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現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠
前回のエピソードに引き続いて、今回も病原性に関与するとされる細菌、Ruminococcus gnavus (以下ナーバス菌)についてお話します。先週のテーマである炎症性腸疾患の回でも少し触れましたが、特殊なナーバス菌が炎症性腸疾患患者の腸内にいることをお話してきました。今回は、ナーバス菌を主人公に迎えて、その生態や疾患との関係についてお話していきます!
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ナーバス菌は、胞子を形成しないグラム陽性の双球菌で、ヒトや動物の腸内常在菌として知られています1)。また、ナーバス菌は偏性嫌気性細菌であり、酸素の存在により増殖することができないとされています。
ナーバス菌は、英語でgnavusと記載しますが、ラテン語でbusyやactiveを意味する言葉が語源となっています2)。
前述の通り、ナーバス菌はヒト腸内常在菌であり、90%以上の消化管に存在するとされています3)。また、ナーバス菌の株によって糖鎖分解機能に違いがあることが知られており、結果としてヒト腸内の粘液に含まれる糖タンパク質の一種、ムチンを分解して利用できるかが異なってきます3)。したがって、腸内環境におけるナーバス菌の役割を論じるためには、ナーバス菌内の機能多様性について知る必要があるといえます3)。
前回お話したBacteroides fragilis同様に、ナーバス菌も嫌気性菌感染症を引き起こします。特に、近年はナーバス菌による菌血症が報告されるようになってきました。菌血症とは、血流に細菌が侵入した状態を指し、これによって全身性の炎症につながる場合もあります。菌血症の原因としては、歯周炎や歯茎の損傷、菌の付着した尿路へのカテーテル、外科的治療など様々です。
2018年の症例報告では、腸管の病変や化膿性関節炎が確認されず、患者が高齢であったことから、高齢であることがナーバス菌をはじめとする細菌の菌血症のリスクファクターであると考察しています4)。
ナーバス菌は、炎症性腸疾患の関連細菌としても注目されています。ナーバス菌は、偏性嫌気性細菌であることから、酸化ストレスには弱いです。炎症性腸疾患患者の腸内では、炎症に起因する酸化ストレスから、偏性嫌気性細菌に対しては厳しい環境になっていると言えます。
2017年に報告された炎症性腸疾患患者と健康な方の腸内環境を比較した研究では、炎症性腸疾患患者の腸内に通性嫌気性細菌=酸化ストレスに強い嫌気性細菌がより多く存在することが指摘されています。さらに興味深いことに、炎症性腸疾患患者の腸内でもナーバス菌が確認されています。このナーバス菌の機能を調べると、酸化ストレスに対応する酵素などの機能が確認され、健康な方の腸内に存在するナーバス菌とは異なっているとのことでした。
ナーバス菌でも色々な種類がいて、種類によっては疾患に関係することが考えられているのが現状です。
フラジリス菌もナーバス菌も、腸内には普通に存在する細菌ですが、状況によっては私達の健康を脅かしてしまいます。そんな細菌たちとの適切な距離のとり方の1つが、腸活であると室長は考えています。
以上、Ruminococcus gnavusについてお話しました!次回は、プロバイオティクスとして注目されているLacticaseibacillus casei菌についてお話します。
先週のエピソードでも、ナーバス菌については詳しくお話しています!
https://open.spotify.com/episode/4JFee6yAijtDA0AJ5wWaJJ?si=sOwL_9iaRdG_LNtm9l9s2A
https://note.com/chonai_saikin/n/n71ac92062acb
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本日も一日、お疲れさまでした。
1) W.C. Moore, J. Johnson, L. Holdeman, Emendation of Bacteroidaceae and Butyrivibrio and descriptions of Desulfomonas gen. nov. and ten new species in the genera Desulfomonas, Butyrivibrio, Eubacterium, Clostridium, and Ruminococcus, Int. J. Syst. Evol. Microbiol., 26 (1976), pp. 238-252.
2) LPSN.dsmz.de Species Ruminococcus gnavus, Access: 20230301, URL:
https://lpsn.dsmz.de/species/ruminococcus-gnavus
3) Crost EH, Tailford LE, Le Gall G, Fons M, Henrissat B, Juge N. Utilisation of mucin glycans by the human gut symbiont Ruminococcus gnavus is strain-dependent. PLoS One. 2013 Oct 25;8(10):e76341. doi: 10.1371/journal.pone.0076341. PMID: 24204617; PMCID: PMC3808388.
4) 明保 洋之, 岩崎 毅, 山﨑 誠太, 三宅 啓史, 長野 広之, 石丸 裕康, 田中 栄作, 阿部 教行, 松本 学, 大野 裕貴, 松谷 日路子, 福田 砂織, 河野 久, 嶋田 昌司, 松尾 収二, 八田 和大, 関節炎や腸管病変を伴わなかった超高齢者Ruminococcus gnavus 菌血症の一例, 天理医学紀要, 2018, 21 巻, 1 号, p. 14-18.
5) Hall, Andrew Brantley et al. “A novel Ruminococcus gnavus clade enriched in inflammatory bowel disease patients.” Genome medicine vol. 9,1 103. 28 Nov. 2017, doi:10.1186/s13073-017-0490-5.