現役の腸内細菌研究者がお届けする、腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔がお届けします。
今回と次回は、身の回りに潜む疑問について、腸内細菌の観点から答えます。ズバリ、便が茶色く、尿が黄色いのは何故なのか。子供から「うんちはなんで茶色いの?」と聞かれたら、みなさんはどのようにして答えますか?例えば、「色々なご飯を食べることで色が混ざって茶色っぽくなる」のような回答が考えられるでしょう。確かに、腑に落ちる回答ですが、答えは違います。
とは言っても、事細かに伝えても子供には分かってもらえません。なので、次のように答えるのが正解です。
「血は赤いでしょう。血の赤い成分が、腸内細菌など色々な働きを経て茶色くなるんだよ」
実は、便の色も尿の色も、血液の色に由来しています。今回と次回にかけて、便の色、尿の色ができるまでのお話しを丁寧にしていきます。今回は、赤血球が分解されてビリルビンになり、アルブミンと出会うまでのお話をします。
この内容はポッドキャストでもお楽しみ頂けます。
https://open.spotify.com/episode/0mo13BvxaTGn8gMKM1QgGj
旅は赤血球(Erythrocyte)から始まります。赤血球は、血液中に含まれる細胞の1つであり、カラダ全身に酸素を運搬する役目があります。酸素を運搬するのは、赤血球に存在する成分、ヘモグロビンです。
ヘモグロビンは、四量体と呼ばれる4つの部位からなるタンパク質です。4つの部品のうち2つはα鎖、残り2つはβ鎖という構造を取り、それぞれがヘムという分子を持っています。4 つの部品はグロビンと呼ばれるタンパク質で、球状タンパクであることからこの名前がついています。グローブ(globe)とは、地球や野球グローブ、球などの球体を指す言葉なので、グロビンとは分かりやすい名前です。
ここまでの話で分かるように、ヘム+グロビンがヘモグロビンの正体です。
ヘムは、ポルフィリン錯体という大きな分子です。ポルフィリン錯体には、ヘムや光合成で活躍するクロロフィルが含まれます。ポルフィリン錯体とは、環状分子によって金属イオンが取り囲まれた構造をもち、有色の分子です。ヘモグロビンのもつヘムの場合、金属イオンとして鉄を取り囲んでいるのが特徴です。
このヘムとグロビンが協力するとで、酸素が運搬されていきます。酸素の運搬も面白い話ですが、ここではヘムに着目します。
赤血球は、ある程度古くなると脾臓のマクロファージと呼ばれる細胞の食作用で分解されます(赤血球の寿命は120日程度といわれています)。分解の過程で、ヘモグロビンはヘムとグロビンになります。ヘムは、取り囲んでいた鉄を放出します。鉄を放出したヘムは、環状構造をとっていた分子から環が開裂=ちぎれて別の分子になります。
この、ヘムにおけるポルフィリン錯体の環状構造がちぎれた分子をビリベルジンと呼びます。さらに、ビリベルジンは還元酵素による変換を受けてビリルビンと呼ばれる分子になります。赤血球が分解されてからビリルビンになるまでは、脾臓の中で完結します。
このヘム、ビリベルジン、ビリルビンの変換過程は、赤、青(緑)、黄の色彩変化に対応します*1。この色彩変化は、アザができたときに生じる色彩変化の原因なのです。つまり、アザができると血が貯まり、分解され、黄色く変色していくのです。
*1: 新生児黄疸の原因となる生体内の反応機構を世界で初めて解明, 50年以上に亘る謎を分子レベルで解き明かし、治療薬開発に手掛かり, ResOU, 2017, Accessed: 2022/09/22.
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2017/20170207_2
折角分解されてここまできたビリルビンですが、このままでは血液中を旅することはできません。なぜなら、ビリルビン自体には疎水性、つまり水との相性が悪いという性質があるためです。血液の主成分は水分であることから、ビリルビンは血液に溶けこむことができないのです。
ここで登場するのが、別のタンパク質、アルブミンです。あまり知られていませんが、アルブミンは血液中に最も多く存在するタンパク質です。アルブミン自体には、血管内の水を保持して血液の浸透圧を維持する機能や、金属イオンや脂肪酸、ビリルビンなど様々な物質と結合して、体中に運搬する機能があるのです。
アルブミン自体の分子表面には、親水性と疎水性の部位が存在することから、様々な物質を運搬し、また血液中に存在することができるのです。
ここまでに、アルブミンを介してビリルビンが血中を旅することが分かりました。次回は、肝臓、胆管、腸管を通り、ビリルビンの代謝産物が腸内細菌に出会い、便や尿の色素が生まれるまでをお話します。
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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。