#426 腸内細菌叢という曖昧な言葉。 便と腸管内容物の細菌叢はどう異なる?

更新日: 2024/10/25

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投稿者:

  • Daisuke Suzuki

#426_note

毎週金曜日、19:30に更新中の腸内細菌相談室。室長の鈴木大輔がお届けします。

今回は、腸内細菌叢研究のそもそも論に迫る研究をご紹介します。リスナー/読者の皆さんは、腸内細菌叢をどのように説明しますか?言葉通りに説明するのであれば、腸内環境に住む細菌のまとまり/コミュニティです。では、腸内のどこの話をしているのでしょうか?

腸内細菌相談室では、腸内細菌や腸内環境にまつわる研究結果を元に、最新の知見をお届けする番組です。継続的にエピソードを楽しむことで、腸内細菌について詳しくなることができるので、ぜひフォローをお願いします!

それでは本編です。

腸内細菌叢という曖昧な言葉

腸内細菌叢、あるいは腸内環境とは曖昧な言葉です。腸内環境は、十二指腸から直腸まで、空間的に広がりをもち、場所ごとに異なる役割/物質があります。十二指腸では消化酵素が分泌され、小腸では栄養が吸収され、大腸では水分が吸収されるという具合です。腸管内の酸素分圧の観点でも、管腔内容物のpHの観点でも、やはり十二指腸から直腸まで異なります。

多様性に富む、細菌にとっては広大な空間を、我々はしばしば腸内環境と一括りに捉え、あたかも腸内環境に住む腸内細菌叢が定義できるように考えてしまいがちです。

また、多くの研究では、便中に含まれる細菌叢を調査することで、観測された細菌叢を腸内細菌叢と呼びます。確かに、便は非侵襲的で、採取がしやすく、大規模な研究を行うにはうってつけのサンプルです。しかし、先に述べたように多様な腸内環境に生きる腸内細菌を、便中の細菌叢を調べることで知ることができる、と考えて良いのでしょうか?

そんな疑問に答える研究をご紹介します。

便、直腸スワブ、腸管内容物

今回のエピソードでご紹介する研究は、2024年10月22日に公開された論文、”Fecal samples and rectal swabs adequately reflect the human colonic luminal microbiota”に掲載されています。日本語では、”便サンプルと直腸スワブはヒトの結腸腸管内細菌叢を十分に反映する”となります。メッセージが一目でわかる、良いタイトルですね。

ここでは2つの単語を簡単に説明します。直腸スワブとは、結腸と肛門の間にある直腸を拭ることや、そのサンプルを指します。結腸とは、大腸のうち、盲腸と直腸の間にある器官で、大腸の大半を占めます。よくイメージする大腸と考えて良いです。

この研究では、10名の健康な被験者を募りました。10名の被験者からそれぞれ、内視鏡によるサンプリングの前に直腸スワブを行い、続いて内視鏡による腸管内容物のサンプリングを吸い取りながら行います。本研究では、回腸の終わり、盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、直腸の内容物のサンプリングを行いました。内視鏡の一週間以内に便を自宅で採取してもらいました。本研究では、腸管洗浄による影響を考慮するために、腸管洗浄(bowel prep)を行わないで上記のサンプリングを行っています。

調査項目は、細菌叢の多様性、特定の細菌の相対存在量、細菌のサンプル間の相関係数です。調査の結果、同一個人から採取された異なるサンプル間の違いと比較して、個人間の細菌叢の差が非常に大きいことがわかりました。Shannon Indexによるα多様性の評価では、サンプル間 (便、直腸スワブ、腸管内容物)で類似し、門レベルで細菌叢組成も類似していました。もう少し細かく見ていくと、便サンプル、および直腸スワブと各腸管内容物中の細菌叢の存在量の間の相関係数は、被験者にはよるもののいずれも高いことがわかりました。一部、Prebotella属は盲腸と比較してS状結腸と下行結腸にて少なく、一方Christensenellaceaeは盲腸と比較してS状結腸と直腸にて多いことがわかりました。

結論として、細菌叢全体の構造や存在量のレベルに注目すると、腸管内容物と直腸スワブ、便サンプルの細菌叢は類似していると見倣して良いと結論づけています。一方、一部の細菌では対応が見られない場合もあるので、サンプルは研究の設けた仮説/質問にもよると加えられていました。

本文でものべられていますが、サンプル数は少ないので、今後他の研究と結果を比較するメタアナリシスなどが登場することで、より一般的な結論が得られると思います。

参考文献

Rode J, Brengesjö Johnson L, König J, et al. Fecal samples and rectal swabs adequately reflect the human colonic luminal microbiota. Gut Microbes. 2024;16(1):2416912. doi:10.1080/19490976.2024.2416912

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/19490976.2024.2416912?src=exp-la#d1e342

おわりに

いかがでしたか?腸内細菌叢とひとことに表現しても、実際に即して考えると様々な環境にて生息していることをご理解頂けたかと思います。今回は消化管の方向に沿った調査でしたが、消化管の輪切り方向についても空間的な広がりがあります。内腔側から、外粘液層、内粘液層、上皮といった具合です。腸内細菌叢の想像が膨らみますね。

“#68 糞便と生検体。細菌叢の違いについて。”で紹介した研究では、生検体を採取するなど異なる調査を行っているので、興味のある方は是非チェックしてみて下さい!

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それではまた来週お会いしましょう!バイバーイ!

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