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現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠
今回のエピソードでは、大腸がん組織に検出される腸内細菌、F. nucleatumについてのお話をします。前回までに、大腸がんの発症や進展には遺伝的要因、家族性要因、環境要因が相互に関係することをお話してきました。そして、近年注目されているのが、遺伝的要因、家族性要因、環境要因と腸内細菌叢、腸内細菌叢と大腸がんの関係です。腸内細菌叢は、遺伝的要因、家族性要因、環境要因の影響を受けて変化し、私達の代謝とも密接に関係しています。今回のエピソードでは、大腸がん関連細菌として有名な、Fusobacterium nucleatumについてのお話をしていきます!
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今回注目するヌクレアタム菌は、口腔常在菌として知られています。つまり、多くの人の口の中に普通に確認されるような細菌です。そして、この細菌には接着性があることから、他の細菌とくっつくことで、独自の微小環境を形成することが知られています。そして、ヌクレアタム菌は、歯周炎関連菌としても知られており、炎症と関連があるのが特徴です。
2012年、Castellarinらの研究では、大腸がん患者において、正常な腸の組織と比較して、腫瘍となっているがん組織においてヌクレアタム菌が多く検出されることを見出しました。以後、他の研究でもヌクレアタム菌が大腸がんに関連するとされる知見が蓄積されています。
大腸がん患者でない人、つまり健常者にはほとんど検出されないヌクレアタム菌ですが、大腸がん患者には検出されてきます。では、ヌクレアタム菌はどこから来たのでしょうか。現在考えられている仮説は、口腔に常在するヌクレアタム菌が血流に侵入後に腸管に定着するという経路です。一時的な菌血症を経て、大腸に定着するという現象はマウスの実験によりAbedらが報告しています。
この仮説が正しく、かつヌクレアタムの大腸定着について主要な経路であるとするならば、口腔環境のケアが、大腸がんを含めた各種疾患の予防につながることになります。
他にも、がん抑制遺伝子に変異の入ったマウス実験において、マウスにヌクレアタム菌を投与することで大腸腺腫の増殖が促進することが示唆されています。これは、腸内細菌の定着が腫瘍形成を促進することの証拠の1つになっています。
また、別の実験でノトバイオートマウスに対してマウスにヌクレアタム菌を投与すると、炎症性サイトカインの増産やヘルパーT細胞の増加をもたらすことが示唆されており、炎症に関連することが示唆されています。これは、歯周炎関連細菌として知られるヌクレアタム菌であることを踏まえれば、納得の行く結果です。
このようにして、腸内細菌のヌクレアタム菌は、大腸がんの発症、進展に関連するのでは無いかということが疑われています。ここまで紹介した研究は、いずれもヌクレアタム菌と大腸がんのマクロな関係を説明しています。もう少し細かく、タンパク質などの観点からヌクレアタム菌に着目すると、大腸がんとヌクレアタム菌の、解像度の高い関係が見えてきます。
次回は、ヌクレアタム菌のタンパク質に着目した大腸がんとのお話をします!以上、大腸がん組織に頻繁に検出される腸内細菌、F. nucleatumについてのお話でした!
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Castellarin M, Warren RL, Freeman JD, Dreolini L, Krzywinski M, Strauss J, Barnes R, Watson P, Allen-Vercoe E, Moore RA, Holt RA., Fusobacterium nucleatum infection is prevalent in human colorectal carcinoma. Genome Res., 22(2), 299-306 (2012).
Wang P, Duan D, Zhou X, Li X, Yang J, Deng M, Xu Y., Relationship between expression of human gingival beta-defensins and levels of periodontopathogens in subgingival plaque. J Periodontal Res., 50(1), 113-22 (2015).
Chen Y, Huang Z, Tang Z, Huang Y, Huang M, Liu H, Ziebolz D, Schmalz G, Jia B, Zhao J., More Than Just a Periodontal Pathogen -the Research Progress on Fusobacterium nucleatum. Front Cell Infect Microbiol., 12, 815318 (2022).
Abed J, Maalouf N, Manson AL, Earl AM, Parhi L, Emgård JEM, Klutstein M, Tayeb S, Almogy G, Atlan KA, Chaushu S, Israeli E, Mandelboim O, Garrett WS, Bachrach G., Colon Cancer-Associated Fusobacterium nucleatum May Originate From the Oral Cavity and Reach Colon Tumors via the Circulatory System. Front Cell Infect Microbiol., 10, 400 (2020).
Brennan CA, Clay SL, Lavoie SL, Bae S, Lang JK, Fonseca-Pereira D, Rosinski KG, Ou N, Glickman JN, Garrett WS., Fusobacterium nucleatum drives a pro-inflammatory intestinal microenvironment through metabolite receptor-dependent modulation of IL-17 expression. Gut Microbes., 13(1), 1987780 (2021).