#39 便が茶色く尿が黄色い。腸内細菌とグルクロン酸抱合の化学。 Part2: グルクロン酸抱合から便器へ。

更新日: 2022/09/30

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現役の腸内細菌研究者がお届けする、腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔です。

前回と今回のテーマは、便が茶色く尿が黄色い理由を明らかにすることです。こどもの頃の素朴な疑問には、実は腸内細菌による働きを含めた多くの化学反応が行われていることを理解するきっかけになります。一見簡単そうに見える疑問って、答えるのが難しいです。

今回は、前回血中にてアルブミンと結合したビリルビンが肝臓に運ばれるところから話が始まります。

この内容は、ポッドキャストでもお楽しみ頂けます!

https://open.spotify.com/episode/4FcBWlrjTeNW5braaEUKcm

グルクロン酸抱合による修飾

アルブミンと結合したビリルビンは、肝臓に運ばれてきます。肝臓に運ばれてくると、抱合と呼ばれる化学反応がビリルビンに起こります。

抱合(Conjugation)とは、異物や体内の代謝産物などに親水性の分子が付加される反応です。前回、ビリルビンは疎水性であるというお話をしましたが、このままでは水分を主成分とする尿などに排出することができません。

そこで、ビリルビンが抱合を受けることで、親水性になるのです。肝臓で受けるのは、グルクロン酸抱合になります。

グルクロン酸は、体内に多量に存在するグルコースが酸化されて生じる酸です。グルコースのヒドロキシメチル基が酸化されてカルボキシル基となります。ヒドロキシル基は水素イオンを放出できませんが、カルボキシル基は水素イオンを放出することで極性を獲得して、親水性となります。

ビリルビンに対するグルクロン酸抱合を媒介するのはグルクロニルトランスフェラーゼと呼ばれる酵素です。抱合を受ける前のビリルビンが間接ビリルビン、抱合を受けた後のビリルビンが直接ビリルビンと呼ばれます。

直接ビリルビンは、胆汁とともに胆道を通り、腸管内に移動します。

腸内細菌による直接ビリルビンの変換

腸管内に移動した直接ビリルビンは、腸管内に生きている腸内細菌に遭遇します。直接ビリルビンは、脱抱合や還元反応を腸内細菌が行うことで、ウロビリノーゲンと呼ばれる物質が生じます。

直接ビリルビンからウロビリノーゲンの反応を担うのは、Escherichia coliやStreptococcus faecalisなどの細菌であることが知られています1*。ウロビリノーゲンは、最後の修飾を経て便、尿中に排出されます。

参考文献

小腸・横行結腸吻合術例における空腸内細菌叢と尿中ウロビリノーゲン排出量との関係に関する研究(1978), 日本消化器病学会雑誌, 75, 9, 1322-1330.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/nisshoshi1964/75/9/75_9_1322/_article/-char/ja

便、そして尿へ

ウロビリノーゲンは更に、ステルコビリノーゲンに還元されます。ステルコビリノーゲンが酸化されることで、ステルコビリンになります。このステルコビリンこそが、便の色の元で茶色をしています

また、ウロビリノーゲンは腸管から再吸収されて門脈を通り、全身に戻ります。腎臓によって血中のウロビリノーゲンが回収され、尿中に排出されます。ここで、ウロビリノーゲン自体は酸化されてウロビリンにも変化します。ウロビリノーゲン自体に色はありませんが、ウロビリンには色があることから、尿に色がつくのです。

結論としては、便の色がステルコビリン、尿の色がウロビリンです。ここまで、赤血球から始まって、便と尿までの一連の流れを見てきました。その流れの中には、腸内細菌の働きがあることもお話しました。

血液、尿、便の色が1つの物質でつながっているというのは面白いですよね。

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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。


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