#425 腸管バリア機能に重要な分泌型抗体を分解する腸内細菌が見つかった。

更新日: 2024/10/18

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投稿者:

  • Daisuke Suzuki

#425_note

毎週金曜日、19:30に更新中の腸内細菌相談室。室長の鈴木大輔がお届けします。

2024年9月27日、Scienceに興味深い論文が発表されました。その論文には、腸管粘膜を守る抗体を分解することで、免疫不全を誘導する新種の細菌が記されていました。発表から一ヶ月も経っていないこの論文ですが、2024年10月18日現在で、既に5813回ダウンロードされている注目の論文です。腸管バリアを壊しにかかる新種の細菌は、どんな奴なのでしょうか?

腸内細菌相談室では、腸内細菌や腸内環境にまつわる研究結果を元に、最新の知見をお届けする番組です。継続的にエピソードを楽しむことで、腸内細菌について詳しくなることができるので、ぜひフォローをお願いします!

それでは本編です。

腸管バリア機能と獲得免疫

腸管バリア機能の復習をします。小腸および大腸は栄養や水分を吸収する、体内と体外の物質交換の場です。一方で、腸内細菌を始めとする、自分以外の生物・ウイルスが住んでいる場でも有り、これらの生物・ウイルスは免疫機能にとっては排除するべき存在です。したがって、物質の透過性を担保しながら、敵を寄せ付けないようにすることが、腸内環境には求められます。

そこで、発達した腸管をもつ生物は、腸管バリア機能を発達させることで、細菌やウイルスが体内に侵入しないようにしてきました。腸管バリア機能を構成する要素は様々ですが、ここでは免疫によるバリアに注目します。腸管の周囲にはリンパ節が発達している他、小腸には粘膜固有層という免疫細胞が集まる場が存在します。腸管に集まる免疫細胞は様々ですが、腸管に細菌を侵入させない意味で重要な細胞はB細胞です。B細胞は骨髄にて成熟する免疫細胞で、抗原の侵入のシグナルを受け取ることで、抗体を産生します。産生された抗体は、体に広く存在しており、血中にいる場合もあれば、腸内環境を始めとする粘膜外に分泌されることもあります。

特に粘膜に分泌される抗体を特別に分泌抗体と呼びます。分泌抗体が細菌などに由来する抗原に結合することで、抗原の働きを弱めたり不活性化し、腸内環境が守られるのです。そんな抗体が、減ってしまったらどうなるでしょうか?抗体を減らしてしまう腸内細菌がいたらどうなるでしょうか?

抗体を分解する腸内細菌

論文の全文の内容をご紹介したかったのですが、アクセス権がOpenで無かった(特定の機関に所属していれば読める)状態だったので、Abstractの内容からわかることをもとに、研究のご紹介をします。(室長は一応本文に目を通しています)

改めて、本日ご紹介する研究は、2024年9月27日にScienceに掲載の論文”A host-adapted auxotrophic gut symbiont induces mucosal immunodeficiency”に掲載されています。日本語訳すると、宿主に適応したauxotrophicな腸管共生生物が粘膜における免疫不全を誘導する、となります。auxotrophicは専門用語で、特定の栄養を必要とする生物のことを指します。

この研究では、あるマウスでは分泌型抗体が少ないことが観察されており、この表現型に関連する腸内細菌が存在するのではないか、という始まりになっています。そこで、分泌型抗体を分解する細菌を様々な条件で培養し、単離できる条件を検討し、最終的に新種のグラム陰性細菌を発見します。ここでは、Tomasiella immunophilaと名付けています。言葉の意味合い的には免疫好きな細菌という命名ですね。この細菌は、細胞壁の成分であるN-アセチルムラミン酸が無いと良好な増殖を示さないこと、単一の菌株をマウスに投与しても定着しないことが明らかになりました。また、分泌型抗体を多く産生するマウスの糞便とともに、T. immunophilaをマウスに投与すると定着に成功することが若似ました。

この細菌に感染したマウスでは、病原性細菌であるSalmonella Typhimuriumや病原性真菌のCandida albicansに対する感受性が高くなり、また薬剤により損傷した腸管の回復が遅いことも分かりました。

この細菌は、OMV (外膜小胞: Outer Mmbrane Vesicle)に抗体の分解酵素を含んでいることも明らかになり、抗体を分解する酵素の機能はげっ歯類に特異的であり、他のタンパク質に対してその機能は及ばないことも明らかとなりました。

この話は、主にAbstractのResutlsの部分に記載されています。

この論文で興味深いのは腸内細菌が抗体を特異的に分解する酵素を産生すること、その効果はげっ歯類に特異的であること、酵素が外膜小胞という飛び道具に含まれていること、特定の栄養や共存株が腸管の定着には重要である点です。

マウスの腸内環境におけるニッチに特化した生存戦略として、他の細菌に頼りながら、自身も増殖をしている細菌と考えると、ヒト腸内環境にも抗体を分解する細菌がこれから見つかるかもしれません。腸管バリア機能に腸内細菌が重要であることを従来とは異なる角度から示す研究でした。

参考文献

Lu Q, Hitch TCA, Zhou JY, et al. A host-adapted auxotrophic gut symbiont induces mucosal immunodeficiency. Science. 2024;385(6716):eadk2536. doi:10.1126/science.adk2536

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adk2536

おわりに

いかがでしたでしょうか?抗体を分解する腸内細菌、面白いですね。また、他の成分や細菌が良好な増殖と定着には必要であるというのも、興味深いです。そう考えると、2つ前のエピソードで紹介した本田先生のデコロナイゼーションの研究のように、腸内細菌個々では見られなかった機能が、一緒になると見えてくるという視点が、今後の研究において益々重要になってくるなと思います。

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