毎日夜19:30に更新中!腸内細菌相談室。
現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠
今週は、先日室長が参加してきました第96回日本細菌学会総会にて、興味深いと感じた研究をご紹介していきます!腸内細菌相談室で紹介する内容は、いずれも論文発表がされているものになりますので、どなたでもご確認出来ます。
日本細菌学会の歴史は古く、明治35年(1902年)に第1回日本医学会開催に端を発しており、日本細菌学会誌は1944年から刊行が続いています。100年以上の歴史の重みを持つ本学会では、国内の細菌学者が集い、幅広い研究成果を報告しています。第96回総会は、姫路にて開催されました。
今回のエピソードでは、口腔常在菌であり大腸がん関連菌として、腸内細菌相談室でも度々登場しているFusobacterium nuleatum菌(ヌクレアタム)のニッチなお話です。テーマはヌクレアタム菌亜種のバイオフィルム形成能力で、紹介するのは"Fusobacterium nucleatum Subspecies Differ in Biofilm Forming Ability in vitro"という2022年3月15日発行の論文となります。この論文は、ポスタープレゼンターの方に紹介してもらいました!
本記事の音声配信は、下のプレイヤーからお楽しみいただけます!
https://open.spotify.com/show/5cg5yMYD7FA9NQSSbksEVx
ヌクレアタム菌は、歯周炎に関連する口腔常在菌であり大腸がん関連菌として注目されています。ヌクレアタム菌については、過去にも詳しく解説しています。こちらを予め読んでおくと、今回の論文の内容が理解しやすいと思います。
https://note.com/chonai_saikin/n/nbf70c8a4495d
ヌクレアタム菌は、バイオフィルムと呼ばれる細菌および細菌代謝産物のコミュニティを形成することが知られています。バイオフィルムの形成は、感染症発症などの病原性に関与することが報告されており、ヌクレアタム菌においてはバイオフィルムである歯垢を形成し歯周炎を引き起こすことが考えられています。
Fusobacterium nucleatumは種の名前です。種の中にも細菌の多様性は存在しており、種より細かい生物の分類として亜種、株が存在します。F. nucleatum亜種には、nucleatum animalis, fusiforme, nucleatum, polymorphum, vincentiiの5種類の亜種が知られています。
今までに、ヌクレアタム亜種間でのバイオフィルム形成機能について比較した研究はありませんでした。本研究では、様々な基板、基質に対してヌクレアタム亜種のバイオフィルムを形成させ、形成能力や遺伝子機能を比較することで、バイオフィルム形成機能の多様性を調査していきます。
基板の種類はガラスとプラスチックです。基板のコーティング剤としては、無し、人工唾液、フィブロネクチン、ゼラチン、ポリ-L-リシンをそれぞれの基板に使用しています。また、ガラスについてはサンドブラストによる表面粗さを増大させることで変化するバイオフィルム形成を評価しています。
人工唾液を使うのは、交絡因子である抗菌ペプチドの影響を除去できるためとしています。ポリ-L-リシンは正電荷を帯びることで細菌と静電気的引力による相互作用を行い、バイオフィルムを有利にすすめることが考えられます。フィブロネクチンは、血漿や唾液に存在する糖タンパク質です。
このように、様々な環境におけるヌクレアタム菌亜種のバイオフィルム形成機能を評価していきます。
バイオフィルムの形成と遺伝子機能との関係は、走査型電子顕微鏡(SEM)、共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)、基板上のバイオマスのクリスタルバイオレット染色と吸光度による評価、遺伝子機能の有無や相同性について確認されています。
ガラス基板に対するバイオフィルム形成においては、サンドブラストによる表面粗さの増大、人工唾液やフィブロネクチン、ポリ-L-リシン、ゼラチンのコーティングによりバイオフィルム形成が促進されています。プラスチックにおいては、ヌクレアタム亜種nucleatumおよびvincentiiにおいて人工唾液がバイオフィルム形成に有用であることが示されています。
特筆すべきはヌクレアタム亜種Polymorphumのバイオフィルム形成機能の低さです。ガラス基板においてもプラスチックにおいても、またいずれのコーティングにおいてもヌクレアタム亜種Polymorphumの定着は極めて限定的でした。
そこで、亜種間の接着に関係する遺伝子の有無や相同性について確認したところ、ヌクレアタム亜種Polymorphumにおいてはヌクレアタム種に確認できる接着タンパク質の存在は確認されたものの相同性が低いことが示唆されました。遺伝子機能の系統樹においても、ヌクレアタム亜種PolymorphumのもつFap2やCmpAなどの接着タンパク質の系統は他の亜種が形成する遺伝子クレードとは異なる位置に存在することが示されました。
本研究が示唆するのは、細菌の病原性を論じる上で細菌種の解像度では見えないことが多いということです。細菌種以下にある亜種を考えることで、遺伝子機能の多様性を考慮して病原性に関連する細菌の特定につなげることが出来ます。
今後、細菌亜種や株による感染症を含めた疾患の理解が進むことを、細菌学会総会に参加していて感じました!
以上、Fusobacterium nucleatum亜種のバイオフィルム形成能力についてお話しました。
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また次回、お会いしましょう!
本日も一日、お疲れさまでした。
Muchova, Maria et al. “Fusobacterium nucleatum Subspecies Differ in Biofilm Forming Ability in vitro.” Frontiers in oral health vol. 3 853618. 15 Mar. 2022, doi:10.3389/froh.2022.853618