#18 乳糖不耐症と腸内細菌。 Part2: 遺伝的要因か、腸内細菌か。

更新日: 2022/09/09

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現役の腸内細菌研究者がお届けする、腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔がお届けします。

今回のテーマは、前回に引き続いて"乳糖不耐症"です。乳糖不耐症は、ラクターゼが不足することでラクトースを分解できずに、下痢や軟便などを引き起こす慢性消化器疾患です。前回は、乳糖不耐症の歴史的な背景や、乳糖がどのように下痢を引き起こすのか、ということをお話してきました。

今回は、乳糖不耐症という疾患が遺伝性の疾患なのか、あるいは腸内細菌などの環境要因に支配を受ける疾患なのか、複数の根拠をもとにお話します。

この内容は、ポッドキャストでもお楽しみ頂けます!

https://open.spotify.com/episode/2y1bGQjBlR0qC67ixKr2J1

乳糖不耐症は遺伝性の疾患なのか?

乳糖不耐症は先天性の疾患なのか、つまり遺伝性の疾患なのか。まずは、先天性の乳糖不耐症についてお話します。ここでは、小児慢性特定疾病情報センターの情報を元にお話していきます。

ラクトースを分解する酵素はラクターゼです。ラクターゼの情報は、LCTと呼ばれる遺伝子に記されています。このLCT遺伝子に対して変異が生じている場合、体内ではラクターゼを生成することができないため、乳糖不耐症の症状を呈します。

これは、乳児期の段階から母乳、ミルクを摂取できないことを示すため、大きな問題になります。

前回の記事では、乳児期は母乳を飲めるが、年齢を重ねるにつれて乳糖不耐症になる場合を紹介しました。これは、LCT遺伝子自体には変異が入っていないケースです。では、なぜラクトースを分解できないか。それは、別にMCM6と呼ばれる遺伝子の存在があるためです。

遺伝子の機能は、他の遺伝子と相互に関係しながら調節されることが知られています。ここでは、MCM6がLCT遺伝子の機能を制御することによって、離乳期後にラクターゼ生産量が低下し、ラクトースの分解能力が低下するのです。これが、後天的に乳糖不耐症になるメカニズムです。

ここから、乳糖不耐症は遺伝性の疾患の場合もあるし、後天的に発症する遺伝性でない疾患の場合もあるのです。では、腸内細菌の出る幕はどこにあるのでしょうか?

乳糖不耐症には腸内細菌も重要です。

続いては、M.F.B. Goisらの、レターに基づいてお話しします。レターとは、査読期間が短く通常の論文と比較して少ない内容を扱う論文の種類です。

今までの研究では、ビフィズス菌やその他の乳糖発酵菌が腸内の乳糖濃度に影響を与えることが報告されています。また、著者らは、成人ヒトの腸内ビフィズス菌量が乳糖不耐症に関連する遺伝子の変異と乳製品摂取量に依存することを確認しています。

また、白人の乳糖不耐症患者集団について調査した結果、ビフィズス属菌の相対存在量が高いことが判明しました。また、乳糖不耐症群では非乳糖不耐症群に比べてビフィズス属菌の存在量の増加が認められ、乳製品の摂取量と正の相関が乳糖不耐症群では見られたが、非乳糖不耐症 群では認められませんでした。なお、乳製品摂取量については、両群に乳製品の摂取量の違いは確認されませんでした。また、乳糖不耐症患者では、ビフィズス属菌の存在量と胃腸の不調スコアとの間に正の相関が観察されています。6つの特定の胃腸の不調のうち、ビフィズス菌の存在量は腹痛、不快感、膨満感と正の相関があったがあったそうです。

この結果から、乳糖不耐症に伴う症状は、乳糖の摂取のみならず、ビフィズス属菌の影響を受ける可能性が示されました。

ここまでの議論を整理すると、こんな感じです。

  • 乳糖不耐症は先天性と後天性に分けられる。

  • 先天性乳糖不耐症はLCT遺伝子の変異による。

  • 後天性乳糖不耐症は、MCM6遺伝子やビフィズス属菌の存在による。

乳酸菌としてのビフィズス属菌は、善玉菌として摂取が推奨されていますが、乳糖不耐症の方にとってはリスクになりうる、そんなことを示す研究のお話でした。

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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。

参考文献

遺伝的要因についての文献

https://www.shouman.jp/disease/details/12_01_001/

乳糖不耐症、小児慢性特定疾病情報センター、Accessed: 2022/08/30

腸内細菌についての文献

https://gut.bmj.com/content/71/1/215

Brandao Gois MF, Sinha T, Spreckels JE, et al, Role of the gut microbiome in mediating lactose intolerance symptoms

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