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現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠
今回のエピソードでは、多孔質炭素材料を用いて、細菌の病原性を低下させるという研究事例をご紹介します。多孔質炭素材料とは、肉眼では見えないたくさんの穴=多孔質の細孔構造を保有する炭素材料で、活性炭も多孔質の炭素材料です。
多孔質の細孔構造があると、材料の体積に対しての表面積=比表面積が大きくなり、様々な物質をたくさん吸着できるようになります。例えば、多孔質材料に触媒をくっつける=担持することで、ある機能を獲得できる場合があります。これは、環境汚染物質の浄化などでも使われる技術ですが、本研究では細菌による病原性を低下させるためにこの材料を使っています。
本研究は、腸管出血性大腸菌 (Enterohemorrhagic Escherichia coli)について、志賀毒素やIII型分泌型EspA/EspBタンパク質を多孔質材料で吸着し、病原性を低下させることを狙います。
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本研究では多孔質の炭素材料を使用していますが、すでに認可されている慢性腎不全用の医薬品としてクレメジンが市販されています。クレメジンには、「石油系炭化水素由来の炭素微粒多孔質炭素を高温にて酸化及び還元処理して得た吸着炭」1)、要するに多孔質炭素材料を使っているのです。
この吸着剤は、インドールを吸着します。インドールは、腸内細菌によってトリプトファンから産生される物質ですが、これが肝臓に移行することで硫化インドールになり、腎臓を傷害します。クレメジンは、インドールを吸着することで、慢性腎不全を改善することを目的として服用されます。
この発想と同様に、本研究では炭素材料を病原性を発現する毒素の吸着に応用するのです。
本研究では、マクロポーラス酸化マグネシウムを炭素で被覆した上で、酸化マグネシウムを化学的な処理で取り除いて得られた多孔質の炭素材料、マクロポーラス酸化マグネシウム(MgO)鋳型炭素材料(MgOC150)を使用しています。
吸着試験の結果、MgOC150には病原性発現の原因となる志賀毒素およびIII型分泌型EspA/EspBタンパク質の吸着が確認されました。また、この吸着剤は腸管出血性大腸菌の増殖には影響を与えなかったことから、あくまでも毒性の低減に効果があります。
また、下痢を発症して腸管出血性大腸菌と同様のIII型分泌装置をもつCitrobacter rodentiumをマウスに感染させた上でMgOC150を投与したところ、感染マウスの生存期間が延長されることが確認されました。
さらに、MgOC150による抗菌剤の吸着性は抗菌剤に依存して変化し、β-ラクタム系、キノロン系、テトラサイクリン系、トリメトプリム/スルファメトキサゾール系の抗菌剤は吸着する一方でフォスフォマイシンとアミカシンは吸着されないことが明らかとなりました。
ここから、炭素吸着材料の新たな使い道として、抗菌剤との併用により腸管出血性大腸菌による感染症の新規化学療法の確立が考えられました。
抗菌剤だけでは太刀打ちできない細菌の出現に伴って、このような新規治療法の模索は極めて重要です。このような新しい発想の研究が今後も行われることを期待しています!
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Hirakawa, Hidetada et al. “A Macroporous Magnesium Oxide-Templated Carbon Adsorbs Shiga Toxins and Type III Secretory Proteins in Enterohemorrhagic Escherichia coli, Which Attenuates Virulence.” Frontiers in microbiology vol. 13 883689. 6 May. 2022, doi:10.3389/fmicb.2022.883689