現役の腸内細菌研究者がお届けする腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔です。
今回から数回に分けて、腸内環境における免疫応答と樹状細胞に関するお話をスタートします。腸内環境や腸内細菌を考える上で、免疫系は非常に重要なトピックです。では、免疫系とはそもそも何のためにあるのか、腸内環境において免疫系は何故重要なのか、この点に答えていきます。
この内容はポッドキャストでもお楽しみ頂けます。
まずは、免疫について考えてみましょう。漢字を分解してみると、疫を免れると読みます。疫とはすなわち感染症なので、感染症を免れるという意味です。では、感染症とは何でしょうか?農林水産省による定義を引用します。
つまり、本来はヒトなどに存在しない微生物が、そこに定着することで引き起こされる症状を感染症としています。外来の微生物がヒトに感染することは、何が良くないのでしょうか。
それは、ヒトなどの生物が本来持ちうる機能を微生物によって奪われたりすることです。例えば、大腸菌O157は産生する毒素によって生命が脅かされます。例えば、SARS-CoV-2=新型コロナウイルスへの感染によって、発熱や倦怠感、呼吸器障害が引き起こされます。
私達の身の回りには、上記のような私達への有害性に関わらず、数多くの微生物が生息しています。つまり、感染症への危険性に常に晒されていると言っても良いのです。晒されているというのは、皮膚など私達の見えるところから、口腔、鼻腔、食道という見えないところまで、至るところに微生物は侵入していきます。
皮膚の表面でのさばり、消化管にて闊歩する微生物。隙あらば体内に侵入してきてしまうほぼ0距離にいる微生物。できれば、カラダの中に入れたくは無いです。
そこで、生き物が発展させた仕組みこそが、免疫です。免疫を構成する細胞や物質とそのコミュニケーションを免疫系と呼び、免疫系の構築により得られる機能を免疫機能と呼びます。
免疫系は、複雑です。超複雑です。ですから、研究は未だに途上段階といえます。人間の生命維持に重要な免疫機能ですら、研究の最中なのです。
免疫系の複雑さは、免疫系を理解することの難しさを暗喩しています。
このシリーズでは、免疫系の中でも樹状細胞にフォーカスしてお話していきます。でもその前に、腸内環境と免疫系の関係が何故重要なのか見ていきましょう。
ここまでに、免疫系の重要性と複雑性に触れました。話してきたのは、ヒトという個体にとっての免疫系の重要性について。でも、それでは腸内細菌相談室で取り扱う意義が薄れてしまいます。
では、腸内環境という個体の中に存在するミクロな生態系と免疫系についてお話します。
腸内には、数-数十兆のオーダーで腸内細菌が存在します。腸内は、地球上で最も高密度に生物が存在するとさえ表現されます。では、免疫の観点から腸内環境を考えてみます。するとこれは、体内から排除するべき敵とも言える存在が、世界人口の数十倍の単位で大都市を形成していると見なせるのです。
本来であれば、強力な免疫応答が惹起されることによって、私達の日常生活は脅かされてしまいそうです。なぜなら、腸管は物質交換の中心であり、微生物に由来する抗原の雨が腸管を襲っているはずだからです。
でも、現実は違います。腸内細菌とは、多くの場合うまく協力しながら、超生命体を形成しているのです。超生命体の概念は、2000年にアメリカのJoshua Lederberg博士が提唱した、複数の生命が1つの個体を形成するという概念で、英語ではSuperorganismと表現されます。SFチックな名前ですが、現実に適応される概念です。
では、免疫はどこへいってしまったのか?そこで登場するのが免疫寛容です。私達の腸内では、特定の微生物に対しての免疫応答が起こらないように抑制される状況(=免疫寛容)が起こっています。一方で、別の微生物には免疫応答が働いたりします。
免疫応答と免疫寛容のフロンティアこそが、腸という器官なのです。
ここまでに、免疫系の重要性を見てきました。次回は、免疫系を構成する免疫細胞に迫ります。
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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。