#97 納豆菌のネバネバ成分が与える脂質代謝と腸内細菌への影響。

更新日: 2022/11/27

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現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠

今回のエピソードでは、健康に良いとされる食品の1つである、納豆にまつわる腸内環境のお話です。納豆菌は、枯草菌=Bacillus subtilisに属す細菌の一種であり、ネバネバ成分を合成することで知られています。このネバネバ成分には、γポリグルタミン酸が含まれています。γポリグルタミン酸とは、グルタミン酸が高分子化=連続して結合してポリマーになった形の成分で、分解されるとアミノ酸になります。今回は、納豆菌が産生するポリグルタミン酸と、私達の脂質代謝、腸内細菌の関係についてお話していきます。このお話は、Tamuraらによる"Effects of a high-γ-polyglutamic acid-containing natto diet on liver lipids and cecal microbiota of adult female mice"という論文の報告を基盤としています。

では早速、納豆菌のネバネバ成分のパワーに迫りましょう!

このお話は、聴いて楽しむポッドキャストでも公開しております!ぜひ遊びに来てください!

https://open.spotify.com/show/5cg5yMYD7FA9NQSSbksEVx

健康食品、納豆!

納豆といえば、日本を代表する発酵食品ですよね。健康食品の文脈でしばしば取り上げられると思います。では、具体的には、私達の健康にどのように関与しているのでしょうか?

先行研究では、ネバネバ成分であるγポリグルタミン酸(以下:PGA)がメタボリックシンドロームや腸内細菌叢の変化、脂質代謝などに影響を与えることが示唆されています。

本研究では、PGAを多く含む納豆を作成することで、腸内細菌叢や肝臓の脂質について調査を行っていきます。研究グループの仮説としては、PGAが腸内細菌叢に影響を与え、それにより脂質代謝に影響が生まれるというものでした。

PGA豊富な食事と普通の食事をマウスへ投与

PGA豊富な食事は、タカノフーズ株式会社によって作られました。この納豆におけるPGA含有量は2.3%でした。この後、食事を与えるマウスが簡単に食べれるように、この食事に対して粉砕と濾過を行います。

今回の研究では、6週齢のSPF、雌マウスを使用しています。SPFとは、特定の病原性細菌が存在しないマウスで、厳密にコントロールされた環境で飼育されています。対照群、つまりPGA豊富な食事に対する比較群として、マウス・ラットを用いた栄養研究のための標準精製飼料を与えます。

それぞれの食事を与えたマウスに対して、糞便の採取、盲腸内容物の採取、肝臓や内臓脂肪の分析を行いました。

豊富なPGAを含む食事を取ったマウスでは肝臓中の脂質量や腸内細菌叢が変化する

豊富なPGAを含む食事を取ったマウスでは肝臓脂肪の量が少ない

まずは、肝臓脂肪についての結果です。2群比較の結果、肝臓中脂質量、肝臓の中性脂肪=トリグリセリド、コレステロールの全てにおいて、PGAを多く含む食事を取ったマウスにおいて少ないことが明らかとなりました。

糞便の分析結果

続いて、糞便の内容物についての比較を行います。調査の結果、PGAを多く含む食事を取ったマウスにおいて、糞便中の胆汁酸、脂質、短鎖脂肪酸の量が増加していることが分かりました。

また、腸内細菌叢を解析した結果、Firmicutes/Bacteroidetes比はPGAを多く含む食事を取ったマウスにおいて低いことが分かりました。Firmicutes/Bacteroidetes比は、先行研究より肥満や痩せ型の体型において変化がみられる指標であることが明らかとなっており、肥満だとFirmicutes/Bacteroidetes比が大きく成ることが明らかとなっています。つまり、今回の結果からポリグルタミン酸を多く含む食事は、Firmicutes/Bacteroidetes比で測ったときに痩せ型の腸内細菌叢になっているということです。

腸内細菌叢全体について、2つの食事を取ったマウス間で比較すると、主成分分析の結果から両者が異なることが示されました。細菌レベルでは、PGA豊富な食事を取ったマウスでは、Coriobacteriaceaeの相対存在量が有意に低いことが確認されました。先行研究では、マウスの肝臓中中性脂肪、グルコース、グリコーゲン濃度とCoriobacteriaceaeが厳密に関連していることが報告されており、今回の研究結果と一致しています。

結果のまとめ

今回の結果から、ポリグルタミン酸の摂取によって、肝臓の脂質量、腸内細菌叢が変化することが示唆されました。また、腸内細菌叢は、Firmicutes/Bacteroidetes比で測ったときに痩せ型の腸内細菌叢になっていました。

このことは、納豆の摂取が腸内細菌叢を変化させ、脂質代謝や糖代謝の機能が変化し、痩せ型に特徴的な腸内細菌叢になることを示唆しています。

また、特定の細菌の相対存在量が低く、この細菌は肝臓中脂質濃度との相関関係が確認されたことから、メタボリックシンドロームとの関連性も示唆されました。

著者らの結論としては、納豆に含まれるγ-PGAは、肝臓の脂質代謝の改善に有効であると考えています。また、これにより肝臓脂肪の蓄積がおさえられることで、非アルコール性脂肪性肝疾患の発症の予防に効果的であるともしています。

納豆が健康に良い、という表現から、少し具体的なことが言えそうです。つまり、納豆のネバネバ成分が腸内における脂肪の代謝を変化させ、結果として非アルコール性脂肪性肝疾患やメタボリックシンドロームなどに対して効果がありそうである、といった表現です。

今回は、納豆菌が作り出すネバネバ成分の、私達の腸内環境、脂質代謝への影響についてお話しました。#9では、納豆菌自体を食べることによる影響についてお話しているので、興味のある方は是非ご覧になって下さい!

https://note.com/chonai_saikin/n/n3994487c98e3

今回は、納豆のネバネバ成分が与える腸内細菌叢と脂質代謝への影響についてお届けしました!

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本日も一日、お疲れさまでした。

参考文献

Tamura M, Watanabe J, Hori S, Inose A, Kubo Y, Noguchi T, Nishikawa T, Ikezawa M, Araki R, Kobori M. Effects of a high-γ-polyglutamic acid-containing natto diet on liver lipids and cecal microbiota of adult female mice. Biosci Microbiota Food Health. 2021;40(4):176-185. doi: 10.12938/bmfh.2020-061. Epub 2021 May 11. PMID: 34631329; PMCID: PMC8484009.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8484009/

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