#423 【科学系ポッドキャストの日】腸でも味を感じてる?

更新日: 2024/10/04

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投稿者:

  • Daisuke Suzuki

#423_note

毎週金曜日、19:30に更新中の腸内細菌相談室。室長の鈴木大輔がお届けします。

今回のエピソードは【科学系ポッドキャストの日】の共通テーマに沿ったエピソードをお届けします!"科学系ポッドキャストのテーマ企画は、共通テーマについて様々な番組の視点で語る企画です。"

今月のテーマは「味」で、ホストはそんない理科の時間からよしやすさんです。ホストいただきありがとうございます。味といえば、食と密接に関係するキーワードなので、腸内細菌相談室では味覚と腸にまつわるお話をしていきます!

腸内細菌相談室では、腸内細菌や腸内環境にまつわる研究結果を元に、最新の知見をお届けする番組です。継続的にエピソードを楽しむことで、腸内細菌について詳しくなることができるので、ぜひフォローをお願いします!

味覚という感覚の正体

まずは生物に備わっている、味を知覚する仕組み、味覚について考えていきます。味覚は、嗅覚と同様に外部環境から体内に取り込む物質を知覚する仕組みです。嗅覚では揮発性の化合物を知覚するのと対照的に、味覚では水溶性の化合物を知覚します。

現代社会においては、楽しみの一つとして味覚を考えることが多いです。美食、美酒、などなど、明日の食に困ることがなくなった人間は、食事を通して得られる美味しさを追求しています。美味しいを食卓にて囲む(ことも個食が多い現代では少なくなって来ましたが)ことが、社会的な役割を担ったりもしています。

一方、野原を駆け回っていた頃の人類は、今日、明日にでも食べ物にありつくことができなければ、餓死してしまいます。しかし、目の前に置かれたものが食べ物なのか否か、判別できない場合があります。基本的には、見たり触ったり、匂いを嗅いで、最終的には味をみるわけですが、見た目が良かったとしても、中身が腐っているかもしれません。また、自分にとって必要な物質を含んでいるのか、分かったら嬉しいです。

味覚では甘味、苦味、酸味、塩味、旨味という味を、舌の上に存在する味蕾という細胞のまとまりにて識別しています。人間は、これら5種類の味すべてを楽しめるようになりますが、本来であれば苦味や酸味は食べられない物を示すシグナルなので、味覚はヒトを守ってきたといえます。

味蕾は、文字通り蕾のような形をしており、味細胞(みさいぼう)が集まってできています。味細胞には方向性が存在し、ある一方で受け取った化合物の信号を、細胞のもう一方から興奮として神経に伝えます。そんな、味を感じる仕組みは、口の中、主に舌の上での議論に度々登場します。しかし、舌と同じような味覚の仕組みが、実は腸にもあるのです。

腸でも味を感じてる?

今回ご紹介する研究は、2007年 Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS)に掲載のGut-expressed gustducin and taste receptors regulate secretion of glucagon-like peptide-1に掲載されています。日本語に訳すと、腸に発現するガストデューシンと味覚受容体が、グルカゴン様ペプチドの分泌を制御する、となります。ガストデューシンとは、甘みや苦味に関連する膜タンパク質の一種です。グルカゴン様ペプチド1、glucagon-like peptide-1 (GLP-1)は、腸管内の分泌細胞から分泌される ペプチドホルモンで、血糖の調整に作用します。

2007年時点では、炭水化物を経口投与することでGLP-1が分泌されるが、グルコースを静脈注射をしてもGLP-1の分泌は誘導されないことが謎でした。そこで、腸管の表面にはグルコースを識別する仕組みがあるのではないかと考えられます。そこで、研究者たちはヒト十二指腸に存在するL細胞という顆粒細胞が甘味受容体であるガストデューシンを発現しており、マウスにおいても同様の結果が得られたことを観測しました。ガストデューシン欠損マウスとの比較実験から、ガストデューシンをもつマウスでは、たしかにグルコースを知覚してGLP-1を分泌していることが確認されています。In vivo、つまり生物を用いた実験だけではなく、ヒトのL細胞系列を用いた実験では、グルコースのみならず、人工甘味料であるスクラロースによってもGLP-1が分泌されることを突き止めています。

論文のアブストでも”L cells of the gut ‘‘taste’’ glucose through the same mechanisms used by taste cells of the tongue”としているように、腸のL細胞は舌と同じ仕組みによってグルコースを味覚により感じ取っていることを示しました。もちろん、腸での甘みを脳みそで感じるという意味ではなく、甘みに関する化合物を認識することでホルモン分泌を促し、糖代謝に役立てているという意味になります。腸管でのGLP-1分泌促進は、膵臓でのインスリン分泌を促進するので、2型糖尿病や肥満における治療の代替案を提案できるかもしれない、としています。

舌と同じ甘味の知覚システムが、十二指腸にもあるというのは面白いですね。

参考文献

Jang HJ, Kokrashvili Z, Theodorakis MJ, et al. Gut-expressed gustducin and taste receptors regulate secretion of glucagon-like peptide-1. Proc Natl Acad Sci U S A. 2007;104(38):15069-15074. doi:10.1073/pnas.0706890104

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17724330/

おわりに

今回のエピソードでは、Gut Feelingならぬ、Gut Tastingに関するエピソードをお届けしました。水溶性化合物のセンサーとしての味覚は、舌だけではなく体の様々な部分で使用されているのかもしれませんね。

科学系ポッドキャストの日、共通テーマ「味」には様々な分野を背景にもつポッドキャスターが参加しているので、ぜひ様々な切り口からのお話を楽しんで頂けたらと思います!

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この番組は、メタジェンセラピューティクス株式会社の提供でお送りいたしました。

それではまた来週お会いしましょう!バイバーイ!

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