#45 腸内環境における免疫応答と樹状細胞 Part2: 免疫細胞の分化

更新日: 2022/10/06

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現役の腸内細菌研究者がお届けする腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔がお届けします。

腸内環境における免疫応答について深堀りするため始まった本シリーズ。前回までに、免疫がヒトという個体、腸という器官において何故重要か迫ってきました。今回は、免疫細胞の分化と題して、免疫系の複雑性とその原因に迫ります。

この内容はPodcastでもお楽しみただけます。

免疫系の複雑性の一端

免疫系と推理小説

以前、免疫系は超複雑であると言及しました。では、その複雑性は何に起因するのか。それは、①免疫系を構成する細胞、物質の種類が非常に多いこと、②免疫機能の発現は多段階に渡ること、③免疫系は外部との相互作用を常に繰り返し更新されていることが原因です。

特に、①については免疫系を理解する上での要、いわば登場人物です。登場人物がいきなり沢山出てくると、頭が混乱します。推理小説では、登場人物の複雑な連関を整理するため、予め巻頭に施されています。

そこで、この記事でも推理小説にならって、免疫に関連する細胞の整理をしていきます。登場する切り口は、分化です。この点について、まずはおさえた上で話を進めます。

分化(Differentiation)

分化と聞くと、何が思い浮かぶでしょうか?何かが分かれることは文字から分かります(ややこしい)。生物学における分化とは、細胞形態および機能が分かれていくことを分化と呼びます。

良い例が受精卵です。私達ももとを正せば1つの卵子と1つの精子が合わさり、1つの受精卵=細胞から生じます。この細胞は、私たちの上皮細胞や神経細胞とは異なる性質を持っています。つまり、多分化能です。

受精卵の段階では、何の細胞として機能を果たすのか明確には決まっておらず、細胞分裂の段階で個々の細胞の役割が決定していきます。結果として、1つの細胞が私達の体のような複雑な個体になるのです。

これと同様に、免疫細胞達にも共通祖先となる幹細胞が存在し、そこから分化を経て樹状細胞やリンパ球などに変化を遂げます。では、その共通祖先から登場人物が生まれる過程を追っていきます。

免疫細胞はどこからやってきて、何になるのか

免疫細胞の幹細胞は、造血幹細胞 (hematopoietic stem cells)です。造血と名のつく通り、この時点では免疫細胞の幹細胞というよりも、血中に存在する細胞成分の幹細胞です。

造血幹細胞は、骨髄によって生じます。骨髄とは、骨の内部を構成する結合組織です。髄とは、中心といった意味があります。骨髄から生じた造血幹細胞は、自己複製=自分のコピーを作ることができます。

また、多分化能があるので、様々な細胞に姿を変えることができます。分化によって、造血幹細胞は、多段階の分化を経て白血球、赤血球、血小板となります。ここから、免疫系を考える上で重要な白血球を考えます。

白血球は、顆粒球、リンパ球、単球に分類される細胞群です。顆粒球には好中球、好酸球、好塩基球が含まれます。リンパ球にはT細胞やB細胞、NK細胞(サイコパスのような名前)が含まれます。単球は、未成熟樹状細胞を経て成熟樹状細胞となります。

では、具体的に造血幹細胞はどのようにしてリンパ球に分化するのでしょうか。これは、細胞によって異なるパスウェイを辿る点で一概に答えるのが難しい質問です。ここでは、免疫応答の強化や抑制に重要で、樹状細胞とも密接に関連するT細胞の分化について考えていきます。

T細胞の分化

造血幹細胞は、リンパ系前駆細胞になった後、T細胞に分化していきます。ここからは、分類の話をしていきます。分化では無いことに注意です。

T細胞は、細胞表面に存在するタンパク質によって3種類に分類できます。分類上重要になるのは、T細胞受容体です。T細胞受容体としては、αβ型糖タンパク質受容体、γδ型糖タンパク質をもつT細胞に分類できます。αβ型糖タンパク質受容体をもつT細胞は、CD4およびCD8糖タンパク質によって、さらに分類が可能です。

CDとは、Cluster of Differentiationを意味しており、細胞分類に使用される糖タンパク質です。CD4が発現している(CD4+(シングルポジティブ))とCD8が発現している(CD8+(シングルポジティブ))細胞にαβ型糖タンパク質をもつT細胞に分けられるのです。

まとめると、次のようにT細胞は分類できます。

  • αβ型糖タンパク質受容体とCD4+

  • αβ型糖タンパク質受容体とCD8+

  • γδ型糖タンパク質

ここまでは、T細胞がもつ細胞表面のタンパク質による分類のお話、つまり物質的な分類でした。では、時間的な分化について考えてみます。

未分化の造血幹細胞は、リンパ系前駆細胞となり、続いて胸腺に移動します。胸腺で、T細胞の分化が起こります。胸腺は英語でthymusですが、T細胞のTはここに由来しています。

胸腺にて、前述3種類の免疫細胞に分化していきます。しかし、この時点では、まだ分化は不完全です。ヘルパーT細胞や制御性T細胞のように、機能が定まっていないのです。この状態のT細胞のことをナイーブT細胞と呼びます。

ナイーブT細胞は、樹状細胞による抗原提示を受けることによって、具体的な機能の定まった免疫細胞に分化していくのです。免疫細胞の分化の旅はまだまだ続きます。

参考文献

T細胞の分化については、腸内細菌学会の以下のサイトが参考になります。

https://bifidus-fund.jp/keyword/kw045.shtml

おわりに

ここでは、T細胞の分化について概説しました。次回は、このシリーズのタイトルにも示した通り、樹状細胞の抗原提示機能に迫ります。

わからないこと、難しいこと、紹介してほしいことがあれば、TwitterやInstagram、Noteコメント欄にてメッセージお待ちしております。

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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。

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