#414 Peptostreptococcus stomatisが結腸の腫瘍形成を促進する。

更新日: 2024/08/02

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投稿者:

  • Daisuke Suzuki

#414_note

毎週金曜日、19:30に更新中の腸内細菌相談室。室長の鈴木大輔がお届けします。

今回のエピソードでは、大腸がん関連細菌のPeptostreptococcus stomatisが、どのようにして腫瘍形成を促進するのか明らかにした研究をご紹介します。大腸がんの増悪に直接的に関係する細菌としては、Fusobacterium nucleatum、Peptostreptococcus anaerobiusなど複数知られていましたが、ここに加わる新たな細菌が発見されたことになります。

腸内細菌相談室では、腸内細菌や腸内環境にまつわる研究結果を元に、最新の知見をお届けする番組です。継続的にエピソードを楽しむことで、腸内細菌について詳しくなることができるので、ぜひフォローをお願いします!

Peptostreptococcus stomatisはどのように腫瘍形成を促進するのか?

まず、なぜ大腸がんと腸内細菌の関係が重要なのかおさらいします。大腸がんは、大腸、すなわち腸内環境にて生じるがんです。過去10年の研究では、様々な国で大腸がん患者の腸内細菌叢が調べられ、大腸がん患者の腸内環境に豊富に存在する細菌が発見されてきました。さらに、それらの細菌の一部は、腫瘍形成を促進したり、炎症を引き起こしたりすることが、細胞やマウスを用いた実験により示されています。

すなわち、観測事実として大腸がんの腸内環境に特定の細菌が豊富に存在するばかりか、一部の細菌は大腸がんの悪化に関連すると考えられているのです。つまり、これらの細菌を制御することで、大腸がんの増悪を抑えたり、腸内細菌叢を調査することで大腸がんを早期発見する、大腸がんリスクを推定できる可能があるのです。

日本を含めた世界各国で大腸がんの罹患者は多いことからも、腸内細菌を始めとした様々な視点で大腸がんを理解することが大切です。

今回ご紹介する研究は、2024年7月25日にCell Host & Microbeへ公開された"Peptostreptococcus stomatis promotes colonic tumorigenesis and receptor tyrosine kinase inhibitor resistance by activating ERBB2-MAPK"という論文に掲載されています。ここで注目するのは、Peptostreptococcus stomatis というグラム陽性の球菌です。この細菌は、日本人の大腸がん患者を対象としたコホート研究でも、早期癌、進行がんで豊富に存在することが分かっています。

同様に本研究で収集した香港を始め、公開されているデータによるとフランス、オーストリア、ドイツ、イタリアでも大腸がん患者の腸内にP. stomatisが豊富に存在することがわかりました。腸内細菌が大腸がんに関連しているかを調査するシンプルな方法は、マウスに投与することです。

本研究では、腫瘍を自然発生するApcmin/+マウスや、炎症、発がんを促す薬剤を投与したマウスを使用しました。また、比較群としては、生理食塩水、E. coli、P. stomatisを投与する群を用意します。すると、小腸および大腸において、P. stomatisを投与した時に腫瘍形成の数や体積が増加していることが示されました。また、P. stomatisは炎症を惹起したり、腸管バリア機能において重要:上皮細胞間をつなぎとめるE-cadherinやOccludinの発現量を低下させることも示されました。

続いて、ヒトの正常、およびがんの大腸細胞と、P. stomatisを一緒に培養します。結果、P. stomatisは大腸がん細胞のみについて、細胞増殖を促進し、アポトーシスを抑制することが示されました。加えて、がん細胞に優先的に接着し浸潤することが確認されています。

正常な細胞には影響を与えなかったということが興味深いです。

がん細胞か否かによってP. stomatisの影響が変化するのは、後の解析で、細胞に発現しているインテグリンα6/β4が関与すると示唆されています。というのも、正常な細胞と比較して大腸がん細胞でインテグリンα6/β4は発現量が増加しており、このタンパク質に対してP. stomatisのフィブロネクチン結合タンパク質が結合しているためです。

整理すると、がん細胞に高発現しているインテグリンα6/β4に対してP. stomatisのフィブロネクチン結合タンパク質が結合することで、がん細胞の増殖促進、腫瘍形成が促進という流れです。P. stomatisとがん細胞の相互作用によって、がん細胞内ではERBB2の発現量が増加していました。さらに、ERRB2の発現量増加に伴い、Mitogen Activated Protein Kinaseシグナル伝達経路が促進し、腫瘍形成を促進することが示唆されました。

ちなみに、フィブロネクチン結合タンパク質はfructose-1,6-bisphosphate aldolaseであり、このタンパク質を大腸菌に過剰発現することでも大腸がん細胞の増殖促進効果を再現できたとのことです。抜かりないですね。

このようにP. stomatisは細胞表面のタンパク質を使ってがん細胞に特異的に接着し、がん細胞における代謝に影響を与えて腫瘍形成を促進しているようです。

参考文献

Huang P, Ji F, Cheung AH, et al. Peptostreptococcus stomatis promotes colonic tumorigenesis and receptor tyrosine kinase inhibitor resistance by activating ERBB2-MAPK. Cell Host Microbe. Published online July 23, 2024. doi:10.1016/j.chom.2024.07.001

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39059397/

おわりに

冒頭でもご紹介した通り、P. stomatisは日本の大腸がん患者においても増加が確認されている細菌です。P. stomatisとがん細胞間の相互作用を阻害することができれば、大腸がんの増悪を抑制する一助になるかもしれません。もちろん、P. stomatisだけではなく、共存するその他大勢の腸内細菌が大腸がんには関連しますが、個別具体的な関係を地道に、着実に解明していくこの研究は、非常にかっこいいなと思いました。

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それではまた来週お会いしましょう!バイバーイ!

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