#10 あなたの56%は細菌である。

更新日: 2022/09/01

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現役の腸内細菌研究者がお届けする、腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔です。

本日は、私達の体に住んでいる細菌の数を推定した2016年、Senderらの研究をご紹介します。(参考文献は文末に記載)

多くの文献では、100兆個以上の細菌が体に住んでいると言及されています。私達の体の細胞数が数十兆個と言われる中で、これは驚異的な数と言えます。

細胞の数でいうと、私達はヒトというよりもむしろ細菌であるということになるのです。

しかし、この100兆個という細菌の数は根拠が不十分です。このことに批判的な目を向け、ヒトに住む細菌の個数を推定したのがこの研究です。

この記事の内容は、耳からもお楽しみ頂けます。

https://open.spotify.com/episode/3bxhKE3ObzlFEpfMsRkvfS

推定の方法と結果

推定の対象は、男性、20~30歳、体重70kg、身長170cmとしています。複数の文献から、体のさまざまな器官での細菌の数を比較していきます。

次に、体内のヒト細胞の総数を、「代表的な」細胞の大きさを用いた計算と、細胞の種類ごとの集計を比較しながら推定します。

推定の結果、体内のヒトの細胞数は3.0×10^13個であるのに対して、細菌の細胞数は3.8×10^13個となりました。ヒトの細胞に対して1.3倍の細菌が存在し、私達のカラダは約56%の細菌により構成されているという計算になります。この推定量は、標準体重70kg男性の集団に対して25%の不確実性と53%のばらつきがあることが求められました。
(3.0×10^13 = 30000000000000個)

推定において重要なポイントとしては、測定された糞便中の細菌密度を大腸内の平均細菌密度として使用することが、どの程度現実的であるかということでした。回腸から盲腸にかけての細菌の密度は約10^8個/g (1億個/g)と低いが、便中の細菌密度は約10^11個/g (1000億個/g)と、結腸に沿って密度が増加しているというところです。

また、推定には不確実性を含んでいますが、要因の1つに個人差や条件によって大腸の内容物の体積に関する情報が限られているためです。

また、今回の推定の限界点として抗生物質治療中の人、大腸内視鏡検査のための腸の準備中の人、感染症の人、消化管の慢性疾患など、他の多くの集団については述べられていないところにあります。

私達はヒトなのか、細菌なのか。

最後にですが、今回の研究を元に、私達とは何者なのかということについて考えてみます。推定値として、私達のカラダは半分以上が細菌により占められているとなったわけです。

となると、私達が自分と思っている主体は、実は多くが細菌ということになります。皮膚や消化管など、カラダの表面に奴らは存在しているといえど、腸管上皮細胞などを介してカラダの内側との物質的なコミュニケーションをとっています。

実は、体質や気分の多くが彼らによって影響を受けているのであれば、もはや細菌たちを私達の個性の一部としてみなして良い、むしろそれが普通であると私は考えています。

腸内は、細菌が高密度に生息している環境です。となると、個性の多くが宿る場所とみなすことができるわけです。ヒトにはヒトの腸内細菌。腸から自分を知っていくことが、これからは大切になると信じています。

後半は、やや哲学的なお話になりましたが、それだけ私達を考える上で大切な細菌。その根拠を示す研究の紹介でした。 

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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。

参考文献

https://journals.plos.org/plosbiology/article?id=10.1371/journal.pbio.1002533

Sender R, Fuchs S, Milo R (2016) Revised Estimates for the Number of Human and Bacteria Cells in the Body. PLoS Biol 14(8): e1002533. https://doi.org/10.1371/journal.pbio.1002533

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