現役の腸内細菌研究者がお届けする、腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔がお届けします。
本日は、ファイトケミカルと腸内細菌の化学についてお話します。といっても、ファイトケミカルと聞いてもピンとこない方も多いと思います。
ファイトとは植物、ケミカルとは化学種を指していて、植物由来の機能性化合物を指します。イソフラボンやケルセチンと聞くと、少し馴染みがあるかもしれません。
ファイトケミカルは、肝臓保護作用や利尿作用など、私達の代謝にも影響を与えることが知られています。特に、ファイトケミカルを腸内細菌が代謝することによって生じる影響についてお話します。
本記事の内容は、noteフォロワーの生活圏安定協会の西出様からの質問をもとに構成しております。ご質問ありがとうございます!
この内容は、Podcastでもお楽しみ頂けます!
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ここでは、ファイトケミカルであるイソフラボンと腸内細菌の関係をまとめた論文を紹介します。ここで重要になるのは、配糖体とアグリコンです。
配糖体(グリコシド)とは、糖と別の分子が結合した化合物の総称です。ここでの糖をグリコン、分子をアグリコンと呼びます。
配糖体としては、アントシアニン配糖体やフラボノイド配糖体が有名です。ここで、配糖体における糖と分子を結びつけるのは、グリコシド結合というエーテル結合です。
配糖体の結合が分解され、アグリコンが生じることが、生理活性を生じる、考える上で重要です(参考:ヤクルト中央研究所)。
大豆イソフラボンは、大豆に含まれる配糖体です。大豆イソフラボンのアグリコンは、分子構造が女性ホルモンであるエストロゲンと構造が似ており、生理活性が似ていることから注目が集まりました。
腸内細菌による大豆イソフラボンの分解を調べるために、通性嫌気性細菌14種、偏性嫌気性細菌13種、好気性細菌2種を用います。通性嫌気性細菌の一部を紹介すると、Bifidobacterium adolescentis、Bifidobacterium longum、Lactobacillus acidophilus、Lactobacillus gasseri菌を使用します。偏性嫌気性細菌の一部を紹介すると、Bacteroides distasonis、Bacteroides fragilis、Bacteroides ovatus、Fusobacterium nucleatum、
Mitsuokella multacida菌を使用します。最後に好気性細菌はEscherichia coli、Klebsiella pneumoniaeが含まれます。
大豆イソフラボンの加水分解は、通性、偏性嫌気性によらず、分解する菌としない菌で顕著な差がでました。大豆イソフラボンの加水分解は、B. adolescentisやL. acidophilusなど多くの細菌が代謝可能であることが分かりました。また、大豆イソフラボンのアグリコンがさらに分解されたことで生じる化合物などは検出されませんでした。
以上より、大豆イソフラボンの代謝は、個人間の腸内細菌組成の影響を受けにくいということが示唆されました。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jim/26/4/26_223/_article/-char/ja/
金城 順英, 土橋 良太, 腸内細菌による配糖体の加水分解と代謝活性化, 腸内細菌学雑誌, 2012, 26 巻, 4 号, p. 223-233.
続いての配糖体はケルセチンです。ケルセチンは、玉ねぎやりんごなどに多く含まれるポリフェノールの一種です。田村先生らの報告によると、ケルセチン代謝と分解は、Clostridium orbiscindensが行っていると確認しています。
健常者から得た糞便サンプルについて、ケルセチンを含む培地にて糞便微生物を培養、得られたコロニーの同定を行います。得られたコロニーについて細菌種を調査した結果、Clostridium orbiscindensであることが分かりました。
また、ケルセチン分解代謝を抑制するポリフェノールとしてレスべラトロールの存在も確認しています。これは、レスベラトロールの摂取によってケルセチン分解が抑制されてケルセチンの吸収量が増加する可能性が示唆されました。
また、別の研究ではClostridium coccoideと血漿中ケルセチン代謝物の間に正の相関関係が確認されています。
Clostridium orbiscindens
https://www.jstage.jst.go.jp/article/fstr/23/1/23_145/_html/-char/en
Motoi Tamura, Yosuke Matsuo, Hiroyuki Nakagawa, Chigusa Hoshi, Sachiko Hori, Isolation of a Quercetin-metabolizing Bacterium 19 – 20 from Human Feces, Food Science and Technology Research, 2017, Volume 23, Issue 1, Pages 145-150.
Clostridium coccoide
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcbn/65/3/65_19-45/_article
Motoi Tamura, Hiroyuki Nakagawa, Sachiko Hori, Tadahiro Suzuki, Kazuhiro Hirayama, Plasma quercetin metabolites are affected by intestinal microbiota of human microbiota-associated mice fed with a quercetin-containing diet, Journal of Clinical Biochemistry and Nutrition, 2019, Volume 65, Issue 3, Pages 232-239.
今回は、イソフラボンとケルセチンと腸内細菌の例を紹介しました。配糖体の分解過程は、加水分解後のアグリコンがどのような影響を宿主に与えるのかという点も含めて重要です。
今後も、ファイトケミカル、配糖体と腸内細菌の代謝について、最新の研究を調査していきます!
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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。