#186 Lacticaseibacillus caseiとはどのような腸内細菌なのか?

更新日: 2023/03/03

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現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠

今回のエピソードでは、プロバイオティクスとしても注目される乳酸菌のLacticaseibacillus casei (以下カゼイ菌)についてお話します。もともとの名前としては、 Lactobacillus caseiが使用されていましたが、Lactobacillus属に含まれる多様な細菌種の再分類をゲノムを元に行った2020年の研究で、Lacticaseibacillus casei が提案されています1)。この文献に則って、腸内細菌相談室でもLacticaseibacillus caseiと表記しました (カゼイ菌と呼ぶ点、あまり関係ありませんが)。 細かい話はおいておき、カゼイ菌の生態についてお話していきます!

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カゼイ菌の生態

カゼイ菌は、グラム陽性の通性嫌気性細菌であり、桿菌です2)。

カゼイ菌は、ヒトや動物の消化管、果物や野菜、ワイン、牛乳や肉など様々なところに存在する乳酸菌です3)。糖の発酵による代謝を行い、乳酸や関連代謝物を産生します。カゼイ菌には様々な株が知られていますが、日本人にとって馴染み深く有名なのはShirota株でしょう。Shirota株は、ヤクルトの創業者である代田稔医学博士の名前から来ていて、今もヤクルトのプロバイオティクスセクターを支えています。

カゼイ菌は、1890年にドイツのフロイデンライヒが、チーズに独特の風味を与える細菌として発見されたとされています4)。カゼイの語源は、ラテン語のチーズにあります4)。

カゼイ菌と免疫

カゼイ菌は、免疫機能に影響を与えることでマウスにおける腫瘍の発生を抑制することが報告されています5)。2008年に行われたヤクルト中央研究所による研究では、モデルマウスに対して3-メチルコラントレンを投与し腫瘍を発生しやすい状態にした後に、カゼイ菌を含んだ餌を与えたところ、腫瘍の抑制効果が確認されたとしています5)。その他の結果も総合して、カゼイ菌の腫瘍発生の抑制には樹状細胞が関与することを考察しています5)。

また、2006年の研究ではカゼイ菌が免疫細胞に対して影響を与え、ヒト末梢血単核細胞からのIL-10、IL-12、IFN-γ、TNF-αを分泌させることが分かっています6)。さらなる解析で、単球によりシロタ株が貪食されることで、サイトカインが分泌され、結果として特殊な自然免疫応答が起ることが分かっています6)。

カゼイ菌の機能や生態を精力的に調べているのはやはりヤクルトで、特にシロタ株については消化作用への耐性や腸内環境の改善効果が調査されています7)。

このように、ヒトの健康増進に期待があつまる乳酸菌が、カゼイ菌なのです。以上、Lacticaseibacillus caseiとはどのような腸内細菌なのかお話しました!

次回は、食中毒の原因となる細菌のClostridium perfringens、通称ウェルシュ菌についてお話します!

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参考文献

1) Zheng, Jinshui et al. “A taxonomic note on the genus Lactobacillus: Description of 23 novel genera, emended description of the genus Lactobacillus Beijerinck 1901, and union of Lactobacillaceae and Leuconostocaceae.” International journal of systematic and evolutionary microbiology vol. 70,4 (2020): 2782-2858. doi:10.1099/ijsem.0.004107

2) Michihiko HARADA, Jun AMANO, Obligate Anaerobic Lactobacillus Casei KJ686 Selectively Targets Solid Tumors and Exhibits an Antitumor Effect, 信州医学雑誌, 2015, 63 巻, 6 号, p. 375-384

3) Wuyts, Sander et al. “Large-Scale Phylogenomics of the Lactobacillus casei Group Highlights Taxonomic Inconsistencies and Reveals Novel Clade-Associated Features.” mSystems vol. 2,4 e00061-17. 22 Aug. 2017, doi:10.1128/mSystems.00061-17

4) ラクチカゼイバチルス カゼイ/パラカゼイ, 菌の図鑑, ヤクルト中央研究所, Access: 20230302, URL: https://institute.yakult.co.jp/bacteria/4242/

5) Takagi, Akimitsu et al. “Relationship between the in vitro response of dendritic cells to Lactobacillus and prevention of tumorigenesis in the mouse.” Journal of gastroenterology vol. 43,9 (2008): 661-9. doi:10.1007/s00535-008-2212-7

6) Shida, Kan et al. “Essential roles of monocytes in stimulating human peripheral blood mononuclear cells with Lactobacillus casei to produce cytokines and augment natural killer cell activity.” Clinical and vaccine immunology : CVI vol. 13,9 (2006): 997-1003. doi:10.1128/CVI.00076-06

7) シロタ株jp、Access: 20230302, URL: https://www.yakult.co.jp/shirota/about/


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