める培養可能な細菌の割合は、天然魚や天然水中の割合と比較して多いことが示されました。裏を返すと、水中や天然魚の腸内には、未培養な細菌が多く含まれることを示唆しています。また、腸内細菌叢のβ多様性解析の結果から、魚の腸内細菌叢は養殖魚か否かによって大別され、さらに魚種によりクラスターを形成することが示唆されました。また、分散分析の一種であるPERMANOVAからは、親による世話のタイプが腸内細菌叢に影響を与えていることも示されました。

ここから、魚の腸内細菌叢は周囲の水に含まれる細菌叢とは異なること、養殖か天然かで異なること、親の世話の種類が腸内細菌叢に影響を与えることが示されました。他にも様々な結果が得られていますが、ここでは省略します。

以上より、魚の腸内細菌叢を決定するパラメータは色々あることがわかりました。一方で、本研究は観察研究なので、相互作用については介入研究が待たれます。 

参考文献

Soh M, Tay YC, Lee CS, et al. The intestinal digesta microbiota of tropical marine fish is largely uncultured and distinct from surrounding water microbiota. NPJ Biofilms Microbiomes. 2024;10(1):11. Published 2024 Feb 19. doi:10.1038/s41522-024-00484-x

おわりに

いつも皆様が食べている(かもしれない?)お魚と腸内細菌叢に関する研究はいかがでしたでしょうか?ヒト腸内最細菌叢の分野と比較すると、魚と腸内細菌叢の関連研究は、これから盛り上がってくるという印象を受けました。ヒトと腸内細菌叢の関係を魚に当てはめれば、魚の健康状態や感染症、漁獲量についての知見が得られるはずなので、今後が楽しみな分野です!

以上、魚の腸内細菌叢について大規模に調査したシンガポール周辺の研究をご紹介しました!

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この番組は、メタジェンセラピューティクス株式会社の提供でお送りいたしました。

それではまた来週お会いしましょう!バイバーイ!

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