#92 機能性便秘と腸内細菌叢。Alistipes属菌が便秘の腸内には多い傾向。

更新日: 2022/11/22

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現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠

今回のエピソードは、機能性便秘と腸内細菌叢の関係を調査した観察研究の紹介です。腸内細菌叢が便秘と関係があることは、色々なところで言及されています。しかし、日本における研究結果ではない場合には、腸内細菌叢の国間の違いを含んでいる場合もあります。今回ご紹介するのは、Sugitaniらの"Mucosa-associated gut microbiome in Japanese patients with functional constipation"という研究です。この研究では、日本人を対象としている点、貴重な知見を与えてくれます。

まずは、機能性便秘とは何かを話した上で、研究内容に移ります!

このお話は、聴いて楽しむポッドキャストでも公開しております!ぜひ遊びに来てください!

https://open.spotify.com/show/5cg5yMYD7FA9NQSSbksEVx

機能性便秘とは何か?

機能性便秘とは、大腸の器質的変化、つまり損傷などは無いものの、排便機能障害がおこり、便秘となった状態であるとされています*。日本人において機能性便秘に悩む人は非常に多く、QOLを下げる要因になっています。

そこで、腸内における代謝と密接に関係する腸内細菌と便秘の関係が盛んに研究されています。

参考文献

*尾髙 健夫, I.慢性便秘の定義と分類, 日本内科学会雑誌, 2019, 108 巻, 1 号, p. 10-15

https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/108/1/108_10/_article/-char/ja/

大腸粘膜に付着する腸内細菌叢と便秘の関連調査

今回の研究では、15名の機能性便秘の男性、14名の健常な男性を対象としています。調査対象の平均年齢は、便秘群において71.4歳、健常群において69.0歳と高齢の方でした。便秘は、年齢が増加するごとに好発するため、日本における高齢者の便秘について、この研究は特に有用な知見を与えてくれることになります。

サンプルは、糞便ではなく、粘膜に付着する腸内細菌叢です。粘膜を拭き取ったサンプルについて16S rRNA遺伝子のアンプリコンシーケンシングを行うことで、腸内細菌叢の特定を行っていきます。

結果ととして、2群間においてα多様性尺度の差異は確認されませんでした。一方で、次元圧縮手法である主座標分析によると、2群間の腸内細菌叢は有意に異なることが確認されました。

相対存在量を比較すると、便秘群においてはStreptococcus,Fusobacterium,
Comamonas, Alistipes属菌が有意に多く、Acinetobacter, Oscillospilla, Mucispirillum, Propinibacterium, Anaerotruncusは有意に少ないという結果となりました。

続いて、腸内細菌叢のもつ遺伝子機能に着目すると、硫黄代謝、硫黄のリレー系、セレノ化合物についての代謝が有意に多く、D-アルギニン、D-オルニチン、フラボノイドの生合成についての代謝が有意に少ない結果となりました。

全体の総括として、機能性便秘の特徴はAlistipes属菌の存在量の水準が高いことであるとしています。

なぜAlistipes属菌なのか

今回注目されているAlistipes属菌は、環状構造のインドールをもつトリプトファン代謝をおこなうことができます。トリプトファンは最終的にセロトニンとなり、腸管の運動を促進するとされます。一方、別のトリプトファン代謝経路としてはキヌレニン経路と呼ばれる経路があり、こちらが優勢になるとトリプトファンの使用に対して競争的に働くことで、結果としてセロトニン生合成量が減少します。この代謝経路について深く調査をすることで、便秘とAlistipes属菌の関係がより明確になると、著者らは考えています。

何故硫黄の代謝経路が豊富に存在したかについては、まだ不明であるとのことでした。

今回のコホートは30人弱、高齢、男性であることから、偏りが大きいです。女性についてのコホートに関する研究も吟味した上で、便秘と腸内細菌叢の研究事例を整理することが重要です。

以上、機能性便秘と腸内細菌叢の関係について調査した観察研究のお話でした!

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本日も一日、お疲れさまでした。

参考文献

Yoshihiko Sugitani, Ryo Inoue, Osamu Inatomi, Atsushi Nishida, So Morishima, Takayuki Imai, Masahiro Kawahara, Yuji Naito, Akira Andoh, Mucosa-associated gut microbiome in Japanese patients with functional constipation, Journal of Clinical Biochemistry and Nutrition, 論文ID 20-93

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcbn/advpub/0/advpub_20-93/_article/-char/ja/

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