#415 【科学系ポッドキャストの日】細菌叢から見るフェムテックの現状。

更新日: 2024/08/09

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投稿者:

  • Daisuke Suzuki

#415_note

毎週金曜日、19:30に更新中の腸内細菌相談室。室長の鈴木大輔がお届けします。

今回のエピソードは【科学系ポッドキャストの日】の共通テーマに沿ったエピソードをお届けします!"科学系ポッドキャストのテーマ企画は、共通テーマについて様々な番組の視点で語る企画です。"

今月のテーマは「女性の活躍」で、ホストはサイエンマニアのレンさんです。ホストいただきありがとうございます。レンさんによるテーマの説明を引用すると、"科学系の道に進む女性を応援するため、「女性の活躍」に関するエピソードを広く募集します!"とのことでした。腸内細菌相談室からは、細菌叢から見るフェムテックの現状についてお話します。

腸内細菌相談室では、腸内細菌や腸内環境にまつわる研究結果を元に、最新の知見をお届けする番組です。継続的にエピソードを楽しむことで、腸内細菌について詳しくなることができるので、ぜひフォローをお願いします!

まずはフェムテックについてのお話です。

生物学的な違いとフェムテック

おことわり:何か、"それは違うよ!!"といった誤認識がありましたら、コメントなどで訂正頂けると嬉しいです。女性特有のイベントを男性である私に体験はできませんが、想像することは出来るし、正しい知識を身に着け続けたいと思っています。

ヒトには、女性と男性という性別があります。遺伝的には、保有する染色体23対のうち、性染色体1つの違い、X染色体かY染色体かによって、女性と男性の違いが生まれます。染色体の1/46の違いと表現すると小さいようですが、生物学的には大きな性差があります。生物学的に、女性には月経や月経前症候群(PMS)、妊娠などのイベントがあり、男性にはありません。女性と男性が存在することで、次の世代にヒトの命が繋がります。

女性という性別に備わった月経は、初経から閉経までの数十年にわたり続く現象です。ホルモンバランスが変化し、心身の状態も大きく変化するタイミングが通常毎月やってきます。月経やPMSには個人差があり、ヒトによっては心身を大きく疲弊します。これは、男性にはない女性特有の、生物学的な違いから来る悩みの種となります。

今回のテーマは、「女性の活躍」ということで、科学系の道に進む女性を応援することが趣旨なので、それらの解決策についてフェムテックの視点で考えます。

女性の活躍が語られるコンテキストとしては、男女に対する固定概念から来る押し付けや機会損失、あるいは先程からお話してきた生物学的な差(性差)に由来する女性の悩みへの不理解に関連することが多いのかなと思っています。

社会的にジェンダーバイアスが明文化されることで、少なくとも私の同世代では、ここ数年で意識が高まっているように感じます。また、世代間で受けてきた教育の違いや、一般的な価値観の違いがあることから、年齢間でしばしば考えや言葉の表現に対して違和感が生じるということも実体験としてあります。もちろん一括りに年齢間で考え方が異なるというわけではなく、そのような傾向を肌感覚として持っているということです。これから若年層が社会的な力を持つことで、ジェンダーバイアスに染まらない、事実と固定概念を峻別できる子供が生まれてきて、真の意味で女性・男性に関わらず活躍出来る社会が来るのかなと期待しています。

やや話が逸れましたが、ここでは性差に由来する女性の悩みを解消することにフォーカスします。女性の悩みを解消する技術をフェムテック(Femtech)とよび、FemaleとTechnologyの造語になります。ここでは、経済産業省 経済産業政策局 経済社会政策室が推進するフェムテック等サポートサービス実証事業のサイトにある、フェムテックの説明を引用します。


Femtechは、FemaleとTechnologyをかけ合わせた造語で、女性が抱える健康課題をテクノロジーで解決する製品やサービスなどを指します。

ジャンルは、月経や不妊治療、出産、育児、子育て、婦人科系疾患、女性向けケアアイテム、セクシャル・ウェルネスに関わるものなど多岐に渡ります。これらの悩みや課題は、個人差があり、誰かに相談することではないとの思い込みから我慢する女性も多くいました。

すべての人が健康で幸せな日々を送れるよう、解決するために何ができるかを考え、解決策を提供するツールがフェムテックです。

新しい当たり前をつくり女性が働きやすい社会を Femtech、経済産業省 経済産業政策局 経済社会政策室、Accessed:20240805、URL: https://www.femtech-projects.jp/


女性が抱える健康課題を技術で解決することがフェムテックの考え方です。ここからは、細菌叢から見たフェムテックについて考えます。

参考文献

新しい当たり前をつくり女性が働きやすい社会を Femtech、経済産業省 経済産業政策局 経済社会政策室、Accessed:20240805、URL: https://www.femtech-projects.jp/

細菌叢から見たフェムテックの現状

この番組は腸内細菌叢についてお話する番組なので、細菌叢視点でフェムテックについて考えます。細菌叢とフェムテックがどう関連するのかについては、正直現在解明中のところも多いのですが、関連することの裏付けはあります。裏付けとしては、男女で構成する細菌叢が異なること、腸内環境と内分泌系には密接な関係があることです。

ヒトに住む細菌の細胞数は38兆個と言われていますが1)、これは標準的な男性に注目した値であることをご存知でしょうか。Fuchsらの推定によると、標準的な男性が38兆個であるのに対して、女性は44兆個であり、体細胞に対する細菌数は女性の方が多いと推定されています1)。女性と男性で体格を始めとした体の作りは違うので、納得です。

また、腸内環境における腸内細菌や腸管の代謝産物が、血流に移行することで、腸と脳が関連する:脳腸相関についても考えられています。

現在解明中の細菌叢とフェムテックの関係ですが、徐々に分かってきていることもあります。例えば、近畿大学による横断的な観察研究では、PMSをもつ女性について腸内細菌叢を調査したところ、対照群と比較して特定の腸内細菌の存在量に差が見られたようです2)。腸内細菌叢からPMSリスクを予測するといったサービスも出たようですが、精度などについては分かりません。

また、腟内細菌叢 (Vaginal Microbiome)に関連する研究としては、切迫早産や膣炎などのリスクに関連するという研究が進められていますが、腸内細菌叢の研究と比較すると報告数は少ない印象 (私が知らないことも十分に影響しますが)です。2021年にCell PressのMedに公開された"Complex species and strain ecology of the vaginal microbiome from pregnancy to postpartum and association with preterm birth"という論文では、文献によって切迫早産と腟内細菌の関連が認められているという研究やそうでない研究があること、国によっても健康な腟内細菌叢が異なる可能性があることをIntroductionで指摘しています。

細菌叢とフェムテックの分野の今後の研究に期待です。

参考文献

1) Sender R, Fuchs S, Milo R. Revised Estimates for the Number of Human and Bacteria Cells in the Body. PLoS Biol. 2016;14(8):e1002533. Published 2016 Aug 19. doi:10.1371/journal.pbio.1002533

2) Takeda T, Yoshimi K, Kai S, Ozawa G, Yamada K, Hiramatsu K. Characteristics of the gut microbiota in women with premenstrual symptoms: A cross-sectional study. PLoS One. 2022;17(5):e0268466. Published 2022 May 27. doi:10.1371/journal.pone.0268466

3) Pace RM, Chu DM, Prince AL, Ma J, Seferovic MD, Aagaard KM. Complex species and strain ecology of the vaginal microbiome from pregnancy to postpartum and association with preterm birth. Med. 2021;2(9):1027-1049. doi:10.1016/j.medj.2021.06.001

おわりに

細菌叢の中で〇〇が切迫早産やPMSに関連する!という研究があれば説明しやすかったのですが、細菌叢とフェムテックの関連研究は分野としては成長段階にあるので、言い切れないことが多かったです。一方で、免疫系や内分泌系と細菌叢の研究は他の疾患では深く行われており、その影響も徐々に明らかになっていることを考えると、細菌叢とフェムテックについてもいずれ何らかの製品やサービスが出てくると、室長個人は考えています。

以上、細菌叢から見るフェムテックの現状についてお話しました。

科学系ポッドキャストの日、共通テーマ「女性の活躍」には23番組が参加しているそうなので、他のポッドキャスターの切り口でもお話を聴いてみてはいかがでしょうか?

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この番組は、メタジェンセラピューティクス株式会社の提供でお送りいたしました。

それではまた来週お会いしましょう!バイバーイ!

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