現役の腸内細菌研究者がお届けする腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔がお届けします。
腸内環境を理解するための生物学について、基礎から応用までおさらいする本シリーズも第6回目に突入しました。前回までに、様々な機能をもつタンパク質が細胞の成り立ちの根幹を担っていることをお話してきました。今回は、タンパク質によって成り立つ細胞が集まってできる器官、腸についてのお話をしていきます。ここからは、高校生物の範囲を飛び越えて、解剖学の内容にも踏み込んでいきます。
まずは、細胞の分化からお話をしていきます。
このお話は、聴いて楽しむポッドキャストでも公開しております!ぜひ遊びに来てください!
https://open.spotify.com/show/5cg5yMYD7FA9NQSSbksEVx
前回の復習からお話を始めます。細胞には様々な細胞内小器官が存在しており、いずれもタンパク質の存在なくして機能するものはありませんでした。
ここで疑問が生じます。私達の体中の細胞はいずれも同じものなのでしょうか?とはいっても、この疑問が生じるには飛躍があるので少し補足します。
私達の体は、もとを正せば1つの細胞=受精卵でした。そこから細胞分裂によって、私達の体は形作られていきます。この過程では、ゲノムに対する遺伝情報の増加や減少はなく、基本的に同じゲノムが全ての細胞に分配されていきます。基本的に全ての細胞が有するゲノム=全ての遺伝情報は同じなのです。
一方で、私達の体の細胞は、器官ごとにかなり異なっているように見えます。単一のゲノムをもつにも関わらず、異なる細胞のように見えるのです。これは、単なる錯覚なのでしょうか。改めて問いを立てると、私達の体中の細胞はいずれも同じものなのでしょうか?
結論は、異なります。ゲノムは同じですが、細胞の性質は大きく異なってきます。1つの細胞=幹細胞が多様な細胞に変化していく過程を経て、私達の体は作られています。この過程を、分化(Differentiation)と呼びます。例えば、以前免疫系と腸内環境についてお話した際の、造血幹細胞からリンパ球になるまでの過程も分化です。具体例を交えてお話しているので、興味のある方は御覧ください。
https://note.com/chonai_saikin/n/n2612540eeea8
では、同じゲノムをもちながらにして、異なる機能を有する細胞が生じるのは何故でしょうか?キーワードは、遺伝子発現量です。
遺伝子発現量とは、DNAからmRNAへと遺伝情報が読み取られる量を指します。このプロセスについて詳しく見ていきましょう。
DNAは、ゲノムを記す物質的な媒体として存在します。ここに、RNAポリメラーゼと呼ばれる酵素が結合することで、mRNAへの遺伝情報の転写が行われます。転写されたmRNAがタンパク質に翻訳されることで、遺伝子の機能は細胞内で初めて機能する=発現するといってよいでしょう。
ここで、疑問としては、ゲノム全領域の遺伝子は、等しく転写および翻訳されているのでしょうか。つまり、全ての遺伝情報が、いつでも使われているかという問いです。結論としては、全ての遺伝情報は、必要な時に必要なだけ使われる仕組みになっています。この仕組みは、mRNAへの遺伝情報の転写の量を調節することで達成されます。mRNAへの転写が達成されなければ、翻訳は行われるわけもありません。
これが、遺伝子発現量調節の正体であり、分化した細胞が異なる仕組みをもつ点です。遺伝子発現量の調節には、オペロンによるフィードバックシステムや、エピゲノムの修飾による転写調節が存在します。要望があれば、別の機会でこれらについては説明しますが、いずれにせよ遺伝子の発現量を調節する仕組みがあるということが重要です。これによって細胞の多様性は成り立っています。
ここまでに1種類のゲノムをもつ細胞がどのように多様化するか見てきました。ここからは、細胞が集合することでできる器官についてのお話です。腸内細菌相談室なので、ここでは腸に注目します。
ここで、細胞が結合してから器官になる前に、組織となります。小さい順に並べると、細胞→組織→器官といった感じです。組織の定義は、がん情報サービスによると「ほぼ同一の機能と構造とを持つ細胞の集団のことです。」となっています。つまり、幹細胞が分化した上で同様の機能を持った細胞が、集団を形成して1つの機能を担うようになったものです。これが集まることで、腸が形成されます。
腸の機能を考える上では、小腸と大腸に分けて考えます。小腸の機能は、消化管上部から運ばれてきたものの栄養や水分を吸収すること、脂質やタンパク質、糖質などの消化をすることです。一方の大腸は、小腸から運ばれてきたものの水分を吸収し、便を形成することにあります。腸内細菌が豊富に存在するのは大腸で、ここで主に発酵が進みます。
では、腸の各部位の名称について説明します。胃で消化されたものが運び込まれてくるのが小腸です。小腸は、胃と十二指腸の境目である幽門から、小腸と大腸の境目である回盲弁までの消化管を指します。小腸は、胃から大腸に向かって、十二指腸、空調、回腸と名前が付けられています。小腸では、効率的な栄養および水分の吸収のために、ひだ構造と絨毛が存在し、200m2の広さをもつと言われています。腸管の微細な構造については次回、詳しく解説します。
続いて大腸です。大腸は、回盲弁から直腸までの消化管を指します。大腸の名称としては、回盲弁から順に、盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、そして直腸となります。結腸の部位ごとに、炎症性腸疾患の好発部位が異なったりします。また、回盲弁は、回腸と盲腸の間に存在する逆流防止弁であることから、この名前がついています。
急性虫垂炎、俗称では盲腸と呼ばれる激しい腹痛を伴う炎症は、盲腸にある虫垂と呼ばれる場所で起こる炎症です。虫垂は、行き止まりの管の構造をとり、リンパ組織が集中していて、腸内細菌叢や腸管の免疫系と関係することが近年明らかになってきました。
これが、腸の全貌です。肉眼で見えるスケールまでやってきましたね。
ここまでに、DNAから腸までの一連のお話をしてきました。でも、大切な要素について詳しくお話していません。それは、腸内細菌です。腸内細菌は、どのように腸管と関わってくるのか、この点について深ぼるには、もう少し別の角度から腸について眺める必要があります。
次回は、腸について詳しく解説するとともに、腸内細菌との関連についてもお話します。お楽しみに!
腸内細菌の分からないに答えるために、腸内細菌相談室は存在します!わからないこと、難しいこと、紹介してほしいことがあれば、TwitterやInstagram、Noteコメント欄にてメッセージお待ちしております。読んでほしい論文リクエストも待っています!
こちらがTwitterです!
https://twitter.com/chonai_saikin
インスタグラムはこちらです!
https://www.instagram.com/chonai_saikin
それでは、本日も一日、お疲れさまでした。