#35 腸内細菌が重要なのはヒトだけではない。ミツバチの腸内細菌について。

更新日: 2022/09/26

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現役の腸内細菌研究者がお届けする腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔がお届けします。

本日は、ヒト以外の腸内細菌の例として、ミツバチを取り上げます。実は、ミツバチやシロアリなど、一部の昆虫についての腸内細菌研究が進められています。ミツバチの場合は腸内細菌叢がヒトとくらべて単純であり、また社会性昆虫である点からミツバチコロニーにおける細菌への理解が重要視されているためです。シロアリについては、腸内に多くの微生物を飼っており、セルロースの分解などを任せていることで知られています。

このように、ヒトだけではない多くの生物が、腸内細菌と密接に関係しているのです。今回は、ミツバチの腸内細菌の例から、生き物にとっての細菌の重要性について考えます。

この内容は、ポッドキャストでもお楽しみ頂けます。

https://open.spotify.com/episode/6pTBZFM0F9Q3pEJRTQrWX7

糖の消化を助けるミツバチの腸内細菌

アリゾナ州ツーソンにて1日間サンプリングした150匹の働き蜂について、DNAサンプルを得ました。このDNAサンプルに対して、系統組成解析、遺伝子機能解析を行っていきます。

系統組成解析の結果、プロテオバクテリア門のLactobacillus属菌やBifidobacterium属菌が優先する腸内細菌でした。腸内細菌叢全体では、6つの綱によって説明できるとされています。分類階級に関しては、#33で詳しく説明しています。

https://note.com/chonai_saikin/n/nac21a5e25c3e

ミツバチの腸内細菌と糖代謝

続いて、腸内細菌叢の機能解析の結果です。ここでは、比較対象として5種の哺乳類と4種の昆虫と比較した結果、72の遺伝子群について腸内環境で豊富に存在することが明らかとなりました。最も豊富に存在したのは炭水化物の代謝と輸送に関する代謝経路で、全体の20%を締めました。

この、炭水化物に関連する遺伝子群は、糖の代謝に関係するリン酸化酵素系の構成要素であり、この輸送系が充実していることはミツバチの食生活に対する腸内環境の適応の結果であることを示唆しています。

例えば、リン酸化酵素系はマンノースと呼ばれる糖の輸送体であり、幅広い糖に作用できることがしられています。マンノースやメリビオースなどの糖は、ハチが代謝できないかハチに対して毒性を示すことが知られており、腸内細菌が代わりに代謝することでミツバチを助けていることが示唆されました。

ミツバチの食生活としては花蜜やハチミツに由来する糖、花粉細胞壁に由来する糖など、様々な糖を摂取しています。これに応じて、腸内細菌叢の機能が獲得されているかもしれないということです。

ミツバチの腸内細菌と抗菌性の化合物

糖の代謝に関連する他の遺伝子群としては、アラビノース排出パーミアーゼの遺伝子群が豊富に存在することが分かりました。アラビノースとは植物に由来する糖の一種です。パーミアーゼとは、日本語では透過酵素といい、細胞膜上に存在することで物質の輸送に関連する酵素です。

アラビノース排出パーミアーゼも、糖を含めた様々な基質の取り込みや排出に関係しており、今回の調査では多様性に富むことが分かりました。特に、今回検出されたアラビノース排出パーミアーゼは、薬剤耐性菌排出ポンプと相同性が高いことが確認されました。

ハチミツには様々な抗菌性の化合物が含まれており、ミツバチ自身が作り出す場合もあれば植物に由来する場合もあるとされています。

このような抗菌性の化合物は、ミツバチの腸内細菌にとっては脅威ですから、アラビノース排出パーミアーゼの機能によって対応していることが考えられます。

ミツバチの腸内細菌と花粉について

ミツバチは、花粉などを食べることでも知られます。しかし、花粉の細胞壁を分解しなければ、ミツバチは花粉の栄養を利用することができません。

ここでは、植物の細胞壁を分解する遺伝子も検出されました。例えば、ペクチンという多糖類の分解に重要なペクチン酸リアーゼ、脱分岐酵素などが検出されました。この酵素の作用によって、花粉の資化が容易になることが示唆されました。

別のシナリオとして、ペクチンはミツバチにとって有毒であることが示唆されています。したがって、腸内細菌による分解を受けることでミツバチの中毒化を抑えることも考えられます。

細菌は敵ではない

ミツバチの研究から、昆虫にとっても腸内細菌が重要である例をお話してきました 。ヒトにとって腸内細菌が重要であることは言うまでもありません。

細菌というと、感染症や食中毒、不衛生などの悪いイメージが何かと付きがちです。しかし、細菌は敵ではなく、その多くはむしろ生物と良い関係を築いて生存しているのです。食中毒を発症する細菌の増殖は、コントロール可能であり、リスク管理を十分に行えば驚異ではありません。

ヒトと細菌の距離感を見直すことが重要であると、私は考えています。
以上、ミツバチとその腸内細菌に関するお話でした!

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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。

参考文献

https://www.pnas.org/doi/full/10.1073/pnas.1202970109

P. Engel et al. (2012), Functional diversity within the simple gut microbiota of the honey bee, PNAS, 109(27), 11002-11007.

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