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現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠
今回のエピソードでは、とある腸内細菌が免疫調節機能に貢献することを、有機化学の技術と細胞を使って明らかにした研究をご紹介します。とある細菌とは、#64でも登場した腸内細菌のAkkermansia muciniphila菌です。ここからは、ムチニフィラ菌と呼んでいきます。
ムチニフィラ菌は、ヒトが分泌するムチンと呼ばれる粘液成分を唯一の炭素源とする細菌で、成人における腸内細菌叢の優占種の1つとされています。今までにも、ムチニフィラ菌は炎症性腸疾患である潰瘍性大腸炎の患者腸内に少ないという報告があり、炎症には何らかの関連があるとされてきました。
今回紹介するBaeらの"Akkermansia muciniphila phospholipid induces homeostatic immune responses"という研究では、ムチニフィラ菌の免疫機能に与える影響を、分子レベルで調査していきます。
では早速、ムチニフィラ菌の影響についてご紹介します!
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まずは、細胞膜は何かから簡単にお話していきます。細胞膜は、リン脂質二重膜と呼ばれる、2層の分子膜により成り立っています。なぜ2層なのかについては、細胞膜を分子レベルで覗いてみる必要がありますが、少し長くなるので割愛します。
リン脂質というからには、リンを含んだ脂質が存在しているということになります。例えば、ホスファチジルグリセロールやカルジオリピンなどです。リン脂質二重膜に対して、膜タンパク質や糖脂質(リポポリサッカライド:Lipopolysaccharide: LPS)が刺さった状態で存在します。
細胞膜は、細胞の外界と内界を隔てる壁としての役割を果たします。つまり、細菌の細胞自体が外界と相互作用するとなったとき、必ず細胞膜が関与してくることになるのです。
今回主役のムチニフィラ菌においては、本研究にて細胞膜成分のジアシルホスファチジルエタノールアミン(以下、PE)が免疫応答に重要であることが分かりました。本研究では、PEがムチニフィラ菌の脂質二重膜の約50%を構成することが明らかとなっています。では、PEはどのようにして免疫応答に関与してくるのでしょうか。
今回重要であるとこが分かったPEは、限られた免疫応答のパスウェイにて免疫原性を発揮します。シグナル伝達には、ヒトの細胞側に存在する分子の受容体であるtoll様受容体が関係しています。
具体的には、2種類のtoll様受容体としてTLR1とTLR2が関与しており、これら2つの受容体がPEを挟むようにして分子へ配位します。2つの受容体によって、PEがカニ挟みになるのです。
ムチニフィラ菌に由来するこの分子は、面白いことに免疫原性としての活性が低く、また選択的に一部の炎症性サイトカインのみを誘導する機能があります。具体的にはTNFαやIL-6の放出は促進するが、IL-10やIL-12p70などの放出は促進していません。
また、有機合成によって得られた人工的なPEの投与によっても、サイトカイン分泌機能があることがわかりました。ここからPEが選択的な免疫原性を有することが証明されました。
今回紹介した研究から、ムチニフィラ菌が特殊な免疫応答を促すことが明らかとなりました。今後、炎症性腸疾患など免疫応答と密接に関与する疾患について、ムチニフィラ菌の影響が明らかとなれば、新しい治療法の開発が期待できるでしょう。
以上、ムチニフィラ菌の細胞膜成分が、免疫応答に与える影響についてお届けしました。
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Bae, M., Cassilly, C.D., Liu, X. et al. Akkermansia muciniphila phospholipid induces homeostatic immune responses. Nature 608, 168–173 (2022). https://doi.org/10.1038/s41586-022-04985-7