#427【科学系ポッドキャストの日】自己と非自己と腸内環境。

更新日: 2024/11/01

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#427_note

毎週金曜日、19:30に更新中の腸内細菌相談室。室長の鈴木大輔がお届けします。

今回のエピソードは【科学系ポッドキャストの日】の共通テーマに沿ったエピソードをお届けします!”科学系ポッドキャストの日は毎月10日ごろに様々なポッドキャストがホストとなりトークテーマ企画を開催しています。”

今月のテーマは「境界」で、ホストはサイエントークさんです。ホストいただきありがとうございます。

腸内環境は、個体レベルでの自己と非自己の境界の1つですので、腸内細菌相談室で話す意味のあるトークテーマだと思います。今回は、ざっくばらんに腸内環境と境界について、腸内細菌相談室の観点で話したいと思います。

普段の腸内細菌相談室では、腸内細菌や腸内環境にまつわる研究結果を元に、最新の知見をお届けしています。継続的にエピソードを楽しむことで、腸内細菌について詳しくなることができるので、ぜひフォローをお願いします!

では本編です。

境界とは何か?

まずは境界の意味を確認します。Weblio辞書、デジタル大辞泉によると、境界とは1.土地のさかい、2.物事のさかいとされています1)。何かの間、境目にと考えて良いでしょう。これまでに、様々な分野において境界が研究されてきました。

科学における境界と聞いて、リスナーの皆さんは何をイメージしますか?室長の頭の引き出しを探してみると、物理では摩擦や衝突、化学では電極反応や触媒化学、化学工学の境膜、界面活性剤、生物学では細胞膜や免疫反応がヒットしました。

境目、つまり異なる物同士が出会う場所になるので、離れ離れでは起こり得なかった反応が起こることがあり、それが科学的に重要な意味を持つため、研究が進んできたと私は考えています。

本番組、腸内細菌相談室で取り扱う内容は腸内環境での出来事と、それにまつわる研究です。そこで、今回のエピソードでは境界としての腸内環境についてお話し、自己と非自己の境界について考えます。

参考文献

きょう‐かい〔キヤウ‐〕【境界/×疆界】, デジタル大辞泉, Access: 2024/10/30, URL: https://www.weblio.jp/content/%E5%A2%83%E7%95%8C

腸内環境は自己と非自己のフロンティア

腸内環境とは、十二指腸から直腸までの器官とそこに内包される生態系を指します。

生態系なので、異なる生物が互いに相互作用を及ぼし合いながら存在しています。私には私の、あなたにはあなたの腸内環境、そして生態系が存在しています。

十二指腸から直腸、特に小腸から大腸までの役割は、栄養と水分の吸収をすることです。消化管の前半、すなわち口腔、食道、胃までに食べたものを断片化し、変性、分解させて吸収の準備をしています。十二指腸にて諸々の酵素が振りかけられ、小腸にて栄養を、大腸にて水分を吸収します。また、大腸にて便の形成をして、老廃物や食物残渣を体外に排出するというのも大切な腸内環境の機能です。

ここで注目したいのが、物質の吸収は腸内環境にて行われている点にあります。私達の体を形作る物質は、ここで吸収されているのです。腸管にて吸収された物質は肝臓へ向かい、全身の血流に運ばれて循環します。

消化活動の結果残った消化産物、腸管上皮細胞などライフサイクルの短い細胞、水分、そして腸内細菌は便として体外に排出されます。つまり、不必要になった物質を排出するのもまた、腸内環境の役割なのです。もちろん、汗や尿からも水分と水溶性の物質は体外に排出されており、便と並んで重要な物質の排出経路です。

少なくとも、体へ取り込む入り口、そして不必要なものを体外へ排出する出口として腸内環境を挙げられます。腸内環境は、物質的な観点での、人体における境界なのです。

腸内環境に限らない話ですが、ヒトを覆う上皮組織は、体外との境界です。小腸と大腸を構成する上皮組織は、物質の吸収に適した細胞により構成されています。

ここまでは、個体レベルでの境界と腸内環境についてでした。

もう一点、腸内環境とは切っても切り離せない免疫についてお話します。

腸内環境は、微生物の増殖に重要な栄養、水分、嫌気的な環境が揃っています。非常に高密度に、多様な細菌、真菌、原生生物、それらに感染するウイルスが存在しています。つまり、体内から腸管という厚さ数ミリ向こうには、非自己、免疫学的には無数の抗原が存在するのです。これらの体内への侵入を許すと、感染症を引き起こし、個体としての恒常性を損ないます。ですから、腸内環境には物質の吸収をしつつも、非自己に対する免疫機能を発達させ人体を守る機能が重要になるのです。

まさに、腸管の組織数ミリこそが、自己と非自己の境界ともいえます。

そして、腸内環境に備わる腸管バリア機能(粘液や抗体、抗菌ペプチドの分泌、細胞間の密着結合、免疫細胞、そして腸内細菌叢そのもの)こそが、境界としての働きを助けるのです。

腸内環境は異なる物同士が出会う場所でありながら、必要なものは吸収しなければならないからこそ、興味深い研究対照なのです。

おわりに

今回は、腸内環境と境界という概念的なお話をしました。境界について、本番組以外にも様々なポッドキャスト番組がお話しているので、気になる方はぜひチェックしてみて下さい。

普段は、論文を根拠に腸内細菌や腸内環境にまつわる最新の研究成果を紹介しています。きっと、腸内環境に対するあなたの疑問へのヒントや答えがあるので、探してみて下さい。ない場合は、X、Instagram、Apple podcast、Spotifyからいつでもご連絡ください!

この番組は、メタジェンセラピューティクス株式会社の提供でお送りいたしました。

それではまた来週お会いしましょう!バイバーイ!

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