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現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠
今回のエピソードでは、腸内細菌叢の変化に伴う不安行動の減少について調べた研究をご紹介します!腸内細菌叢と脳の活動は血流を介した物質循環や迷走神経型を介した神経伝達により対応しており、脳腸相関(or 腸脳相関)と呼ばれています。腸内細菌叢と神経変性疾患やうつ病などにも関係があることが、近年の研究では報告されており、腸が脳に影響を与えるというセンセーショナルなトピックから、盛んな研究が行われています。今回ご紹介するのは、三重大学発の2023年2月16日にFrontiers in Microbiologyにて公開された、"Paraburkholderia sabiae administration alters zebrafish anxiety-like behavior via gut microbial taurine metabolism"の研究です。
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今回のモデル生物として使用されたのは、ゼブラフィッシュです。ゼブラフィッシュは、脊椎動物のモデル生物として多用される魚類で、毒性試験に関連する研究でもよく見られます。
対象が魚となると、どのように不安行動を定義するのでしょうか。それは、遊泳の程度です。例えば、新しい水槽にゼブラフィッシュを移し替えると、水槽の底面で偏った遊泳をすることが明らかとなっており、不安行動の定量化手法として用いられています。行動観察により不安行動を評価する手法は、ゼブラフィッシュに限らずマウスなどの脊椎動物にも利用されています。
不安行動試験ではありませんが、室長は以前ミジンコ=微小甲殻類の一種を用いた遊泳阻害試験という、小さな生物の泳ぎから毒性を評価する試験を行っていました。忍耐が必要な試験でした。
本研究では、じっとゼブラフィッシュを見続けるわけではなく、カメラで遊泳の軌道を記録し、行動範囲を定量化することで不安行動の調査をしていきます。
今回登場する細菌は、あまり聞き慣れないParaburkholderia sabiae(サビア菌)という細菌です。sabiaeは、あるマメ科の植物のポルトガル語に由来していて1)、この植物の根の窒素固定部位から単離されたそうです。
サビア菌は昆虫からヒトまでの腸内に存在していることが知られていますが、詳細な働きについては調査されていませんでした。そこで、サビア菌を水槽に1ヶ月間投与し、その中でゼブラフィッシュを飼育しました。
飼育後に、新しい水槽へ移すことで不安行動の評価を行うとともに、腸内細菌叢の機能解析、脳における物質濃度の測定を行いました。
結果として、サビア菌を投与した水槽にて飼育されていたゼブラフィッシュについて、不安行動は軽減されたことが示唆され、腸内細菌の群集構造も変化していることが確認されました。腸内細菌叢の遺伝子機能を解析したところ、タウリンの代謝に関連する機能に変化が確認されたことから、脳内におけるタウリン濃度を調べた結果、濃度が対照区の3倍になるばかりか、タウリン合成遺伝子adoの発現量が有意に増加していることが確認されました。
今までに、リーキーガットに伴う抗原の血流への透過、炎症とうつ病の関係など、炎症に関連した脳腸相関はよく研究されてきました。今回の研究では、不安行動を抑制する観点から、腸内細菌とタウリンが脳腸相関に関係することが見いだされたことは、非常に興味深いです。
少し飛躍して捉えると、プロバイオティクスが、気分を変化させうることも可能性として考えられます。
脳腸相関についてゼブラフィッシュの実験を用いることで、エレガントに説明している興味深い研究成果でした!
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本日も一日、お疲れさまでした。
Ichikawa, Shunsuke et al. “Paraburkholderia sabiae administration alters zebrafish anxiety-like behavior via gut microbial taurine metabolism.” Frontiers in microbiology vol. 14 1079187. 16 Feb. 2023, doi:10.3389/fmicb.2023.1079187
1) LPSN.dsmz.de Species Paraburkholderia sabiae, Access: 20230308.
https://lpsn.dsmz.de/species/paraburkholderia-sabiae