#52 腸内環境炎症のバイオマーカー。カルプロテクチンとは?

更新日: 2022/10/13

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現役の腸内細菌研究者がお届けする、腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔がお届けします。

今回のテーマは、炎症性腸疾患の診断などに登場する便中のバイオマーカー、カルプロテクチンについて。バイオマーカーってそもそも何か、カルプロテクチンはどんなタンパク質で何を示すのかについてお話します!

この内容は、Podcastでもお楽しみ頂けます!

バイオマーカーとは

バイオマーカーとは、病気の有無や進行状況についての指標となる、生体に由来する物質を指します。つまり、ある病気についてのバイオマーカーが分かれば、内視鏡や手術に頼ることなく、採血や採便によって病状を把握することが可能です。

バイオマーカーに関する研究は活発で、測定する目的によって様々です。アルツハイマー病やストレス、疲労など多岐に渡るバイオマーカーが提案されています。

今回のテーマであるカルプロテクチンは、炎症性腸疾患に用いられるバイオマーカーです。炎症性腸疾患とは、次のような疾患を指します。

炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease:IBD)とは腸を中心とする消化管粘膜に炎症が生じる疾患です。原因が明らかなもの(特異的)として感染性腸炎や薬剤腸炎などもありますが、一般的には、原因不明(非特異的)とされる潰瘍性大腸炎(Ulcerative colitis:UC)とクローン病(Crohn's Disease:CD)の2つを総称して炎症性腸疾患(IBD)と呼んでいます。

IBDステーション、武田薬品工業株式会社
Access: 2022/10/13
https://www.ibdstation.jp/aboutibd/

腸管に炎症が起こる炎症性腸疾患では、下痢や腹痛、血便を伴い、寛解と増悪を繰り返すことで知られています。そして、炎症のバイオマーカーこそが、便中のカルプロテクチンなのです。

カルプロテクチンと好中球

カルプロテクチンとは?

カルプロテクチンは、カルシウム結合性のタンパク質です。免疫細胞の一種である好中球に含まれることで知られています。

カルプロテクチンは、S100タンパク質ファミリーに属する、ヘテロダイマーにより構成されるタンパク質です*1。S100タンパク質ファミリーに属するタンパク質は、細胞内のシグナル伝達などを担っているとされますが、その機能の多くは未解明とされています*2。S100のSは沈降係数、つまり遠心分離による沈降の程度を示す定数ではありません。中性硫酸アンモニウムに100%溶けることを示しています*3。

カルプロテクチンが、好中球に含まれることをお話しました。では、そもそも好中球とは何者なのでしょうか?

好中球とは?

好中球は、顆粒球の一種です。すなわち、骨髄から産生される造血幹細胞が分化されることで生じる白血球の一種となります。好中球に関する、国立がん研究センターの説明は以下の通りです。

白血球の中の顆粒球の一種であり、白血球全体の約45~75%を占め、強い貪食能力を持ち、細菌や真菌感染から体を守る主要な防御機構となっています。

好中球、がん情報サービス 用語集, 国立がん研究センター
Access: 2022/10/13
https://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/modal/kochukyu.html

造血幹細胞の分化について詳しいことは以前お話したので、気になる方はご参照下さい。

https://open.spotify.com/episode/2rDGhDV3CrS4qwASzEmxNe?si=faf1d638886b4624

好中球自体は、病原体や損傷、ケモカインを認識して病原体を取り込んで分解する他、サイトカインを産生することで免疫応答を活性化します。

ここで、1つ疑問が生じます。血中に普遍的に存在する好中球とそこに含まれるカルプロテクチン。なぜ、炎症性腸疾患の時に、便中に多量に含まれるのでしょうか。この疑問を解決するのは走化性です。

走化性という細胞移動性

先程のお話の通り、病原体や損傷、ケモカインなどを感知することで、病原体を取り込むことができます。しかし、これらの抗原やケモカインを認識するだけでは、病原体を取り込むことができませんよね。

ここで登場するのが走化性です。走化性とは、ある物質の存在を感知して、物質の濃度勾配方向に移動する性質です。例えば、細菌にとって栄養となる物質が濃い方向へ向かうことで、より効率的に栄養を摂取できますが、これも走化性の一種です。物質の濃度勾配が高い方向への誘引性の伴う走化性は正の走化性、反対に逃げる方向の忌避性の伴う走化性は負の走化性といいます。

炎症性腸疾患では、腸管にて炎症が起こります。炎症患部を認識した好中球は、そこへめがけて走化性による移動をします。患部に集まった一部の好中球は血管外に漏れ出し、組織の細菌などを貪食します。

ここで、血管から浸潤、あるいは潰瘍の出現による出血によって好中球とそこに含まれるカルプロテクチンが放出されます。これが、炎症性腸疾患によってカルプロテクチンが便中に豊富に含まれる理由です。

おわりに

今回は、カルプロテクチン、好中球、走化性の説明と、カルプロテクチンが炎症性腸疾患のバイオマーカーに用いられる利用をお話しました。身体へ負荷が少ないバイオマーカーの開発が、疾患の早期発見機会の増加などに繋がります。今後の研究に期待ですね!

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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。

参考文献

*1: V. Catalán et al. (2018), Chapter 8 - Inflammatory and Oxidative Stress Markers in Skeletal Muscle of Obese Subjects, Obesity, 2.10 Calprotectin.
*2: S100タンパク質ファミリー, 株式会社医学生物学研究所, Access: 2022/10/13, https://ruo.mbl.co.jp/bio/product/circulex/pickup/metabolic/s100.html.
*3:
S100タンパク質, 脳科学辞典, Access: 2022/10/13, https://bsd.neuroinf.jp/wiki/S100%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%91%E3%82%AF%E8%B3%AA

https://bsd.neuroinf.jp/wiki/S100%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%91%E3%82%AF%E8%B3%AA


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