#421【Gut-Bone Axis】ビフィズス菌の特定の株をマウスに投与すると骨形成が促進される。

更新日: 2024/09/20

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#421_note

毎週金曜日、19:30に更新中の腸内細菌相談室。室長の鈴木大輔がお届けします。

今回のエピソードでは、Gut-Bone Axis、日本語に訳すとするならば骨腸相関について取り上げます。つまり、腸内環境の状態と骨の形成・吸収が関係しているという概念になります。骨は、私達の体を支える土台であり、良好な骨の状態なくして、健康な日々を送ることはできません。まずは骨についておさらいした上で、研究の内容に迫っていきましょう!

腸内細菌相談室では、腸内細菌や腸内環境にまつわる研究結果を元に、最新の知見をお届けする番組です。継続的にエピソードを楽しむことで、腸内細菌について詳しくなることができるので、ぜひフォローをお願いします!

骨形成と骨吸収

カニやカブトムシのように、私達には外骨格がありません。代わりに、骨による内骨格が体を支えています。骨は、骨基質により作られていて、成分はコラーゲンとリン酸カルシウムの結晶です。この骨基質は、とても動的な存在です。つまり、骨基質の形成と破壊が繰り返えされています。具体的には、骨芽細胞による骨形成、破骨細胞による骨形成が起こることで、メンテナンスされているのです。この現象は、骨リモデリングと呼ばれています。

骨リモデリングの過程で、様々な物質のやり取りが行われるのですが、その物質が血中に放出されることで、体の中で起こる骨リモデリングの状況を推し量ることが出来ます。

例えば、I型プロコラーゲン-N-プロペプチドは、骨形成の過程でコラーゲンが形成される際に切り出される物質なので、骨が作られていることの指標になります。

骨形成は若年でピークを迎え、骨格が成熟します。骨形成の程度は、遺伝的要因、栄養や健康状態、環境の影響を受けるようです。

骨にまつわる社会課題として、骨粗鬆症を取り上げます。骨粗鬆症財団によると、"骨粗鬆症とは骨量(骨密度)が減る、または骨の質が低下することで骨がもろくなり、骨折しやすくなる病気"と説明されています1)。また、骨粗鬆症により骨折リスクがあがり、結果として骨折になり寝たきり、認知症につながることも説明されています1)。骨量の減少は、加齢、女性ホルモンの減少、カルシウム不足により、骨リモデリングの骨形成/骨吸収バランスが崩れることで始まるとされています1)。骨粗鬆症財団の数字でみる骨粗しょう症には、骨粗鬆症の統計がまとめられており、80歳代になると女性の2人に1人が骨粗鬆症という実態が紹介されています。

骨の健康は、健康寿命に重要な要因なのです。では、そんな骨形成に、腸内細菌が関連することを示した研究をご紹介します。

参考文献

1) 骨粗鬆症 とは?、公益財団法人 骨粗鬆症財団、Access: 20240919、URL: https://www.jpof.or.jp/osteoporosis/tabid249.html

2) 数字でみる骨粗しょう症、公益財団法人 骨粗鬆症財団、Access: 20240919、URL: https://www.jpof.or.jp/osteoporosis/tabid265.html

ビフィズス菌の特定の株をマウスに投与すると骨形成が促進される

今回紹介する研究は、2023年12月20日にGut Microbesへ公開の論文、Human breastmilk-derived Bifidobacterium longum subsp. infantis CCFM1269 regulates bone formation by the GH/IGF axis through PI3K/AKT pathwayに掲載されています。

翻訳すると、ヒト母乳由来の Bifidobacterium longum subsp. infantis CCFM1269株は、PI3K(ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ)/セリン/スレオニンキナーゼAKT 経路によるGH/IGF軸を介して、骨形成を制御するという論文です。

この研究では、1週齢のSPFマウスに対して、ヒト母乳由来の Bifidobacterium longum subsp. infantis CCFM1269株、対照としてinfantis I5TI株、あるいは生理食塩水を投与します。3、4、5週齢まで投与する群を設けて、大腿骨や脛骨(スネ)における骨形成や遺伝子発現量、血中および便中代謝産物、腸内細菌叢などの評価をしていきました。結果がたくさんあるのでかいつまんで話します。

まず注目したいのは大腿骨および脛骨の長さです。生理食塩水投与群やI5TI株を投与したマウスと比較して、CCFM1269株を投与したマウスの大腿骨や脛骨は長いことが確認されました。これは、骨形成が促進されている一つの証拠になります。続いて血中の骨形成、骨吸収マーカーを評価すると、CCFM1269株を投与したマウスについて、オステオプロテジェリン、つまり破骨細胞を抑制する、骨粗鬆症の抑制因子が増加しており、また骨芽細胞により生成されるタンパク質のオステオカルシンも増加していることが確認されました。腸内細菌叢の中でBifidobacterium属の組成に注目すると、いずれの週においてもB. longum subsp. infantisやB. breveが優先していることが分かりました。多様性解析や主成分分析等も行っていましたが、明確にどのようなメカニズムで、腸内細菌が骨形成に関連しているかまでは踏み込めていない印象でした。一方で、別の解析では、CCFM1269株を投与したマウスの血中で、成長ホルモンが3週齢マウスで有意に増加していたり、骨の発育に重要なインスリン様成長因子、およびその結合タンパクの増加も確認されています。また、大腿骨および脛骨におけるPI3K(ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ)、セリン/スレオニンキナーゼの増加も確認れています。ここから、B. longum subsp. infantisの一部の株であるCCFM1269株を投与することで、成長ホルモン、インスリン様成長因子の代謝経路が活性化されて、下流の骨形成に関する分化因子が制御され、骨形成が促進することが示唆されました。

参考文献

Ding M, Li B, Chen H, et al. Human breastmilk-derived Bifidobacterium longum subsp. infantis CCFM1269 regulates bone formation by the GH/IGF axis through PI3K/AKT pathway. Gut Microbes. 2024;16(1):2290344. doi:10.1080/19490976.2023.2290344

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38116652/

おわりに

今回紹介した研究では、ビフィズス菌の特定の株が、骨形成を促進することを、SPFマウスにより示した研究をご紹介しました。この論文では、マウスにおいて若い時期にビフィズス菌を投与することで、足回りの骨の骨形成の促進が示されています。若い頃から骨粗鬆症リスクの低下を見越して、腸内細菌叢に介入するというのも、一つの予防医療につながるなと思いました。今回のエピソードはいかがでしたか?感想があれば教えてください!

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この番組は、メタジェンセラピューティクス株式会社の提供でお送りいたしました。

それではまた来週お会いしましょう!バイバーイ!

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