#418 【科学系ポッドキャストの日】体温と腸内細菌叢。ウイルス抵抗性の鍵は胆汁酸にあり。

更新日: 2024/09/01

一覧へ戻る

投稿者:

  • Daisuke Suzuki

#418_note

毎週金曜日、19:30に更新中の腸内細菌相談室。室長の鈴木大輔がお届けします。

今回のエピソードは【科学系ポッドキャストの日】の共通テーマに沿ったエピソードをお届けします!"科学系ポッドキャストのテーマ企画は、共通テーマについて様々な番組の視点で語る企画です。"

今月のテーマは「あつあつ」で、ホストは英語でサイエンスしナイトさんです。ホストいただきありがとうございます。”色んなジャンルの科学と切っても切り離せない熱力と圧力の話はもちろん、いつものように解釈を広げてもOKです”とのことだったので、腸内細菌相談室からは、体温と腸内細菌叢、そしてウイルス感染症の関係について調べた研究をご紹介します!

腸内細菌相談室では、腸内細菌や腸内環境にまつわる研究結果を元に、最新の知見をお届けする番組です。継続的にエピソードを楽しむことで、腸内細菌について詳しくなることができるので、ぜひフォローをお願いします!

ウイルス感染症

まずはウイルス感染症についてのお話です。ウイルス感染症と聞くと、記憶に新しいのは新型コロナウイルス感染症、COVID-19ですね。2019年の4-5月にパンデミックが起こって以降、社会的な混乱と変化を私達は経験してきました。

COVID-19は、SARS-CoV-2と呼ばれるコロナウイルスにより発症する病気です。

コロナウイルスには様々な種類が確認されています。国立感染症研究所公開の資料によると、コロナウイルスは風邪の原因となる病原体として10-15%に認められる4種類のウイルスと、動物に由来し重篤な肺炎に関連するSARS-CoV、MERS-CoV、SARS-CoV-2が知られています1)。また、コロナウイルスの他にも、インフルエンザウイルスも社会に大きな影響を与え続けています。

例えば、2019年から2024年の現在までに、COVID-19に7億8千万人が罹患しています2)。約10人に一人です。COVID-19の拡大に伴って、リモートワークが普及したり、PCRという言葉が一般的に知られるようになったり、mRNAワクチンが使用されるようになったりもしました。

このように、社会に大きな影響を与えるウイルス感染症は、今後発生するリスクは十分ありえます。だからこそ、ヒトに対するウイルス感染症への理解を深めることが重要なのです。

ウイルスは、ヒトにとっては非自己、つまり異物に相当します。種類によってはヒトの細胞に感染することで、正常な代謝を阻害し、ホメオスタシスを脅かします。ですから、ヒトは免疫機能を発達させることで、ウイルスを抗原とみなして排除する仕組みを備えてきました。

近年、ウイルス感染症からヒトの体を守るにあたって重要な免疫機能に対して、重要な役割を果たすと考えられる様になってきたのが、腸内環境に生息する腸内細菌叢です。

今回のエピソードでは、マウスやハムスターの体温とウイルス感染症の関係を切り口に、腸内細菌叢の役割について論じた研究をご紹介します!

参考文献

1) コロナウイルスとは、国立感染症研究所、Access: 20240901、URL: https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/9303-coronavirus.html

2) Number of COVID-19 cases reported to WHO (cumulative total), WHO COVID-19 dashboard, Access: 0240901, URL: https://data.who.int/dashboards/covid19/cases

体温、腸内細菌叢、ウイルス感染症

今回のエピソードでは、2023年6月30日にNature Communicationsへ公開された、"High body temperature increases gut microbiota-dependent host resistance to influenza A virus and SARS-CoV-2 infection"という研究をご紹介します。タイトルを訳すと、高い体温はA型インフルエンザウイルスやSARS-CoV-2感染に対する腸内細菌叢依存的な宿主抵抗性を増加させる、となります。鍵は、高い体温です。

本研究では、様々な温度下でマウスに対してウイルスを感染させるという実験を行っています。著者らは日本人の研究グループということで、東京の冬の平均気温や最高気温をもとに、飼育環境の温度を設定していました。ここでは、ウイルス感染前から4℃や36℃、通常の温度として22℃での飼育を開始し、続いてA型インフルエンザウイルスを経鼻感染、あるいは気管内投与しました。

調査の結果、36℃で飼育したマウスの体温は38-39℃にもなり、一方4℃で飼育したマウスは36-37℃の体温でした。インフルエンザウイルスを感染させてからの体温の推移を確認すると、36℃で飼育したマウスの体温に変化はなく、一方で22℃、4℃で飼育したマウスの体温の低下が感染成立後3日目から確認されました。感染後2週間の生存曲線を描くと、36℃の飼育マウスはすべて生き延びていたのに対して、4℃で飼育のマウスは7日目にすべての個体が死に、22℃で飼育したマウスは2週間目に20%のマウスのみが生存していました。36℃で飼育したマウスの特徴として、感染後2日目、3日目に肺に存在するウイルス量が他のマウスと比較して少なかった点にあります。他のモデルマウス、ハムスター、ウイルスを用いた実験でも、高い室温にて飼育した動物のウイルス抵抗性が高かったそうです。

さらに、どの程度の室温であればウイルス抵抗性を得られるのかを調査するために、22℃、28℃、34℃、36℃で飼育したマウスに対してインフルエンザウイルスを感染させました。すると、36℃で飼育したマウスについてのみ、体温が他の群と比較して有意に高く、生存率も2週間後にて100%で、ウイルス存在量も少なかったということです。

ここで、腸内細菌叢の影響について評価をするために、高い温度で飼育するマウスに対して食物繊維の少ない食事を与える群、抗生物質を投与する群を用意して、ウイルス感染に対する反応を観察していきます。低食物繊維食を与えた群、抗生物質を投与した群については、マウスの便中に含まれるDNA量が有意に減少し、盲腸内の細菌群衆構造も変化していました。

ここで興味深いことに、各群のマウスについて、体温、ウイルス存在量について差はなかったものの、感染2週間後のマウスの生存率は100%のところから、低食物繊維食、抗生物質投与群では約20%に落ち込んでしまいました。22℃で飼育すると腸内細菌叢の体温に与える影響が有意にでてきて、低食物繊維や抗生物質投与によって基礎体温が有意に低下していました。

ここで、便中、血中、肝臓中に含まれる代謝産物の調査を行うと、高温の環境で飼育したマウスについては、低温および室温飼育したマウスと比較して、一次胆汁酸および二次胆汁酸が増加していることが確認されました。一次胆汁酸は肝臓で合成され脂肪の吸収に関与する化合物、二次胆汁酸は一次胆汁酸が腸内細菌による働きを受けて合成される化合物になります。たとえ高温の環境でマウスを飼育したとしても、腸内細菌が少なくなる、あるいは死滅することでウイルス抵抗性が低下すること、高温の環境下で飼育すると一次胆汁酸や二次胆汁酸が増加することから、ウイルス抵抗性に対する胆汁酸の影響を評価していきます。

ここでは、胆汁酸を飲水投与する実験や、胆汁酸共存下でのウイルス複製実験、胆汁酸を認識する膜タンパク質と結合するアゴニスト投与によるマウスへの影響評価を行いました。実験の結果、ウイルスに対する胆汁酸の直接的な影響として、二次胆汁酸の一種であるデオキシコール酸はウイルスの膜構造を破壊したり、複製を阻害することでウイルスの増加を制御することが示唆されました。また、宿主に対する働きかけとして、デオキシコール酸は特定の受容体に働きかけることで、肺組織への好中球の過剰な移動を抑制することで有害な炎症を抑えることなどが示されました。

実際に、順天堂大学病院にCOVID-19で入院した46人の患者について血中の化合物を調査すると、軽症患者群と比較して、中等症患者群で胆汁酸濃度が低下していることが確認されました。

まとめると、高温環境でマウスを飼育することで、腸内細菌依存的にウイルス抵抗性が高まり、それは腸内細菌が一次胆汁酸をもとに作る二次胆汁酸が鍵となるということになります。体温って、腸内細菌叢の働きと密接に関与しているんですね。

参考文献

https://www.nature.com/articles/s41467-023-39569-0

Nagai, M., Moriyama, M., Ishii, C. et al. High body temperature increases gut microbiota-dependent host resistance to influenza A virus and SARS-CoV-2 infection. Nat Commun 14, 3863 (2023). https://doi.org/10.1038/s41467-023-39569-0

おわりに

今回のエピソードでは、2024年9月の科学系ポッドキャストの日の共通テーマ"あつあつ"に沿って、高温の環境でマウスを飼育することで変化する、腸内細菌叢とウイルス抵抗性についてお話しました。この研究成果は、ウイルス感染に対して腸内細菌の代謝産物が深く関与することを示唆しており、プロバイオティクス、プレバイオティクスや便移植の可能性を感じさせるなと思いました!

科学系ポッドキャストの日、共通テーマ「あつあつ」には20を超える番組が参加しているそうなので、熱や圧力について、様々な切り口からのお話を楽しんで頂けたらと思います!

腸内細菌相談室では、番組に対する感想、質問、リクエストを募集しています。X、Instagram、Apple podcast、Spotifyからいつでもご連絡ください!

この番組は、メタジェンセラピューティクス株式会社の提供でお送りいたしました。

それではまた来週お会いしましょう!バイバーイ!

一覧へ戻る

Content-Type: text/plain;charset=utf-8